第3話 怪盗ライフとその前に(2)

 

 電気屋さんに連れられて電気屋に来た


「電気屋って何売ってるんです?」


 服屋に服が売っているのは分かるし、雑貨屋に雑貨が売っているのはわ分かる。何も知らない人には電気に関係する何かが売っているとしかわからない。少し酷い言い方をすると、技術の差がありすぎて見たことないものが多い。それゆえに使い方も知らない。


 未来人に過去の物をあげる分には使えるかもしれないが、未来のものを過去の人にあげても『これは何』とずっと聞かれることになる。誇るならば先人の知恵を借りたから生まれた物でもある。


つまり私は過去の人


「お米を炊いたりする炊飯器とか、洗濯物を洗ってくれる洗濯機だったり、食べ物を冷やしたり腐らせないために使うものが冷蔵庫になります!」


「ああ!それは知ってるかも!私も食べ物を冷たい所に置いてたりしました!


 電気屋さんは私がスマホを知らないと言うことで、他の物もわからないと察してくれたのだろう。とても分かりやすい説明をしてくれている。


「つまりこれらを使えば様々な手間が省けると?」


「はい、そう言うことになります!少しの操作と時間が必要にはなりますが」


 手動だったものが自動に切り替わるのは負担が減るのでありがたい。そう考えると時間がかかるのは仕方ない。


「様々な機械に電気を通せば、手間も省けますし、色々な機能も使えます!たくさんの効果も得られますよ!今、紹介したのはその一部になりますね」


 今、紹介されたのはほんの一部。つまり私の知らない膨大な数の機会がある


「今更かもしれませんがスマホの使い方の説明をする前に貴方の名前を教えていただけますでしょうか?」


 今こそ名前の使い道。


「私は舞月って言います」


 今から私は舞月となる。これから名前を使い分けていかなければならない。


「私の名前は松井と申します」


 電気屋さんの名前は松井さん


「それでは舞月さん、スマホ使い方の説明をさせていただきます」


 やっぱり松井さんは親切な人だ


「スマホは多様な機能があり、インターネットに接続すれば色々なサービスが使えるようになります」


 インターネットは言わば、公共の場に行くための交通手段らしい。難しい言葉が少なくて分かりやすい。


「インターネットを使えばサイトやブログが見れたり、ゲームや動画、本が読めたりと様々な娯楽が楽しめます」


 あちらの世界とは比にならないくらいの本や娯楽。これさえあれば……!


「まずは電源から。右側面にある電源ボタンを押すと点きます」


 松井さんに従って、操作をしていく。


「そしてスワイプ。画面に指を置いて上に滑らせます。そうすれば画面のロックが解除されて、開きます」


「開き方がわからなくてずっと連打してました」


 初めてスマホを触って、とった行動が連打で正解だったかもしれない。結果がまぐれであっても、一つこの世界に来て、初めて検索することに成功したのだ。十分喜ばしい。


「かわいいですね、舞月さん!」


 揶揄われてしまった。立ち位置は松井さんが姉で私が妹。松井さんより長く生きているはずなのに、まだ子供っぽさが抜けていない。そう感じて一瞬固まってしまった。言い返そうにも教えてもらう立場なので、舐めた口はきけない。そのために少しムッとしてしまう。


「次はアプリの使い方を教えます。後でわからないことがあればこのアイコンを開いて検索してみると良いですよ~♪」


「とりあえずわからないことあれば検索しますね」


「はい!スマホをマスターするための第一歩です!」


 検索ができるようになっただけでスマホの使い方をマスターした気になってしまうのは、それほど偉大な存在ということだろう



               *



 その後も使いたいアプリを松井さんに伝えて、レクチャーされながら次々とアプリを入れていった。インストールというらしい。


 入れたアプリは動画配信サイト、マンガが読めるアプリ、チャットアプリ。チャットアプリは松井さんに進められて入れた。友達いないから必要ないと思ってしまった自分を責めた。


 ネガティブはあまり褒められたものではない。


「舞月さん。せっかくチャットアプリを入れたので私と友達になりません?」


 想像以上に松井さんはグイグイくるタイプだ。


「毎日話したり通話したりしましょう!」


 通話という言葉を聞いてわからなかったことを思い出した。


「電話って何です?」


 検索した方が早かったかもしれないが、聞いた方が早いので聞いてみる。わからないのに聞かないのは良くない。検索がスマホをマスターするための第一歩と言われたが「聞いた方が早い」とかこつけてしまおう。


「簡単に言うと、遠くに居ても会話ができます。電話番号を入力してかければ知らない人にも繋がります」


 魔法と機械は意外と近しい存在なのかもと考える。場合によっては伝達魔法の方が使いにくくなることがあるかもしれない。


 伝達魔法を使うときの言葉「コネクション」を言うのが馬鹿らしくなるほどに便利だ。


「兎に角、友達になりましょうか!」


 何故だか少し目尻に涙が浮かんだ。


 こうして、この世界に来て初めての友達ができた。私の相棒は今頃あちらの世界でなにをしているのだろうか。元気だと良いのだが……。


 その後も楽しく話したり、電気屋を松井さんと一緒に歩き回ったりした。スマホの使い方を教えてもらうだけだから、お金は使わないと思っていた。結局何か欲しくなってしまった私は、炊飯器、ゲーム機とゲームをするためのモニターを買った。



 マンガも読みたいので魔法のカードなる物を5万円分購入。合計すると手元から15万ほど飛んでいった。所持金は三十五万ほどに減った。


「それでは舞月さん、後日お届けに参ります!待っていてくださいね!」


「ありがとうございます!」


 決めた、明日は家から出ない。一日くらい自堕落してても誰も咎めやしないだろう。



               *



 帰り道にお米と水を購入。そのまま交番に直行。少し人使いが荒いかもしれないが気にしないことにした。


「警察さん!私をこの住所まで連れていってください!」


 その声はどこからか「たのもー!」と聞こえてきそうなほどに元気だった。


「すみません、今忙しくて。地図を渡すだけになってしまいますがご自身で行けそうですか?」


「忙しい時にごめんなさい、助かります」


 礼だけ言って交番を去る。


 帰り道は警察代わりにナビを起動して案内してもらい、ゆっくりとした足取りで自宅までの帰路に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る