最終話「彼女が好きになってくれた理由」

「嫌、じゃないけど……逆に、風見さんはそれでいいの……?」


 気持ちをはっきりさせず、ただ付き合えるから付き合うだけって、普通は嫌なんじゃないだろうか……?


「このままなま殺しにされるほうが嫌だもん……! 付き合えるなら付き合いたい……!」


 確かに、返事がないまま一緒にいるのは、生殺しなのかもしれない。

 となれば、彼女の言葉に甘えるべきか。


「それじゃあ……付き合ってみる?」


 俺は顔が熱くなるのを感じながら、風見さんに尋ねてみる。

 すると――。


「うん……!」


 風見さんはとても嬉しそうに表情を輝かせ、一生懸命頷いてくれた。


 あぁ、この笑顔を見て思う。

 この子の想いだけは、絶対に裏切ったら駄目だ。


「本当に、いいんだね?」

「駄目だったらこんなこと言わないし……! もう今更なしって言うのは、駄目だからね……!」


 そう言って、風見さんは俺の腕に抱き着いてくる。

 そして、肩に頭を乗せてきた。

 顔はとてもニコニコとした笑みを浮かべており、幸せそうだ。


「さすがに白紙に戻すことはしないけど……じゃあ、付き合うことになったってことで、一つ聞いていい?」

「なに?」


 風見さんは純粋な目で俺を見上げてくる。

 正直、こういうのを聞くのもどうかとは思うけど――やっぱり、はっきりとさせておきたい。


「風見さんは、いったい俺のどこを好きになってくれたの? イケメン男子とかの告白だって断ってるくらいだし、別に彼氏がほしいってだけの話じゃないんでしょ?」


 女子から人気があるモテ男たちに告白をされたのに、風見さんが断ったという話は割と聞く。

 だからこそ、なんで俺に絡んでくるのか疑問だった。


「……そういうところを聞くのが、やっぱり誠司だよねぇ」

「うっ、ごめん……」


 ジト目を向けられたので、素直に謝っておく。

 呆れられるのも仕方がないだろう。


「まぁいいけどね。どうせ覚えてないとは思ってたから」

「ということは、一年生の時なんかあったのかな?」


 二年生にあがって同じクラスになってからは、すぐに風見さんが絡んでくるようになった。

 だから俺が覚えてないとすれば、一年生の時だ。


「う~ん、それもあるんだけど、始まりはもっと前かなぁ……?」


 ここにきて、なぜか風見さんは照れくさそうに頬を指でかき、俺から目を逸らしてしまう。

 一年生より前――ということは、中学の時か?


「俺、中学生の時に会ったことあったっけ?」


 風見さんのような派手でかわいい子、そう簡単に忘れるとは思えない。

 少なくとも、印象で残っていそうだ。


「まぁ、わからなくても仕方がないんだけどね。中学生の頃って、私地味だったから」

「えっ……?」


 風見さんが地味だった?


 あれ……?

 確か昔、そんな話が――。


「それでね、実は私……高校の入試の日、電車で誠司と会ってるの……」


 入試の日の電車――そのキーワードによって、俺の中である光景が思い出される。


 それは、とても最低な行いだった。

 おとなしそうな女の子が、痴漢をされていたのだ。


 隣に立っていた女の子が青ざめていたので、俺はすぐそのことに気付いたのを覚えている。


「もしかして、あの痴漢されていた女の子って……」

「うん、私……」

「まじか……」


 それじゃあ、俺がわからないのも当然だ。

 だって今の彼女は、痴漢されていた少女に似ても似つかないのだから。

 言われてみれば、面影があるってレベルだった。


「まじ……。それで、誠司が助けてくれて……大切な入試があったのに、ずっと一緒にいてくれたんだよね……」


 助けたといっても、ただ痴漢をしている男の手を掴んで、大声をあげただけだ。

 その後は駅について駅員さんに引き渡し、警察の事情聴取に協力したんだったかな?


「遅れてだけど、入試はちゃんとしてもらえたから、別に問題なかったんだよね」

「でも、普通あんな冷静に対応できないよ……。だから、ずっと感謝してた……」


 風見さんはそう言って、熱っぽい目を向けてくる。

 だけど、俺たちはそれっきりだ。

 入学するまでは顔を合わせることがなかったし、まともに絡んだのも二年生になってからになる。


「驚いた……?」

「そりゃあ、驚くよ……。なんで今まで言ってくれなかったの?」

「だって、恥ずかしかったし……。その、こうしてお洒落したのだって、誠司が見てくれる魅力的な女の子になりたかったからなんだよ……?」


 そう言われると、惹かれるものがある。

 まさか自分のために変わろうとしてくれる女の子と出会うなんて、思いもしなかった。


「それで、高校デビューしてたんだね」

「うん……。まぁそのせいで、最初の頃は大変だったけど……」


 俺たちが通ってる高校は、地元から電車で普通に通える距離だ。

 だから、自分と同じ地元の人間は結構いる。


 それによって、風見さんは入学当初悪く言われていた。


「あれは、風見さんに嫉妬した女子が悪いんだけどね。風見さんがかわいいって話題になると、高校デビューだなんだって騒いでたやつでしょ?」

「そうだね……。それで結構、きついことを言われたよ……」


 最初はチヤホヤしていたのに、元は地味だったと知ると、驚くほどみんな手のひら返しをしていた。

 それには、周りの考えに合わせていたというのもあるんだろう。

 周りと違う意見を言えば、次は自分が標的にされるかもしれない、という恐怖があったのだと思う。


 だけど、それを差し引いても最低だと思っていた。


「でも、その時って別に俺、何もしてないよね?」

「うぅん、違うよ。私が悪く言われなくなったのって、誠司のおかげなの」

「あれ、そうだったっけ……?」


 痴漢の時とは違って、何か明確に動いた記憶はない。

 というか、そんな事実がないはずだ。

 風見さん、少し妄想が入っていないか?


「まぁ誠司が、そういうことを思って言ったことじゃないのはわかってるよ。あれは、掃除時間の時だった」


 風見さんは懐かしそうに空を見上げる。


 掃除時間……何か、あったっけ……?


「私が、ゴミ捨てに行ってる時、廊下掃除をしていた男子たちがいたの。そこに誠司もいて、私の話題があがってたんだ」

「そ、そっか」


 やばい、まだ思い出せない。

 あれ、ほんとなんだっけ……?


「無理して思い出さなくていいよ。多分、誠司にとってはなんでもないことだから、覚えてないんだと思う」


 俺が必死に思い出そうとしていると、風見さんが優しい笑顔を向けてくれた。

 なんだろう、今凄く魅力的に見えるのは、俺が単純だからかな……?


「ありがとう」

「どういたしまして。それでね、一人の男子が笑いながら言ったの。『高校デビューってだせぇよな』って。そしたら誠司、なんて返したと思う?」


 そう聞かれ、俺は思ったことをそのまま風見さんに返すことにした。


「頑張って変わった人を馬鹿にするほうが、ださいんじゃない? かな?」

「んっ、せいかい!」


 俺が答えると、風見さんはとてもかわいらしい笑みを浮かべた。

 正解を言った――というよりも、考えが変わってなかったのが嬉しいんだろう。

 

「まぁその時は、その後に『人ってそう簡単に変われるもんじゃないし、変わることができるほど努力できる人なら、俺は尊敬するよ。それに、そうやって他人のことを馬鹿にしてどうするの? 他人を見下したところで、自分の価値なんてあがらないでしょ? むしろ、自分の価値を下げてないかな?』って言ったんだよね」


 あ、あれ……俺、そんな尖ったこと言ったかな……?

 もしかしたら、学年中風見さんの噂ばかりで、嫌気がさしていたのかもしれない。


「それはまた、偉そうなこと言ったもんだね……」


 かなり敵を増やしていそうな発言だ。


「まぁ、気に入らなかった男子たちは、誠司の言葉を言って回ったみたいだけどね。でも、当時の誠司って成績良くて注目されてたから、誠司の言葉を聞いてみんなは逆に考えを改めたみたい」


 当時、と言っているのは、今俺は別に注目されていないからだ。

 成績が落ちたわけじゃないが、ちょっときついことを言ったりするので、嫌われているところがあるのだろう。

 まぁ二年になってからは、人気者の風見さんが俺にばかり構うから、それで嫌われているというのもあるのだが。


「そうだったんだ……。なんにせよ、それで風見さんへの風当たりが弱くなったなら、よかったよ」


 特に俺も嫌がらせをされたというのはなかったので、結果オーライだろう。

 さすがに今の俺は、そこまで尖ってないしね。


「うん、だからね、誠司にはすっっっっごく感謝してるし、素敵な人だなって思ってたの。こうして付き合えて、本当に嬉しいんだよ?」


 風見さんはそう言うと、また俺の肩に頭を乗せてきた。

 幸せそうな笑顔を見ていると、こっちまで心が温かくなる。


「難しいことは考えなくていいの。私は誠司と一緒にいられて嬉しいし、誠司が嫌じゃないなら、ずっと付き合っていきたい」

「そっか……じゃあ、改めて……これからよろしくね――美空」

「――っ!」


 付き合うようになったので、俺は試しに彼女のことを下の名前で呼んでみた。

 それにより、美空は驚いたように目を見開く。


 しかし――

「えへへ……うん、よろしく……! 大好きだよ、誠司……!」

 ――とてもかわいい笑顔を返してくれるのだった。


 こうして付き合うようになった俺たち。

 それからは、甘えん坊で無邪気な美海ちゃんに振り回されながらも、幸せな恋人生活を過ごしていくのだった。


 もちろん、俺が本当に彼女を好きになるまで、大した時間はかかっていない。



=======================

【あとがき】


27話もの間、読んで頂きありがとうございます(*_ _)


美空や美海ちゃん、そして誠司の物語はこれからも本人たちの中では続いていきますが、

これにて読者の皆様に見届けて頂くものは終わりとなります。


こうして完結まで見届けて頂いて、嬉しい限りです!


またどこかでこの続きが書けたらいいなぁ(書籍化したいなぁ)――と思うので、

そういう機会に恵まれると嬉しいです(#^^#)


話が面白い、キャラがかわいい、

幸せな物語だったと思って頂けましたら、

作品フォローや評価(☆)をして頂けると嬉しいです(≧◇≦)



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