山神から嫁をもらった男の話

鹿角まつ(かづの まつ)

     山神から嫁をもらった男の話

 昔、山奥の村に、なかなか嫁に恵まれない男がいた。

 ある日その男は山に登って、その山の山神に祈願した。

 

「どうか俺に嫁をくれ」

 

すると空が曇ってきて、雲の間から低い声が響いた。

 

「わかった。そんなにほしいなら、わたしの三人の娘をおまえにやろう。」

 

神の声を聞いた男は喜び勇んで、山を下りた。

 

山神の娘は、それぞれ端姫はしひめ籠姫かごひめ立姫たちひめといった。


三人はそれぞれの住処すみかにいるというので、

まず男は端姫の住処へ通ってみた。

 

しかし端姫は、その男と顔を合わせるたびに、

「なぜもっとたくさん顔を見せに来てくれないのか」とか、

「きっとあなたは嫁の中で私が一番、みにくいと思っているのだろう」とか、

いつ会っても嫉妬深いことばかり言うので、男はうんざりして、

籠姫の元へ通うようになった。


 籠姫は、つむじからつま先まで入る、大きなかごにすっぽり入っている姫だった。

 これでは籠姫の体のどこにも、指一本さわれない。

 男はつまらなくなって、今度は立姫の顔を見に行くことにした。


 男は歩き、立姫の住まいのあたりに着いた。

そこにはそびえ立つ崖があるばかりだったが、かすみのかかった崖の上から声がした。


 「良人おっとよ、そこは私の足の爪です。

 どうかよじ登ってきて、顔を見せて下さい。私は立姫なので、

座ることも屈むことも叶いません。」


 男は言われた通りにしたが、崖を這い続けるのは大変なことだった。

 ようやく腹のあたりまで来たとき、

男は背中を立姫にひょいとつままれ、遥か高いところに持ち上げられた。

 立姫の鼻先につまみ上げられた男は、初めて立姫と目があった。

 立姫はたいそう喜んで、笑顔でこう言った。


 「我が良人おっとよ、どんなに顔が見たかったことでしょう。

 よくぞ会いに来て下さいました。」


 男も喜び返事した。


「おお、お前は端姫のように嫌味を言わず、籠姫とちがって触ることができるのだな。」


立姫は男に聞いた。


「ところで、私のかわいい二人の妹たちは元気でしょうか。」


 男は宙吊ちゅうづりのまま答えた。


 「いや、どちらも嫁として不足なので、捨てた。」


 これを聞いた立姫は激怒し、

 男を指先で固めてつぶして、

 山のはるか向こうへ、指ではじき飛ばしてしまった。


                        おわり




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

山神から嫁をもらった男の話 鹿角まつ(かづの まつ) @kakutouhu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ