00351015
「森の中には動物がいます。中には危険な動物もいるので、注意してください」
俺は人間の男性2人を先導しながら、森の中へと入っていった。
この男性2人は、先日この土地に流れついてきた人間だ。
それなりに体躯が良く健康的で、何かしらの病気に罹患している様子もない。
すぐにやってもらう仕事もなかったため、以前にヴァルフレードにも話していた通り、森の中での食料調達を担当してもらうことにした。
既に先達の人間も、リカルドやカルメンをはじめ何人か居るのだけれど。
妊娠して体調を崩していたり、あるいは先日、収穫したキノコとかを乾燥させる仕事をしているため、どうにも手が空いていなかった。
そのため今回は俺が男性2人に、森の中での仕事を教えることになった、というわけ。
男性2人は俺を見て最初は驚いて顔を見合わせていたが、笑顔を見せて頷き、後ろについてきている。
「森の中は迷いやすいので、目印をつけて帰り路が解るようにしてくださいね」
森の中は鬱蒼としていた。
俺が植えた以上に、木々は種をつけて繁殖し、新たな木々が生まれているのだ。
勿論チート成長速度はついてないので、まだ背が低いものが多い。
……「背が低い」といっても、俺が最初に植えたような巨木らと比べて、だ。
俺を含めた、人間よりは背の高い木の方が多い。
青空が見えていても、森の中は薄暗くて、本当に迷ってしまいそう。
加えて、ここ最近は人間の生活を安定させるために、ほぼ一緒に生活をしていた。
だから、遠くに行って
人間も動物も増えてきたので、土地の拡張は再開したいけれど、あまり遠くにまではいけないし……と、少しサボって近場に苗を植え続けたのも良くなかった。
樹木の密度がちょっとひどい。
そりゃあもう、ひどい。
俺でも時々迷う始末だからね。
これはもう、時々は離れて遠くに苗を植えに行かないとだめだなあ。
日光が差し切らないほどに一杯いっぱいなのは、森にとっても良くないよ。
「あ、このキノコは食べられますよ。キノコは毒があるものもあるので、注意してください。見分け方はリカルドから聞いてもらえれば分かりますけれど、例えば……」
俺は男性2人に声をかけて、木の根元に生えたキノコを採取しようとしゃがみこんだ。
森の中での食糧調達をしてもらうにあたって、こうして食べられる野草やキノコ類は色々と植えてきている。
ただ、キノコについては、可食できるものだけではなくて、いわゆる毒キノコも生えている。
最初は、毒キノコを生やすのは危ないんじゃあないか、とは思ったけれど。
人間が食べる分には毒でも、動物が食べる分には平気ということもあるし。
なにより、人間にとって有用な植物ばかりに偏りがあるのも良くないな、と思ったからだ。
だから毒キノコの見分けについては、採集家たちにはしっかりと教えて、現物も見てもらっている。
……俺は「苗を植える」能力で、「毒がある」「食べられる」と制限をつけて植えているので前もって分かっているし、それ以前に、俺は間違えて毒キノコを食べちゃったとしても平気なんだけれどね。
人間はそうはいかない、だからちゃんと注意を
バ ッ
ド サ ッ
「えっ?!」
突然、俺は地面に仰向けに、ゴロンと転がる。
え?何が起きたの?つまずいた?
いえ、足元に石ころとかもなかったし、木の根がないかも確認したし。
……あれ?
力強く押されて倒れ込んだ?
誰に?
「な、待っ……!」
俺を突き飛ばして地面に転がしたのは、俺が連れてきた人間の男性2人だった。
2人ともニヤニヤと笑っている。
最初に見せたときのような笑顔とは違う。
無性に怖気を感じさせるような、生理的に気持ちの悪い笑顔だ。
男性1人が、倒れた俺の腹に乗るように、馬乗りになった。
もう1人の男性が、俺の下半身のほうへ手を伸ばす。
俺の身体を触っている……馬乗りになった男が邪魔で見えないが、服を弄られているようだ。
「な、なにを! やめて、やめろ! このっ!!」
俺が何をされそうになっているか。
流石にこの状況で「わからない」なんていうほど
必死に抵抗しようと、足をばたつかせる。
馬乗りになった男を跳ね除けようと、手を振り払う。
しかし。
それでも、だからと言ってこのまま良いようにやられてはいけない。
なんとか起死回生の機会を得ようともがき、渾身の力で手を振るう。
ぱちんと、軽く爆ぜるような音がする。
どうやら無我夢中で振るった手が、馬乗りになった男の頬を叩いた様だ。
痛そうな顔をする男。
ニヤニヤと笑っていた顔が歪み、その目が俺の目を見据える。
ド ガ ッ
そして次の瞬間、俺の視界が真っ白になった。
何をされたか解らない。
何も見えない。
でも徐々に顔面から痛みが走る。
どろりとした感触が鼻から口に流れたのが解る。
顔を殴られたんだ。
抵抗したから。
ド ガ ッ
再度殴られる。
今度は視界が赤くなった。
痛みは今度はしっかりと脳に届いて、俺から抵抗する気力を奪う。
痛いのは嫌だ。
でも。
「ひ、ひぐっ……やめて……ひぐっ……」
鼻血を流し、涙を流す俺を見て、しかし2人の男は興奮したんだろうか?
自分の服を脱ぎ始める。
俺の身体に近づいてくる。
やめろ……!
やめろ!
おねがい!
やめて!!
いやあああああああああああああああ!!
ドゴォッ
思わず目を閉じた俺は。
衝撃と、何かが殴られた音を聞いた。
しかし、いつまでたっても痛みはやってこない。
それどころか、身体に乗っていた重みがなくなり、自由に動かせることに気が付いた。
恐る恐る目を開ければ。
狩猟用の槍を持ったトニオが、見たこともないような憤怒の形相で、2人の男をその槍や拳で殴りつけ、俺の身体から引きはがしていた。
同じく槍を持ったルチアは、しかし俺のほうへと駆け寄り、俺の身体を強く抱きしめる。
がくがくと身体が震えている。
それはルチアが震えているんじゃあない。
俺だ。
俺が震えているんだ。
ボロボロと。
俺の両目から、勝手に涙が溢れてきていた。
そうだ。
怖かった。
助けてもらえてよかった。
でも、何故か安堵の気持ちはやってこない。
俺を襲った男性二人が、殴り飛ばされたのを見ても。
女性が落ち着かせようと、俺を抱きしめてくれていても。
俺は震えが止まらない。
それどころか未だに身がすくんでいる。
ああ。
そうか。
俺は。
この瞬間、俺は。
人間を、恐怖するようになったんだ。
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