嫁のおしめを替えタッタ♪

タヌキング

運命の赤子

俺の名前は赤石 高雄(あかいし たかお)。何処にでもいる普通の高校生なんだが、夢に出てきた女神の天啓により、自分の伴侶になる女を見ると分かるようになっている。これにより俺が未来の嫁を見れば、一目瞭然でその人が嫁だと分かるらしい。これは便利、自分の運命の相手を間違わずに確実にゲット出来るわけだならな。

まぁ、その説明を受けている時に女神が半笑いだった気がするんだが、多分俺の気のせいだろう。


「タカちゃん、ちょっと頼まれてくれない。」


家でゴロゴロしていると、ママ……もとい母さんからそんなことを言われた。こういう時、結構面倒臭いことを頼まれるんだが、何だろう?


「実は赤ちゃんを預かって欲しいのよ。明日に二、三時間ほど。実はお友達と映画見に行きたくて、それでその人の赤ちゃんを預かって欲しいのよ。」


ほら面倒だ。赤ちゃんって生き物だぞ。ほいほい預かるなんて言って、リスクを背負い込むのは俺はごめんだね。


「いやだよマ…母さん。赤ちゃんなんて騒ぐし喚くし、なんか独特な匂いするし、絶対無理だよ。」


「大丈夫よ、タカちゃんカブトムシ育てるの上手いじゃない。」


「いやいや、カブトムシの育成と子育てを一緒にしたらいかんでしょ。赤ちゃんは樹液飲まないし。」


「えーっ、同じようなもんよ。」


おいおいそんなこと言うな。そんなこと言い出したら、まるで俺がカブトムシ感覚で育てられた風になるじゃないか。


「とにかくダメ。俺は忙しいの。」


スマホのソシャゲが夏イベント中なのだ。手を止めるわけにはいかない。


「仕方ないわねぇ、諭吉が一枚ありました♪」


「やります!!」


福沢諭吉先生の描かれた紙幣を出されたら仕方あるまい。そりゃあやるでしょ?


というわけで次の日になり、赤ちゃんが家にやって来た。小さくて可愛い女の赤ちゃん、前髪を結んで口にはおしゃぶりを咥えている。


「バァブ」


鳴き声もバブなので、紛れもなくこれは赤ちゃんである。


「じゃあ、よろしくね。」


そう言って母は赤ちゃんのお母さんと映画を見に行き、当然のことながら家には俺と赤ちゃんの二人きり。

さぁてどうしたものか?

あぁ、これは赤ちゃんの世話をどうするか?ということでなく、別の考え事である。

その考えごとというのが、どうやらこの赤ちゃんが俺の運命の相手のようだ。

バッチリお互いの右の小指同士が赤い糸で繋がってるのが俺には見えるのだ。ははぁん、女神が笑ってたのはこれが原因か。あのアマふざけやがって。

だが居ない相手にイラついても仕方ない。ここは今後のことを考えるのが一番得策である。

この目の前の生後六ヶ月の野々村 未来(ののむら みらい)ちゃんが俺の未来の伴侶かー。歳の差にして17歳。この子が18歳になるまで待ったとして俺は35歳。童貞だと魔法が使えそうな歳まで待つことになるなんて辛抱が持つか不安すぎる。

未来の伴侶がいるのに他の女の人と付き合うのは気が引けるし、俺はどうしたら良いんだろうか?


「うぅ…うぎぁああああ!!」


未来ちゃんが突然泣き始めた。まさか旦那が俺なのが不服なんじゃなかろうな?とも思ったが、ぷーんと臭い匂いがしたので泣いている理由はすぐに分かった。

要するに未来ちゃんがウンコを漏らしたわけだ。そりゃ泣くわな。赤ちゃんだった頃は俺だって泣いたはずだ。


「うぎぁああああ!!」


泣き声というより雄叫びを上げながら、俺の方を見てくる未来ちゃん。まるでおしめを早く替えろと言わんばかりである。

結婚する前から尻に敷かれていては夫婦生活に支障が出そうで躊躇われる。まぁ、尻は拭ってあげないといけないわけだが。


「がぁああああ!!」


ゴジラかよ、分かった替えるよ。替えれば良いんだろ。

さて替えるわけだが、本当に良いんだろうか?

結婚するとはいえ、親の了承も得ていない段階で未来の嫁の下半身を見るなんて、それは段階すっ飛ばし過ぎじゃなかろうか?

……いやいや、流石にそれは俺の考え過ぎた。

俺は変な考えを振り払い、あらかじめ未来ちゃんのお母さんから渡されていたマニュアルに沿ってオムツ交換を行った。


「だぁぶ♩」


ニッコリ笑顔の未来ちゃん。俺は一大事業を成し遂げた達成感に酔いしれながら手を洗っている。流石に初めから無傷でオムツ交換出来るほど俺は器用な人間じゃなかった。

オムツ交換をして良かったことは、俺が赤ちゃんのアレを見ても興奮しなかったことだ。歳の差が離れていたので、変な性癖があるんじゃないかと心配していたのでホッとした。

そのあと、ミルクを飲ませたり、遊んであげたり、おんぶしたりと俺の獅子奮迅の活躍によって、すっかり未来ちゃんと打ち解け、未来ちゃんは別れ際には俺のほっぺにキスまでしてくれた。

すっかり惚れられたものだが、本当にこのまま俺のことを好きでいてくれるのか怪しいものである。


〜10年後〜


食品関係の会社に就職した俺は、休日にベッドで惰眠を貪っていた。27歳の良い歳であるが彼女は未だに居ない。

昼前だが今日はこのまま寝て過ごそあと思う。思うのは勝手である。このあとにどういう展開になろうとも。


「寝坊助さん、発見!!」


急に俺の部屋に入ってきた10歳の未来。大方母さんに家に上げてもらったのだろうが、休みの度にこれではウンザリする。


「いっきまーす!!」


そう言いながら、未来はベッドで寝る俺の上にマウントの態勢で飛び乗ってきた。この様に物理的にも精神的にも俺は尻に敷かれている。


「毎回毎回、ウチに来るな。友達と遊べよ。」


「だって私のマイダーリンに悪い虫が付かないか心配なんだもん♩」


だもんじゃない。

この様に未来は俺にベタ惚れであり、それを10年続けているのだから大したものである。


「ねぇ♩遊園地連れてってよ♩」


出た出た無茶振り。おめかししてワンピースなんか着てると思ったらコレだ。何が悲しくて三十手前の男が小学生と遊園地に行かねばならんのだ。

……まぁ、連れて行くけどよ。


「行ってやるからそこを退け。」


「うわぁーい♩」


未来が退いてから、俺はベッドから這い出して服を着替え始めた。その様子をいつもの様にガン見してくる未来。いくら注意してもやめないのでもう諦めた。


「ねぇ、ダーリンは私のオムツ何回も替えてくれたんだよね。」


「あぁ、何十回とな。」


未来がここに遊びに来るたびにオムツを替えていたので、後期になると、ものの数秒でオムツ交換出来る様になったのは密かな自慢である。


「じゃあ、ダーリンがおじいちゃんになって寝たきりになったら私がオムツ替えてあげるわね♩」


「……はぁ。」


ニコニコと笑う未来を見ながら、俺は頭を抱えた。冗談じゃなくて本当にそうなりそうだから困ったものである。

ちなみに俺にはまだ二人を繋ぐ赤い糸が見えている。









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