11570402
それから月日が流れてから。
あの子供は再び、私の家にやってきていた。
今度は迷子になったんじゃあなくて、記憶を頼りに、私の家にやってきたそうだ。
最初は誰なのか、全く分からなかった。
だって、あんなに小さかった子供だったのに。
背は随分と大きくなって、私の身長より少しだけ、大きくなっていた。
君は私の腰よりも背が低くて、私は身を屈めないと顔を見て話ができなかったのに。
今はそんなことをしなくても、目と目を合わせて挨拶もできてしまう。
君の手のひらはすごく小さくて、握りしめたら覆い隠せてしまうほどだったのに。
いつの間に私の手と同じくらいの大きさになってしまったんだろう。
やってきた理由を尋ねると、当時のお礼をしたいという話だった。
今は見ての通り、随分と成長して、家業である薬師の手伝いとして一人で薬草を摘みに森へ入れるほどになったらしい。
野営の知識もあるから、一夜程度なら森の中で過ごすこともできるのだとか。
照れくさそうに笑う君の顔は、確かにあの時の子供の面影を残していて。
ああ。
人間は、まるで急ぐように成長していってしまう。
その日から、君はよく私の家に来るようになった。
流石に毎日というほどではなかったけれど。
薬草の話をしたり、そうでなくても森の植物の話をしたり。
私も、人間の
どんな出来事が起きているのかとか、聞くのは新鮮で面白かった。
一番びっくりしたのは、人間が住んでいる場所は君たちが居る集落だけじゃあないって聞いたとき。
私は見つけられなかったけれど、やっぱり他の場所からこの土地にやってきた人間もいたんだね。
ただ、罪を犯した人間が集落を追放されたり、あるいは捕まっていたところを逃げ出したり。
そういう悪い人たちが徒党を組んでいるって聞いた時には少し寒気を覚えた。
もう、ずいぶんと昔の話だけれど。
いざ思い出してしまうと、やっぱり怖い。
君は賢い子だから。
私が怯えていることに気が付いていたんだと思う。
だからすぐに、その話を打ち切って、別の話題を振ってくれたんだろう。
そんな日々がずっと続いて行った。
君は賢い子だから。
私が普通の人間じゃあないってことには、いつの頃かには気が付いていたんだと思う。
けれど。
君は賢い子だから。
特に何かを言うこともなく、変わらずに接していた。
「オレ姉さん。
僕は、騎士になるよ」
だから、突然お別れを言われた時には酷く驚かされた。
理由を尋ねれば、君は、はっきりと私の目を見て答えてくれた。
家族や、守りたい人がいるからだって。
徒党を組んだ悪い人たちは、とても大きな集落を築いてしまったらしい。
そうして他の集落の人間を襲うようになっているんだとか。
君の住んでいる集落はまだ直接の被害こそ受けていないけれど。
集落同士で食料とか工芸品のやり取りをしている人が襲われ始めていて。
そしてこのまま放置してしまえば、ますます大きくなって手が付けられなくなってしまうから。
だから、戦わないといけないんだって。
人間同士で争ってはいけないだとか。
野蛮だとか、話せばわかるよだとか、そんなことを言うつもりはなかった。
鹿も縄張り争いで、ときには命を懸けて戦うことだってあるのだから。
それに関して、私が何かを言うことはできないってことはわかってる。
でも、君に行って欲しくはなかった。
この日々をもっと続けていたいと思った。
正直に君に、そのことを話すと。
君はやっぱり、あのころの面影を残した、照れくさそうな顔で笑った。
そして、君は賢い子だから。
これ以上会っても辛くなると分かっていたから。
次の日から、私のところには来なくなってしまった。
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