この世界を満喫しよう
第1話 初!異世界!
ゲートを通って目を開けると、立っていたのは路地裏で服装は変わっていなかった。ズボンには長方形の何かが入っている。路地裏は日陰、異世界では夜だったため目が光に慣れていない。
「何だろ、なんか入ってる。建物の造りも全く違う…本当に異世界に来れた!」
それでもとにかく早く路地裏を出ようと、まだ見ぬ世界に胸を踊らせながら走り出す。
「うぉぉぉ!すげー!服装も街の見た目も全部違う!発展してる!」
初めてのことばかりで、ずっと心臓が高鳴っている。喜びも束の間、人の叫び声が響き、警報機がけたたましく鳴る。行き交う人々。この世界は平和とばかり思い込んでいた。平和とのギャップに驚き、反射的に警報機が鳴り響く場所へ顔を向けた。
「おじさん!この音何!?何が起きているの!?」
「緊急事態だ…宝石店に強盗が入った!」
大きな音は小綺麗な宝石店から聞こえてきていた。黒い布を被った四人組が店から大急ぎで逃げ出している。犯行を行った四人組は素人の様で手際が悪く、今にも転びそうになっていた。素人にも拘わらず誰も止める者が現れなかった理由は、四人組が手にしていた武器にあった。
バール、ナイフに拳銃。逃走を邪魔していると感じた四人組は通行人を脅し始めた。邪魔をしたら殺すと。その言葉は現実味を帯びていた。
その時、強盗のカバンから宝石が零れ落ちる。無意識に足が動く。初めて見た異世界での宝石。色も形も輝きも、全てが美しい。
「本能が言ってる『あの宝石が欲しい』って」
迷っている暇はない。人々の合間を縫って強盗を追いかける。
宝石めがけて足を動かし続ける。欲むき出しの顔はアホ面だ。もう宝石しか見えていない。地面と宝石との距離、数センチという所で手を伸ばし、宝石は手中に納まった。
「これがこの世界の宝石……美しいなぁ」
宝石を太陽に翳してみる。街ゆく人、目の前の景色、そして私より今、この宝石が一番輝いている。
「もっと見たいな…」
小さく呟く。思い立ってからの行動がとても早かった。メートル以上を軽々と飛び、強盗にぶつかる寸前で回転しカバンを奪い取る。
華麗に着地し、四人の強盗から宝石の入ったカバンを全て奪い取ることに成功する。宝石が汚れてしまうことを危惧し、上着を乱雑に敷き、その上に座った。
高く、カバンを掲げて宝石を『浴びた』
「~~~~っ!!!」
最高の気分。喜びのあまり声ににならない声を上げた。そのおかげで注目を集めてしまっている。今はそんなことはどうでも良い。この宝石達に浸かっていたい。
まだ強盗はカバンを奪われた時の衝撃で地面に転がっている。店員も、一連の行動に目を奪われ、唖然としていたが、ハッと我に返り素早く強盗を取り押さえた。
*
数分後に警察が駆け付け強盗はお縄となった。自分自身、本能に逆らえず奇行をしてしまった。
真っ先に強く怒鳴られるかもと感じていたが、逆にとても感謝されたのだった。店は、宝石一つでも大損害を受けていただろう。
だが私が、全て取り返した。奇行を除けばとても良い行いをしたのだ。
嵐の様に事件は解決し、私は満面の笑みを浮かべながら街へと消えた。
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