第5話 闘争と再会


 組事務所へ行く準備をする。と言っても剣とナイフを装備し直すだけ。


 何時間で終わるのか不明だが帰ってきた時ご飯を食べる為、炊飯器に米と水をセットして炊飯開始のボタンを押す。米が炊き上がるのは一時間後。それが目安。


「カメラと門番と見張りが多いんだっけ……ミスしたら即死亡?」


 本当は建物の内部を知り尽くして、侵入ルートと退路を確保してから盗りに入る。今回は緊急なのでそんなことしている時余裕はない。


 作戦はこうだ。


 組事務所を襲撃。混乱に乗じて邪魔者を伸す。武器庫へ武器を取りに行ったところを袋の鼠にして叩く。武器をありったけ奪う。成功率は八十パーセントと見積もっていいだろう。


 鍵も閉めずに家を飛び出す。


 快足を飛ばして先を急ぐ。目的地まで五分はかかる。仮面は着用済みだ。


 怪盗ルールその一、姿は見られても顔は見られるな。これは鉄則だ。顔を見られればすぐに足がつく可能性がある。捕まってしまえば全てお終い。


「あっ、やばっ」


 カメラは街中の至る所についている。気がつくのに少し遅れた。


「三台以上には姿が映ったか?この事件を起こせば警察は動く?だとしたらここは捜査範囲内になるかな……」


 ルートを地上から建物の上へ。建物から建物へと飛び移っていく。近くにあった電波塔へ登る。物凄いスピードで重力に逆らった様な登り方をしている。ある程度登ったところで街を見渡す。組事務所は三キロ先で、目立つ建物とはいえ住宅街なので、豪邸としか思えない。


「あった!あそこか」


 一ヘクタールの敷地内に大きな和風の平屋。単独で攻め落とすのには無理がある。かといってゆっくりは攻めていられない。自分が袋の鼠になってしまう。


「どうやって攻め込む……」


 なんせ広いので立てた作戦が役に立つかどうか、イマイチなところ。


「これしかないよね……きっと」

       

 電波塔から降り、家の屋根に飛び乗り、快足を飛ばす。


 組事務所に着き、組事務所の屋根へ静かに飛び乗る。入り口は一つで門番は二人。大した数ではない。


「騒ぎを知られる前に無力化させようか」


 素早く背後に移動し、首を打つ。あっさりと気絶させることに成功した。本番はこれからだ。攻め込む為の作戦は、爆薬で一カ所を爆破、煙幕を大量に投げ込んで燻り出す。そうすれば武器を持って身を守る筈だ。


 雲が月を隠した瞬間に爆破。轟音と共に閑静な住宅街の静寂が破壊された。


 細かいことを気にしていなかった。街の人たちが、爆破音で家から出てきてしまっている。音がした方向を探しているようだ。タイムリミットが早まった。


 急いで煙幕を投下していく。失敗した。燻り出すのは時間がかかる。完全に逆効果。爆破で穴が空いた所から自分も事務所へ乗り込み着地する。


 侵入後に一人組員を発見し、首を掴み壁に叩きつけた。


「武器がある場所を言って、早く!」


 喉元へナイフを突きつけ脅す。ナイフとはいえど、形は鉄工ヤスリのような形状をしていて、重量もあり突かれたら間違いなく抉れる。


「誰が言うかよ。頭おかしいのか?」


 当たり前の返答がされる。


「わかった。手足を切って喉を抉る。言うならやめる」


「蔵だ、蔵に武器がある……勝手に探せ」


 自分は怪盗なのに何故こんな、人殺しみたいなことを言っているんだ、と思考が巡る。脅しにしても酷い内容だ。残虐が過ぎる。


 流石に本気だと伝わったようで、あっさりと吐いてくれた。とにかく速く武器を回収しなければならない。


 襲撃前に確認できた蔵は一二戸。一袋に詰め込めるだけ詰め込む。タイムリミットもせいぜい三分くらい。ここで外から蔵へ行くのは得策ではない。


「厄介なやつだけはお断り!」


 すると、いきなり周りの足音が止む。罠だと気付かずに数歩踏み込んだ。次の瞬間、数回正面から銃声が鳴る。反射で避けたが一発、右腕に弾丸が沈み混んでいった。


「ぐぅっ!」


「当たったみてぇだなぁ」


 慣れない痛みに声を漏らす。当たり所が悪かったのか、腕に力が入りにくくなっていた。


「ネズミが一匹入ったか。そして今、罠にかかりやがった」


 判断ミスの結果、最悪な事態を招いた。


「誰だ……?」


「俺は……そうだな、次期頭なもんでね、失敗するとオシャカって訳。おとなしく死んでくれないと困る」


 遭遇したのは次期頭。頭が切れる上に身体能力も高い。相手が悪かった。この時点で選択肢は二つに絞られていた。一つ目は、武器を優先すること、二つ目は応戦すること。だが手負い。良くも悪くもすぐに片がつく。選択肢は二つに一つ。


「次期頭になれるといいね」


「流石ネズミ。逃げ足は速いな」


 もと来た道を引き返す。別ルートで蔵を目指すことに決めた。以前、足音は止まったまま。次こそは本当に終わる。


 蔵に到着し適当に蔵を開け放つ。だがそこに武器は無かった。予想外の事態に戸惑う。全てが武器庫だと思い込んでいた。一つ目の蔵は只の物置き。いよいよ余裕がなくなってきた。タイムリミットも一分半を切ってしまった。


 次々と重い蔵の扉を、腰を入れて押し開く。


「あった!」


 蔵三戸目ににしてようやく武器を発見した。弾薬と武器を袋に詰め込んだ。人目につかないように煙幕を焚き、ひたすら逃げる。入り組んだ複雑なルートを通って次期頭を撒くことができた。


 またまた路地裏へに入り、安堵の息を吐く。この世界に慣れ親しんだ場所がないため、路地裏が唯一の休憩スポットとなっていた。


「何安心してんだ?死ぬのが怖くなくなったのか? ハッ!笑わせてくれるね」


 背後から先ほど聞いた声が聞こえてきた。背筋が凍り、肩を震わせる。恐怖と驚きの震え。逃げられていなかった。


 ここで戦わなければ死ぬことになる。背中にある剣を強く握った。


「この距離だ。銃の方が速いに決まってんだろ?」


「関係ない」


 素早く振り向き無謀にも剣を前へ、敵に向かって腕を伸ばす。剣は銃口を掠め、相手の頭の横を抜けていった。また弾丸が発射される。流石に凍の距離では反応することも難しい。まだ死ねないと身体は分かっているのに、頭の中では無慈悲にも走馬灯が流れていた。


 刹那、上から剣が降る。剣は弾丸を真っ二つにして地面に突き刺さった。


「やっぱり、無謀を押し返そうとする愚かな人」


「またネズミか――」


 言葉が途切れ、次期頭が地に伏す。


 聞き覚えのある冷たい声。上から降ってきた二本の処刑人の剣。これは間違いなく相棒の剣だった。


「エクス!」


 このエクス。エクス・ダスティ・フォードこそがあちらの世界で一緒に怪盗をしていた人物だ。


「勝手にどこかへ行ったと思えばこんな所に。イリステン・バレンシアもといご主人様」


 呼び方が統一されない。


「助けてくれてありがとう!」


「とりあえずそいつには即効性の麻酔針を刺しておいたので直ぐには起きませんよ」


 彼女は少し頬を膨らませ、冷たい態度を取った。まったく可愛い生き物だ。


「あなたがいなくなったら私はどうやって生きればいいんですか?次は置いていかないと約束してください」


 態度も声も冷たくて、それでいて可愛い寂しがり屋さん。捨て猫の様だった。


「わかったから落ち着いて、ね?お家に帰ろう?」


 約束を軽く流して帰宅を提案する。


 この世界に来て、私みたいに名前があるのかも気になった。積もる話とまではいかないが、この世界に来た理由も知りたい。


「帰りましょうか。家に」


 エクスに着いて行き、来たルートとは別のルートを走っていく。無言でエクスは走り続け、数分後に見覚えのある場所へ帰ってきた。


「つきました。家です」


 耳を疑う発言を耳にして咄嗟に身構える。


「ここが家なの?」


「はい、ここが家です」


「部屋番は?」


「五三五零号室です」


 まさかのお隣さんで、貞操の危機を感じた私はすぐさまを勢いよくドアを閉め、家に籠った。

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