夢と現実

@m__322

第1話

 平成中期の春である。私は東京のアパートで生まれた。自宅出産だった。母曰く意外とすんなりと生まれてきたらしい。

当時アパートで暮らしていたのは母と祖母と叔母の3人、そこに新たな命が生まれた。

それが私である。

そう私の人生がスタートしたのであった。


正直このアパートの記憶は私にはない。生まれてから2年後にこのアパートを出て賃貸マンションに引っ越した。


私は生まれてから一度も父親に会ったこともないし、顔も見たこともない。

唯一の名前も昔母に教えてもらったが今は覚えていない。

母はいわゆるシングルマザーで小学4年まで私を育てた。


小さい頃の記憶は母と叔母がよく喧嘩をしていたこと。

叔母は母が小さい頃から宗教に入っておりそのために闇金までに手を出し借金をしていた。

母は叔母の金遣いの荒さについて月に1度くらいは2人で泣きながら喧嘩をしていたのを覚えている。


それを見ていた私は当時5歳くらいであった。

小さい頃はなんで喧嘩しているのか分からなくて当時は戸惑って2人が泣いているのを見てティッシュ箱を持っていくなど小さいながらに気を遣っていた記憶はある。


そんな叔母だったが私は家族の中で叔母が一番好きであった。いわゆるおばあちゃん子というやつである。

母は当時シングルマザーでありながら会社の正社員をしていた。そのため帰るのも遅く生活の8割は叔母といることが多かった。母といられない時間は寂しかったが叔母がいた為そこまで寂しい思いはしなかったと思いたい。


だが小学校に入ってから家計が少し苦しくなったのか叔母も働きに出るようになり鍵っ子デビューをした。

家に帰っても夜までずっと1人きり。正直まだ低学年ということもあり怖い思いをした記憶がある。そんな日々が小学校3年まで続いた。


とある日の夜母が遅くまで帰ってこない日があった。当時母が使い古した携帯を持っていたのでその携帯で母に「いつ帰ってくるの?」とメッセージを送った。

叔母も仕事で帰ってこなく、その日は22時近くまで夜1人で居たことを覚えている。


母からやっと返信が来て「仕事が忙しくて今日は帰れない」と連絡が来た。

その時は仕事なら仕方がないと小さいなりにわかってはいたので寂しい気持ちを抑えながら了解のメッセージを送信した。

叔母は少しして仕事から帰ってきていつも通り夕飯を作ってくれた。


朝になった。あれから母は2日ほど帰ってこなかった。「どこにいるの?」と聞いてもうまく交わされてばかり、仕事を理由に家には帰ってこなかった。


3日ほどたったある日母がやっと帰ってきた。私はすごく怖かった。このまま母親が帰ってこないんではないかと思った。

そんな思いも束の間それからはただ日々が流れ私も小学4年生になろうとしていた。


その日は母は友人の結婚式に行くためにドレスや化粧を朝から張り切っていた。

母は割と早い時間帯に帰ってきていて少し酔っ払っていた。「今日撮った写真見せて」と私が言うと快く見せてくれた。

そこには綺麗な母が写っていた。

だが今思えばここからが不幸の始まりだったのかもしれない。たまたまスクロールしていた指を止めてしまった写真があった。

それは母が仕事と言っていた日に撮られた写真であった。

母と同い年ぐらいの男と母が仲睦まじげに2人で写っている写真であった。



それは後に私の義父になる男であった。

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