第26話「はっきりさせること」

「な、何を……!?」


 風見さんは、パクパクと口を動かしながら、真っ赤にした顔で尋ねてくる。

 まぁ、突然こんなことを聞けば、当然の反応なんだろうけど。


「えっと……こんなことを言うと、怒られると思うんだけど……風見さんの気持ちが知りたかったんだ」

「…………」


 正直に伝えると、風見さんはプクッと頬を膨らませてジト目を向けてきた。

 うん、怒ってるな……。


「ずるい……」

「えっ?」

「自分の気持ちは言わずに、私の気持ちを知ろうとするなんて、ずるい……!」


 風見さんはポカポカと俺の肩を叩いてくる。


 それは確かに、そうなんだよな……。

 ただ、今から俺が言おうとしていることのリスクが、結構大きい。

 だから、先に確認をしたかった。


「ごめん」

「謝って許されるなら、警察はいらないよ……!」

「そこまで酷い問題だった!?」


 思わぬ返しをされ、俺はついツッコんでしまう。


「――うぅん……」


 それによって、俺の腕の中で寝ている美海ちゃんが、うるさそうに体をよじった。

 実際うるさかったのだろう。


「よしよし」


 俺は美海ちゃんの頭を撫でる。

 それがよかったのか、美海ちゃんはまたスヤスヤと寝息を立て始めた。

 天使のような寝顔だ。


「…………」


 そして、視線を逸らしたことが気に喰わなかったのか、また風見さんが白い目を向けてきた。

 うん、めっちゃ怒ってるじゃないか。


「あはは……」

「笑って誤魔化さないで」

「はい」


 誤魔化そうとしたのもバレてしまい、俺はおとなしく諦めるしかない。


「それで、私の気持ちを知って、どうしたいの……?」


 彼女は真っ赤な顔のまま、ジト目でジッと俺を見つめてくる。

 その表情は、なんだか期待しているようにも見えた。

 直接彼女の気持ちを聞いたわけではないけど、自分の反応でもう俺に気持ちがバレているとわかっているのだろう。


 だから、俺は――。


「風見さんとのこと、今までちゃんと考えてこなかったから……これから一緒にいて、どうしたいか決めさせてほしい」


 考えていたことを正直に伝えた。

 すると――。


「ぜっっっっったい、そういう逃げをすると思った……!」


 やはり、怒られてしまった。

 しかも先程より強めで肩を叩かれている。


 まぁ、仕方がないことなのだけど。


「だ、だって、自分の気持ちをはっきりさせないまま付き合うなんて、不誠実じゃないか……!」

「私の気持ちを聞いておいて、逃げるほうが不誠実でしょ……!」


「これは逃げたんじゃなくて、気持ちをはっきりさせるためのものだから……!」

「じゃあ、私と付き合うのは嫌!? それをはっきりさせようよ!」


 風見さんは俺の両頬を掴んで、目を覗き込んできた。

 顔は真っ赤なままだけど、その瞳はまっすぐで力強いものを感じる。

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