最終話 ペットの次は恋人に


「寝そべってくれる?」


「そうそう」


(布団に入る音)


「ふふっ、二人だと狭いね……」


「一緒に寝るなんて、何年ぶりだろう……」


「どうして一緒に寝たりしなくなっちゃったんだろうね」


「わ、わたしが恥ずかしがったから……そういえばそうだっけ」


「中学生の頃のわたしは、あなたと距離を置こうとしていたものね」


「ごめんなさい」


「あのときは……照れていただけなの」


「大人になっていくあなたに、男の子のあなたにどう接すればいいか、わからなかったから」


「でも、今は……わたしは素直になれる気がする」


「あなたは……ずっとわたしを大事にしてくれたよね」


「困っているわたしを助けてくれたのは、いつもあなただった」


「……」


「ねえ、もうちょっとくっついてもいいんだよ?」


「いまのわたしはわんこなんだから」


「膝の上に乗せてもいいし」


「頭を撫でてもいいし」


「ぎゅっと抱きしめてもいいんだよ?」


「あっ……」


「本当に頭を撫でるなんて……」


「に、二度目でも恥ずかしいな……」


(さわさわと撫でる音)


「もうっ……」


「クーン……」


「気持ちいい……」


「ねえ」


「他の女の子の髪を撫でたことなんて、ないよね……?」


「か、片瀬さんとか……」


「するわけない? そ、そっか……」


「どうしても気になっちゃう」


「わたしは……ヤキモチ焼きだから」


「わたし以外が、あなたの特別だったら嫌だなって思っちゃうの」


「でも、きっと……あなたのペットとして、犬のマネをするのなんて、わたしだけだよね?」


「ふふっ……」


「幼馴染も一人だけ、か。そっか……。そうだよね……」


「あなたの幼馴染はわたしだけ。わたしの幼馴染はあなただけ」


「ずっと一緒にいたんだものね」


「あなたにご飯を作って上げる権利も、あなたの犬になる権利も、あなたと一緒に寝る権利も……わたしだけの特権だよね」


「片瀬さんにも……他の誰にも渡したりしない……」


「ね? 片瀬さんの犬と遊ぶよりも、ペットなわたしといるほうが楽しいでしょう?」


「楽しい? 楽しいよね?」


「あっ、ほっぺた……撫でられるとくすぐったい」


(もぞもぞとする)


「あっ、もうっ……きゃんっ」


「お、女の子のほっぺたをあんまり触ったらダメなんだからね……?」


「わたしはいいけど」


「わたしは……あなたのペットで幼馴染だもん」


「ふふふっ」


「くーん」


「もっと甘えたいな……」


「お手でもお座りでもなんでもするよ?」


「あなたが言ってくれたなら」


「は、ハグしてくれるの……?」


「嬉しいけど……きゃっ」


(抱き合う音)


「あ、あなたの体……」


「大きいよね……」


「でも、頼りがいがあって温かくて」


「ずっと抱きしめてもらっていたい感じ」


「わたし、ほんとうに犬になったみたい……」


「ふふっ」


「次は、わたしの番かな」


(離れる)


「うーん」


「犬っぽいこと……」


「……何か他にもっと良いことがあるかも」


「あっ! 犬っぽいこと、思いついちゃった」


「甘咬み、するの」


「ちょっとだけ、優しく、かんでみてもいい?」


「あなたの……耳たぶ」


「あ、ありがと……」


「じゃあ、失礼します。じゃなくて……わんっ」


(耳をパクっと加える音。しばらく甘咬み)


「んっ……」


「あなたの耳、柔らかいね」


「痛かったりしないよね?」


「気にしたつもりだけど……」


「大丈夫だったんだ。良かった」


「本当のわんこより、わたしはたぶんおりこうだよ?」


「褒めて褒めて」


「くすっ」


「じゃあ、次はぺろぺろと舐めても良い?」


「さっきは顔だったから、今度は耳をなめてあげる」


「いくよ……?」


(ぺろぺろと舐める音)


「……くーん」


「あなたと触れ合って、あなたのペットになった気がする……」


「これじゃ、どきどきして眠れなさそうだね……」


「わたしもすごく……ドキドキしてる」


「だって……わたし」


(至近距離で)


「あなたのことが大好きだから……」


「だから、これは犬じゃなくて人間として」


「あなたの幼馴染としてキスするの」


(キスする音)


「えへへ」


「驚いた?」


「ずっと、こうしたかったの」


「今なら、勇気を出せる気がしたから」


「ワンちゃんの真似よりは恥ずかしくないし」


「ふふふっ」


「今度はあなたから……キスして」


「くーん、わんっ、きゃんっ」


「大事なご主人さまから、あなたの犬に」


「ずっと一緒にいた幼馴染に」


「キスをしてほしいの」


(ふたたびキス)


「わたし……いま、とっても幸せ」


「ふふふっ」


「今度は……ペットじゃなくて」


「あなたの恋人になりたいな」


「くーん……」


(犬の鳴き真似の小さな声とともにフェードアウト)


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「犬を飼いたい」と言ったら、世話焼き幼馴染が犬の鳴き真似をして甘えてくるようになった 軽井広💞クールな女神様 漫画①3/12 @karuihiroshi

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