第46話 予想以上の苦戦

「おい、ガキ!そっちからかかってこいや、待ってやるからよ!」




ジャンはそう言って余裕の態度で手招きをしていた。


その態度に女が釘を刺す。




「ちょっと・・!この子は魔法を使うのよ?あんまり舐めてかかってやられたらどうするのよ!」




何もかも筒抜けな事に眉をひそめつつ、相手の会話を聞きながら魔力を練って準備する。


手を抜ける相手では無いのは分かっているため、初手から魔力をいつもより多目に込める。




「レミはいつも心配性なんだよ!魔法を使うって言ってもまだまだガキじゃねぇーか!それに、自分より弱いやつに突っかかっていくのは俺の性にあわねぇ!それよりも、相手に全力を出させてそれを全部退けりゃあこのガキも折れて諦めるだろ。」




その言葉に意外そうな表情を向けたレミと呼ばれた女は、納得したように首を振る。




「なによ・・・あんたにしてはマトモな考えじゃない!確かにそれもそうね・・!」




「けっ!なんとでも言いやがれ・・そういうこった、ガキ!そっちから攻撃してきな!」




こっちから攻撃させてくれるのなら、有難いと素直に従うことにした。


レミと呼ばれた女の方は分からないが、ジャンは確実に近接戦に長けている見た目をしている。




向こうが最初から本気でこられていたら、最悪間合いを潰されて魔法すら放てない所だった。


ちら、とスイを横目で見てみる。




表情に変化はあまり無いので分かりにくいが、その目はジャンだけに向けられ、目には怒りが浮かんでいるのがわかる。


自分より格下と思っている人間に、舐められた態度を取られたことで激昂しているのだろうか。




そんなことを思いながら向かい合っていると、先制を取ったのは意外にもスイだった。


スイの前に水の刃が三つ浮かぶ。


それは今まで何度も見たものであり、スイが使う魔法の中で一番使用頻度の多い魔法であった。




それを見た私は、スイの魔法の後を追随するように準備する。






(たかが人間風情が図に乗りおって・・・我をここまでコケにしたことを後悔するがいい!水刃ウォーターカッター!)




スイの魔法が一直線にジャンに向かって飛んでいく。


その速度はかなりのものであり、並の魔物では、知覚できることも無くその首を落とすことになるだろう。




その魔法を見た男は僅かに目を見開いた後、瞬時に後ろに手を回し、背負っていた大斧を抜刀すると、一つ目を斧で叩き切り、二つ目を身を捩って躱し、その勢いに乗ったまま振り向きながら最後の水刃を横薙ぎに払った。




避けられた一つの水刃は、男の後ろの木々を幾らか切り倒しながら、森の奥へと消えていった。






(何っ!?こやつ・・・口だけでは無いということか。)




男は笑みを浮かべながら体を震わせている。






「くくくっくはははは!あーはっはっはっ!良いな!いいぜ!最近ぬるい魔物とばかり戦っていて飽き飽きしてたんだ!こんなに手応えのありそうな相手は久しぶりだっ!もっとだ!もっと全力でかかってこい!!」




(戦闘に魅せられ狂った者か・・・厄介なことこの上ないな・・)




私は男のあまりに見事な一連の流れに、魔法を出すことが遅れたことに後悔する。


正直言ってここまでやるとは思ってなかった。


その所作に魅入られたことに嫌悪を抱きながら、もう二度と油断せぬよう気を引きしめる。




女をちら、と見れば、手を出す気がないのか木に背中を預けて腕を組んで見守っている。


それならば好都合だと、私は男に手をかざし魔法を唱える。




想うのは【速度】、【威力】。


今ので反応されるなら、それよりも速く、鋭く。




男は私の様子を見て腰を落とし、何であろうと反応できるように膝を曲げる。


舐めた態度を取ってはいたが、戦闘に対しては手を抜くことが出来ないのだろう。


その視線は、もはや私だけしか見ておらず、それ以外は目に入っていないようだった。




「今度は私の番っ!雷槍サンダーランス!」




いつもより多めの魔力を込めた雷槍は、バチバチと破裂音を鳴らしながら、男との距離を一瞬で詰めていく。


男は見えてはいるようだが、反応できないのか必死に身を捩って避けようとしているのが見える。




しかし、そこは流石と言うべきか。


男は最低限の動きで体を横へとずらし、雷槍をギリギリで避けることに成功する。


だが、半身になって避けることで、右手だけ雷槍の射線上に残ってしまい、右手に持っていた大斧に雷槍が直撃し、柄の部分からポキリと折れてしまう。




折れた大斧は柄の部分だけを男の手に残し、刃の部分は後ろに飛んで行った。


それを見た男が目を見開く。


額には汗が浮かんでおり、今のがギリギリだったことを物語っていた。




「おいおい・・・ガキがこれ程の魔法を使うかよ・・!レミ、お前負けてんじゃねぇーのか・・?」




呆然と語るその言葉に、女も口を開けて驚きながら答える。




「魔法を使うとは知っていたけどまさかこれ程とは・・・予想以上だわ。」




賞賛してくれているのだろうが、私の心にあるのは焦りだった。


今の魔法まで避けられるとは思わなかったからだ。


この魔法で一人戦闘不能にし、残った一人をスいと二人で仕留めるつもりでいた為、予想外の出来事に戸惑ってしまう。




「長くなりそうね・・・」




ポツリと呟いた言葉は、木々のざわめきにかき消された。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


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迅雷の魔女の生涯 aren:re @aren_re

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