第4話 一日の終わりと自堕落な生活

 

 目的地に到着。少し大きめの家だ。入り口は二つ。外から見る限りだと、門を潜って階段を登ると左右にドアがあるという感じだ。


 それでは家へ。


 こういう所の入り口には郵便受けがあると思っていたが、実際はイタズラ防止という理由で設置されていなかった。


 郵便受けを見れば「舞月」と書いてあるという予想に反し、そもそも郵便受けがない。階段を登って表札を見ればいい話なのだが、せっかくなので一発で当てたい。


 ヒントは部屋番号のみ。左が五一一零号室。右が五三五零号室。体が左の部屋に引っ張られる感じがして、直感を信じて左の部屋を選択し、階段を登る。


 選択した部屋には「舞月」という表札が付いていた。


 ゆっくりとドアを開ける。鍵は掛かっていない。見て回ると六畳の部屋が二つ、一二畳の居間が一つに、トイレとお風呂。そして広めのキッチン。一部屋一部屋ドアを開けて行くが、あるのは照明だけで家具は一つもない。


 当然と言えば当然かもしれないが。炊飯器を買っておいて正解だった。居間に一つだけ布団が敷いてある。床で寝ても問題はないが無いよりはマシ。今はちょうど夜六時で、夜ご飯時。またコンビニへ行こうと思ったが、二食続けての偏食は避けたい。


 あちらの世界では野宿をしたり、適当な廃墟に住み、怪盗をしていた。森に足を運べばキノコが生えていたり、廃村の畑には食べられそうな野菜が生っていたり。知恵さえ身につければ自然は見方をしてくれる。あれもこれも生き抜くための術。


 偏食を避ける理由として、第一に力が出ないという理由がある。食文化の違いに体がついていけないということはない。


 考えているうちに行く気力も無くなってしまったので、お風呂に入って寝ることにした。


 新しいことばかりで疲れてしまった。持ってきた武器を立て掛けて、衣服を脱いでいく。改めて自分の体を触ってみるが、やはりスベスベとしている。


 程よく筋肉質でもちもちしている。そして運動しても疲れにくい、いい体だと自分でも思う。床や、土の上で寝る時によく腕枕をして眠っていた。


 そろそろシャワーを使おう。


 あちらの世界でもシャワーは存在していた。お湯を沢山焚いてポンプ式でお湯を汲み出す。全自動化すると、手動の楽しさを思い出す。忘れたくない感覚。


「この静けさは相棒に出会う前と変わらないね」


 相棒と一緒に怪盗をした時間は人生の十分の一にも満たないが、一人の時よりは楽しかった。だが今は、一人の方がリラックスできる。休める時に休んでおこう。


 一人の空間にシャワーの音だけが響く。


 しばらくシャワーを浴びて考え事をする。替えの服は生憎だが持っていない。あるのは備え付けのタオル二枚だけ。


 数秒の思考の末、先に着ていた服を手洗いすることに決めた。タオルを使う前ならいくら濡れてもいい。幸い服は薄いのですぐ乾く。水をつけながら押し洗いをする。上着、パンツ、肌着諸々。体を拭いて風呂を出る。服と立て掛けてある武器を抱えて居間へ。


 ベランダに出て見ると物干し竿がかかっていたので、服を掛けておいた。陽は落ちていて涼しい。特に窓のレールの上に立っていると冷気が入り込んでくるのが分かる。窓と網戸は閉めずに布団へ潜る。ものの数分で眠気が襲ってきた。眠くなってきたところで一日を振り返る。


 異世界、宝石、お金、名前、異世界初食事、松井さん。


 振り返ると今日一日、沢山の出来事があって充実した一日だった。一日の終わりを大切にしながら眠るのも久しい。そう考えながら月明かりの元に深い眠りへと落ちていった



               *



 朝、目が覚めて勢いよく起きる。


 ベランダに出てパンツを履く。そのまま身を乗り出して、朝日を見ながら鼻から大きく息を吸った。朝の冷気と登り切る前の太陽、眠気覚ましには持ってこいだ。


 服を取り込んでそのまま着る。武器も装備し直してコンビニへ。缶コーヒーとスパッツとパンを買って食べながら帰宅する。千二百円ほどなくなった。


 そして家についてからスマホに魔法のカード五万円分をチャージした。朝九時くらいに松井さんが来る。それまでに漫画を沢山読んでおきたい。


 漫画アプリは利用規約に同意するだけで簡単に読めてしまう。初めてなので規約違反をしないように十分かけて全てを読む。普通にマンガを読んでいたら問題ないものばかり。即座にコイン購入画面へ。


「何から読もうかねぇ」


 童話を元にした世界観二重丸なマンガか恋愛マンガか青春群青劇か、あるいは異世界物か。


「自分にも縁がある異世界ものをみよう!特に世界観が気になるな」


 どこに異世界要素が絡むのか、自分みたいに異世界に来るのか。大半が「異世界」とタイトルやタグに書いてあるだけで種類が判別できない


「軍資金はある。十冊買って大体の種類を当ててやるぜ……」


 一話を読めば大体内容がわかるだろう。早速一冊目を購入。


「主人公が事故死して異世界に行くんだね。魂は神様経由で異世界へ……か。」


 一冊目は事故死で異世界転生。


「あっちの世界では、死ぬと魂が肉体を離れることにより縛りがなくなり自由になれる……だったかな。行き先は天国か地獄か」


 迷信でも別の世界へ行けると思って試した人たちは、ことごとく罰せられてきた。それからというもの、迷信や本までが規制されるようになった。異世界と言えど割と普通の国。


 意外と現実と比較して読むのが楽しい。ツッコミを入れるたびに楽しくなって笑う。異世界に現代の機械を持ち込んで好き放題やったりとなんでもアリな状態。


「間違いなく、あっちの世界でやったら捕まる。ぜっっったい捕まる。誑かした罪?集団洗脳?異文化持ち込みで捕まるのは面白そう!」


 檻の中の生活。待っているのは拷問と人間以下の扱いをされる日々。いくら疲弊しようがお構いなしの肉体労働。


「俺つえぇ……?異世界に行ったら最強になるのか」


 正直な所、あちらの世界では転生して強くなればいいが召喚して強い者が来るとは限らないので。魔獣召喚の方が使われる回数が多い。



               *



 読み終えた十冊中、五冊が事故死や死亡による異世界転生。二冊が召喚、三冊が転移。


「私は異世界に通じるゲートを通ってきたわけだから、異世界転移になるか……この世界だと逆転移だよね」


 最終的にした異世界の行き方への結論付け。


「転生は新しく生を受ける、召喚はいきなり異世界に連れて来られる、転移は自分で異世界に行ける!?」


 一つだけ強すぎる!と爆笑。そんなことをしているうちに呼び鈴が鳴る。松井さんが炊飯器とモニターとゲーム機を運んできてくれた。


「お品物持ってきましたよー」


 慌ててドアを開ける。炊飯器とモニターとゲーム機が見える。


「松井さん、ありがとうございます!」


 残り半日はゲームをしよう。暫く自堕落な生活を送ろうと思おう。


「ゲーム機は買ってましたけど、ソフトがなかったので二本プレゼントしておきますね。それでは良い一日を!」


 お礼をする間もなく松井さんがいなくなった。一本目のゲームソフトはレースゲーム、二本目のソフトは通信して遊べるシミュレーションゲーム。


 この世界に来て話した人は、おじさん、松井さん、警官の三人だけ。他の人とも交流するのも悪く無い。そう思い、ゲームの設定をサクッと終わらせた。モニターとゲーム機を壁際に直置きして、後ろの壁に炊飯器を置く。


 そしてゲームを半日遊び倒した。




               *



 夜九時になってニュースを見ると二件の火災報知器の誤作動と二件の不法侵入とウソの電話をかけて警察が出動する事件が発生していた。


「同じに日そんなことあるんだ…」

 

 四件をリストアップ。関係性は見当たらない思いつきで事件が発生した順に、点と点を線で繋いだ。


「あっ、え?」


 見つけたのはあちらの世界の数字の四だった。偶然とは思えなかったので、この世界に来た時のことを思い出す。


「この世界に来て最初に起こったこと……強盗事件だ」


 この四件が偶然では無いならこの強盗事件も。何かあってからでは遅い。三キロほど先にある組事務所へ行き、武器をかっ払うことにした。

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