第2話 怪盗ライフとその前に(1)

 

 事件解決後に別の路地裏に入った。


「自分自身に誓う、もう一度大怪盗になってみせる!」


 この世界で宝石に出会った後この世界でも怪盗を続けることを自分自身に誓った。


 この世界に来ていきなり事件に首を突っ込んだために、まだ主催者に貰ったお金と、身分証明書を確認できていなかった。意識はしていなかったが人に話を聞いたり、看板の文字を読むことはできていた。このことから言語習得は完了していると思われる。


 ポケットから身分証明書を取り出して恐る恐る覗く。


「えっと……名前は舞月兎影?」


 マイツキトカゲ。それがこの世界での私の名前らしい。


「歳は…十六…歳… えっ?う、うそだ 若すぎる…」


 前の世界では、年齢を数えるのをやめたくらいに長く生きていた。死んだわけではないが。そのせいなのかパッと、前の年齢が出てこない。


「住所は…どこだろ、全くわからない」


 初めてくる世界と土地なので、土地勘も全くない。


「でも、家がある。私が帰り続けて良い家がある!固定で!…全く、感動してしまう!」


 前世では怪盗なので家がなく根城。点々と根城を変えていなければ最悪の場合、襲われて死ぬ。食事も何日もずっとパン一つだったり、一日中何も食べられない日が何日も続いた。


少々だが、過酷を極める日々だった。


「ちょっと感動して涙出たな。十六ってことはまだ気ままに遊んでたりするのかな。なんか懐かしいや」


 身分証明書の裏を見る。


「職業は、学生ですか……十六で?待ってくれ……そういえばこの世界の人の寿命は何歳なんだ?」


 情報網も本もない。書庫はどこにある?


 一人の私にとっては意味の成さない問いになった。生まれた日は今からちょうど十六年前、その頃は世界を飛び回って怪盗をしていた。


 今日はこの世界での誕生日。


 この世界に来た日付だろう。


「一番下は電話番号?これが一番謎だな」


 わからないことが増えた。


「電話って?話す?話すのに番号が必要なの?」


 理解するのを諦めてお金を取り出す。


「このお金は一万円……が五十枚。最高グレードかな、このお金が。私の全装備が金貨百七十枚で、一万円が最高だとしたら、百七十万円か。この一万円がもう百二十枚…私にとって金貨百七十枚は躊躇う金額ではないな!」


 流石に一万円以外にも何種類かあるはず。そう思い調べようとしたがお手上げ。空腹で思考も回らない。早速お金を使う時。もう一つ確認し忘れていたことがあった。


 ポケットに入っていた長方形のもの百グラム以上はある。ボタンが左側面に縦に二つあって、右側面にはボタンが一つ。他にボタンはない。


 何回か指で叩く。


「うおっ……光った……『スワイプしてロックを解除』?開くのね、これ。変形したりではないよね…?とりあえず開けーーーー!!」


 平面を連打。


 叩き始めて数秒後、スワイプという動作ができたようでロックが解除される。


「なんか来た」


 驚きつつ、また画面を適当に叩く。文字が表示された。


「『検索またはURLを入力』URLは謎だけど、調べられるみたいだね」


 お金、種類で検索する。検索がヒットした。


「左から一円玉、十円玉、五十円玉、百円玉、五百円玉、千円札、五千円札、一万円札か……やはりキミは最高グレード」


 想像していたより種類が豊富であった


『お釣りは、硬貨を貰うことがとても多いでしょう。端数は桁の小さい硬貨で揃えることができます』


 あちらの世界では、金、銀、銅の三種類の硬貨が存在した。


 銅貨五枚で銀貨一枚の価値。銀貨五枚で金貨一枚の価値。種類が少ない分、複雑にはなっていない。


「一万円を全部一円で返されたら迷惑だな」


 考えたくもない。


「お金のことがわかったところで、とりあえずご飯を食べよう」


 その後にやることは街と地形調べ、この便利道具の使い方を知ること、お店調べに決まった。


 目標が決まったところで路地裏を出る。


「使えるお金は限られてるから安価で済ませたいな。きっとこれから出費がたくさん出る」


 色々お食事処はあるが、やはり千円を超える。もう少し抑えたい。しばらく歩いていると一つの看板が目に止まる。


 コンビニエンスストア。外から店内が見える。とても綺麗だ。雑貨屋の様に商品が並んでいて、人が二、三人いる。食事処ではないことは一目でわかった。


 興味を惹かれそのまま入店した。


「うん。涼しいな。やっぱりすごいぞ、この世界は」


 店内にはお菓子、飲み物、カップラーメン、携帯食料、色々なご飯、パン等が並んでいる。


 私があちらの世界で食べていたパン。ふわもちパンと呼んでいたが、ここではバターロールと言うらしい。他にも色々なパンが並んでいる。


 人は素晴らしいものを生み出す。軽く安く済ませたいので、レタスサンドイッチなるものを買った。


「二つで、五百円以下は安いな。紙とペンを買ったから七百円くらいにはなっちゃったけど必要経費だな」


 書くものは必須。どこの根城にも紙を大量に貼り、失敗がないように注意しながら生きていた。


 先ほど買ったサンドイッチを口に入れる。何かしらのソースがうまくレタスと絡み合っていて美味しい。ほんのりパンの甘味も感じる。


「ふぉぉぉぉ!体が喜んでる!これは悪くない選択だな!」


 感激のあまり目を瞑りながら食べた。一パック二つ入り、二パックで計四つ。程よく空腹が満たされる。昔から食べ過ぎは嫌いなので、腹八分目という言葉をとても大事にしている。異世界初食事ということで、レタスサンドを上手く紙に書いた。


 次は先ほど使った便利道具の使い方を知るために、学べそうな場所を探し歩く。どこで学べるかなんてわかりもしない。


「ちょっとそこのお姉さん!何か困り事ですか?電気屋の私にわかることであれば何でも聞いてくれて構いませんよ!」


 突然後ろから声をかけられた。


「はい?私ですか?」


「はい!」


 電気屋って何が売っているんだろう?思い浮かんだ疑問を解消するために話を聞くことにした。


「この道具の使い方がわからないんですけど、教えていただけますか?」


 ポケットから検索に使用した便利道具を取り出した。


「スマホの使い方ですね、お任せください!教えますよ!」


 名前はスマホというらしい。


「近くに私の働いてる電気屋があるのでついてきてください!」


 そしてスマホの使い方を学ぶために、電気屋さんについて行くことになった。

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