第2話 過程の朝方

 俺は現在王都に向かって全力前進中だ。


 目の前に広がる光景は、青く澄み切った空、雄大に広がる綺麗な緑、柔らかく涼しい風、ガタガタの汚い道。後ろを向けば、微かに黒い煙が上がっているように見える。


「素晴らしいね。みんなが頑張れと言っているようだ…。」


【母の指輪】は十分の役割を果たしてくれている。こういう少しの敏捷の差はタイム短縮で大事だったりする。無視せずに入手をしておいて良かった。


 それと、いつもならばスタミナゲージがあるのだが、今の俺にスタミナゲージはないらしい。少し疲れは感じるが頑張って走る。昼頃に王都に到着出来る予定だ。残りのメインチャートは森、王都、魔王討伐のみ。余裕すぎる。


 王都まで向かう道中、アイテムをいくつか購入するために村に寄る。現在ある30ドルある分を使い、痺れ粉×2と煙玉×1を入手する。効果は名称通りだ。


「あんちゃん、珍しいね。そんな軽装で旅なんて!そんだけでいいのかい?」


 と店主が喋りかけてくる。


 もうこの村に用事はない。返答するのも時間の無駄だ。早く村から出て先を急ごう。


 俺は店を出て次の目的に向かって走る。たが、村から出る瞬間、俺は気づいてしまった…。


「…ッ!!買う必要なんてなかったんじゃないか…?店頭に置いてあるものを持てるだけ盗んでおけば…。」


 売買のやり取りの部分を削ることができたはずだ…。いつもの癖で買い物をしてしまった。それに、最初にこのことに気づいていれば壺を割る時間も削ることが出来た。反省だ…。


 そんなことを考えながらも足は動かし、これからの流れも脳内でシュミレーションしている。


 しばらくすれば森に差しかかる。盗賊に襲われている聖女の救出イベだ。RPGのストーリーでいえば、聖女との出会いの部分。だけど、好感度が高い時のイベントを無理やり起こす。


「ゾーン中は色々すっ飛ばしてなんでも出来ちゃうなぁ…。」


 よーし!森突入!!


 入って正面に見えるは、銀髪の美少女と真逆と言っていい汚らしい盗賊共。


「おやめ下さい…。これ以上近づかないでください。どんな方であろうと傷つけたくありません。どうか手を引いてください。」


「嬢ちゃんみたいな上玉逃すわけねぇだろ。護衛も無しに一人で、俺たちにどれだけできるかねぇ!」


 俺は、参戦早々、痺れ粉を盗賊共に撒き散らす。そのまま動けなくなったところを首チョンパで終了。返り血を浴びたまま、聖女に向き直る。


「終了。」


「…え、えっと…ありがとう…ございます…?」


 何が起きたか分からないといった様子で、感謝を述べてくる。この混乱している女に対して、このまま一気に畳み掛ける!


「あのー、旅人さん?唐突のことでよく…」


「この先の王都に行きたいんだけど、身分証ないからさ、証明書?みたいなやつ書いてくれない?」


「え、は、はい…。それくらいでしたら…。――――――どうぞ…。え、えーと、お名m」


「『愛してる』、と言ってくれないか。」


 聖女は頭に無数のハテナを浮かべたような顔をし、口もポカーンと開けている。そんな変な顔でも美少女の顔は崩れない。


「…」


「…」


 早く言えよ💢💢助けてやったんだから、そんな顔せずにさっさと言って貰えないかな?


「はよ、言えよ。助けてやったんだから。ほら、早く早く。」


「で、でもそういうのは心から好きになった殿方に…。感謝はもちろんしているので他のお礼を…。」


「こっちはなぁ!RTAの自己記録更新が掛かってるの!分かる?なんでもいいから言えばいいんだよ!」


「あーる…てぃー……はい?」


 助けてやったのに、言うこと聞いてくれないとか人として終わってるわ。聖女とか呼ばれながら、顔だけいいだけのカスだね、カス。


「他意はなく、言えばいいから、言えば。」


「は、はい…。それでいいなら、あいしてま…す……?」


 それを聞いた瞬間、俺は残りの痺れ粉を聖女に向かって投げつける。そして、強引に唇を奪う。


「ん!?」


 無理やりベロを絡ませる。相手は目を見開き、歯を食いしばって、首を振って離れようとしている。しようとはしているのだろうが、痺れ粉の影響で全く動けていない。


 涙を浮かべ、表情からは恐怖が読み取れる。


 スキル【聖女の加護】を入手。


【聖女の加護】:一度のみあらゆる干渉を無視して攻撃をを与えることができる。

 聖女からの愛の告白、そして、熱い接吻により発現。


 唇から唇を離す。


「うぇーい!あざす!」


「え、どう…いう…、い、嫌…。そ、そんな……子供も…できちゃうし…?」


 よーし、スキルも入手できたし、次は王都。自己記録達成まで走り抜ける!


 そして、俺はいつもの事ながら盗賊共の死体と痺れ粉で動けない聖女を置いて走り出す。


 盗賊共から流れる血の匂いと聖女自身の美貌、色気によって、魔物がうじゃうじゃやって来るだろう。そうなる前にお暇させてもらうぜ☆


「た、助け…、置いて…かないで…!し、死んじゃう……」


 俺が行ったあと彼女は恐らく犯され、殺されるんだろう。状況異常を回復するにもあの状態じゃ、口は回らない。


「まぁまぁまぁ。」


 そんなことよりも記録だ、記録!


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 積極的な主人公って素敵!()

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