第7.5話 二人でお買い物(2)&幕開け


 四十分ほどかかり美術館へ到着。入館料はもちろん私持ち。所持金三十四万八千円から約、三十四万六千円まで減った。


「宝石はあの奥に展示されています。早く行きましょう!」


「ほらやっぱりはしゃいだ。美術品みようよ」


「今は宝石です」


 館内は走ってはいけないので歩幅を広げて歩く。宝石展にはおよそ五十個の宝石が並んでいる。美術館の薄暗い照明と計算されたライトの角度。太陽に翳した時も美しかったが、こちらもいい味を出している。


「おお!このアパタイトという宝石はブルーカラーが鮮やかですね!」


 館内は撮影厳禁。エクスは宝石の説明文メモにを写して絵に残している。手の動きが速い。


「このシトリンもうまく言い表せませんが綺麗です!」


「やっぱりこのダイヤモンドとか一般的で人気なのかな」


「はい、そうみたいですね。他にも素敵な色がありますが日常に馴染みやすいのでは?」


 たしかに指輪やネックレスに使われているのをよく見る。万人に合いそうな宝石。シンプルイズベストということだ。


「イリスはどんな宝石が好きですか?貴方に似合いそうな宝石は……タンザナイトだと思います!」


「あー、確かに透明感ある色は好きかも」


「髪色にも合ってますよ。中性的な顔立ちということもありますし、透明感ある色がお似合いです」


 勝手な見解だが、朝に合う宝石と夜に合う宝石がある。私的には月に合う宝石が良い。エクスが選んだタンザナイトは夜の海のような美しさを持つ。


 夜と海と月という構成は想像しただけで惹き込まれそうになる。怪盗も夜に活動するので丁度いいだろう。


「エスクに似合う宝石は……ふふっ、タンザナイト?」


「なんでちょっと笑ってるんですか」


「いやこれが意外に思いつかなくてね?ふっ……もうダメ、笑っていいかなぁ?」


「もぉぉぉぉ!!イリス!こっちまで笑ってしまうじゃないですか!」


「一緒に笑おう?」


 二人で必死に笑い声を抑えながら笑う。二人の笑い声が静かな美術館に小さく響く。


「お土産買いましょうか」


「そうしよっか」


 二人でお土産屋へ。エクスが選んだものはタンザナイトのピアス。


「あなたが似合うと言ったので、これを買います」


「私は……アメシストのピアスかな」


「二つセットじゃないっぽいので、片方あなたがタンザナイトのピアスをつけません?」


 相性はそこそこと言ったところだろうか。互いのピアスをつけるということに意味がある。


「分かった、片方ずつ付けよう」


「決まりですね」


 お会計を済ませた。そこそこ値がはったので所持金が一気に減る。ピアスをその場で身に着けた。結局、美術品を見ずに美術館を出た。


「そろそろショッピングモールが開く時間です。何からしたいですか?」


「日用品とか、服とか買いたいな。今の格好じゃ少し恥ずかしい……」


 今の格好はパーカーにスパッツと軽装のままだ。


「生足触り放題ですね!」


 いきなり変態発言を突っ込んでくる。外で変態発言をする様な奴だとは思ってなかった。


「はやく行くよ」


 服屋に向かう。そういえば干していた服が乾いていたはずだが、見事に着替え忘れた。これで服を買えば三着になり、着まわせるようになる。


「おしゃれな服あるかな」


「家でも着れる服を選んだらどうです?」


「寝る時はどうせ裸だし、いいんだよ。何でも」


 寝返りをよくうつので着ている服がずれる。布団も暖かいので朝の冷え込みも気にならない。


「風邪ひかない様にしてくださいね。寒暖差が激しいですから」


「気をつけてる」


 服屋に到着し服を何着か取って試着室へ。


「これはどう?」


 一着目は半袖パーカーに半ズボン。ラフな格好。


「似合ってます」


「次、これは?」


 二着目は執事服。ボロタイが似合っている。


「カッコいいですよ」


「そう、これは?」


 三着目はオフショルにスカート。


「女の子してますね。夏って感じがします」


「パーカーもいいけどなぁ……他の服もいいな」


「思い切って決断しましょう」


 迷いを捨てて半袖パーカーと半ズボンを選択。出費を抑えた。思えば怪盗以外はほとんど家にいる。迷う必要もなかったかもしれない。


「結局服装はあまり変わらないね……」


「良いではないですか、気を使わなくて」


何でも良いと言ったがあまり納得はいっていない


「今度、クローゼットに良い服あったら持って行きますね」



              *



 その後も適当にショッピングモール内を歩き回った。ゲームセンター、書店、カフェ、電気屋。実を言うと宝石を見て、ピアスを買っただけでだいぶ満足していたので他のところではあまりお金を使わなかった。それでも所持金は三十万近くまで減っている。


「だいぶ遊び倒しましたね……疲れました。帰りましょう」


 モールを出て歩き始める。


「色々見てみたけど欲しいものあった?」


「無いと言えば嘘になりますが、思い出だけで十分満足しましたよ。お揃いの物を付けられて嬉しいです」


「良い女だ、頭わしゃわしゃしたろう!」


 そういってエクスの頭を強めに撫で始める。抵抗することはなく目を細めて気持ちよさそうにしている。


 突然ショッピングモールの外壁についている大型のビジョンが別の映像に切り替わる。そこには仮面をつけた変人が映っていた。辺りを見回すと、ショッピングモール以外のところも別の映像に切り替わっている。完全にジャックされているだった。


「ハーイ、皆さんご機嫌様!私は誰なのか知りたい人もいるでしょうがそれは後回し」


「主催者……こんなところで何やってんだ」


 聞き覚えのある声と喋り方。映っているのは主催者だった。四件のうちのもう一人が判明する。


「役者は揃いました。それでは戯曲を始めましょう!これから始まるのは怪盗バトルです!開催は明後日、参加する怪盗は是非私の元へ」


 この世界では普通に怪盗をすると思っていたがそうでは無い。お宝を奪い合う怪盗バトル。この世界に来たのきっかけも怪盗バトルだ。


「参加料は……宝石三個にしましょうか!実力がなければ面白く無いですからねぇ……。それでは開催をお待ちください。グッバイ!」


 嵐の様に去っていった。開催は明後日。戯曲というのは参加のために必要な宝石、一人三個が美術館などから奪われることを指しているのだろう。


「エクス、始まるよ。怪盗バトルが……そして大怪盗にもう一度なるチャンスが!」


「波乱が起きそうですね、鳥肌が立ちます。血が騒いできました」


 こうして主催者により怪盗バトルの開催が宣言された。


 怪盗バトルの幕開けである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る