00330619
今回は結構な人数の人間がやってきた。
人間の男性5人、そして女性2人。
これで81人になる。
俺は纏め役であるヴァルフレードと一緒に、彼らに畑や動物の世話の仕方とかを教えている。
ヴァルフレードには俺が一番最初に植えた木から手に入れた枝を加工し、杖と冠を手彫りで作って
この木は、周囲のほかの木よりも一段と背が高い。
50m以上あるんじゃあないだろうかと思えてしまうほど。
ちょうどこの木を中心に、人間たちの
トニオや、最近彼と仲がいいルチアという女性が、時々狩猟に出かけて遠出をしても、この木を目標にすればこの場所に帰ってこられる。と言っていた。
……トニオはアデーレと子供を作った夫婦じゃないっけ?と思ったけれど。
後で気の合う異性が出会えば、今までの関係を清算して、新しい付き合いを始めるのは、ごくありふれたことらしい。
ヴァルフレードにも確認を取ったし間違いない。
ちょっと驚いたけれどね。
ちなみに、いくら気に入ったとはいえ、一方が無理やりに相手と付き合おうとしたり、さもなくば襲ったりすることは許されないそうだ。
つまりは、ルチアという女性もトニオを気に入った、ということになる。
どこを?
あ、ちょっと余談が過ぎちゃった。
さて、手彫りで不格好な、何の装飾もない木製で杖と冠だけれど。
彼は驚いた顔をして、しかし跪くようにしてそれを受領した。
なんだか周りは人間たちも集まって、その場にいた全員が拍手でそれを迎え入れていた。
本当に王様に任命された、って感じ。
……いや、王様でいいよね。
ヴァルフリードなら、人間の
うん。俺よりもよっぽど適任だと思う。
見た目もいいしね、なんかこう威厳と覇気にあふれてる。
王様はまずはカッコいいかどうかよ。
そこにしっかりリーダーシップあるのだし文句のつけようもない。
うん、決まり。
そうすると、アデーレが女王様かな?
あれ?御后様っていうんだっけ?
まあいいか。御后様用の冠とかいるのかな?
何か装飾品でも贈ってあげよっと。
ともあれ、流石に人間の数も増えてきた。
子供も生まれてきている。
さっき言ったルチアも、トニオとの子供を身籠ったみたいだし。
ウベルトとブリジッタにも第一子が産まれて。
ヴァルフレードとアデーレも三人目を妊娠した。
ブリオーニはレンガ造りに精を出しすぎてお嫁さん候補がいないらしく、最近随分と焦っている様子。
……俺を見ないで。確かに相手はいないけれど、俺は結婚するつもりないよ。
でも俺が結婚するならどっちになるんだ?
女性と結婚?いや、やっぱり男性と結婚?
うーん……回答は保留しよ。
さて、こうなってくると住居も必要だけれど。
でも、一番の問題は食糧だ。
前々から穀物の備蓄はしてあったし、人間にも農夫として多くの人に働いてもらっている。
保存食や加工品にすれば良いから、いつも多めに作物を作ってもらっているので、まだまだ余裕はあるけれど。
こればかりは如何ともしがたく、最優先で解決しないといけない。
本当になくなってから対応しようとしても遅いから。
既に色々と工夫はしているんだ。
彼らが行っているのは、俺のうろ覚えの知識から捻りだした
この土地は化学肥料が無くても十分やっていけるレベルに肥沃で、非常に農業に適した土地。
さらにそこに、衛生の確保を兼ね備えた肥溜めの整備。
そして何より、俺の「苗を植える」能力という正真正銘のチートをフルに使っている。
それで「余裕はある」程度に留まってしまっているのは、ちょっと怖い。
いや、ちょっとじゃあない。
すごーく怖い。
ものすごく怖い。
もし、もっともっと人の数が増えたりしたら、それもすぐに働けないような人たちが沢山やってきたら。
せっかく発展してきているのに、一気に崩壊してしまいかねないから。
でも、だからと言って助けを求める人たちを追い出すなんて選択肢もない。
前世の世界では、それこそ古い時代は農民が人口の9割とか、だったんだっけ?
色々なチートを駆使しているこの土地でも、それなりの数の人間を農地に割いているんだから、それも頷けるよ。
「だけど、そろそろ農業や畜産以外の食糧確保方法がないとなあ」
俺はうーん、と唸る。
もっとも、人間たちも、俺が指示している以外の食料調達はしている。
例えば、トニオやルチアが行っている狩猟だ。
罠を作ったり、手製の武器を手に森の中に入り小動物を狩っている。
流石に、鹿とか猪とか熊とかを仕留めるような猛者はいないようだけど。
それに関しては俺は黙認しているし、動物たちにも規則として徹底している。
逆に人間が殺されてしまうこともあるけれど。
そこは命のやり取りなんだ、善悪だとかの話じゃあない。
漁業、というより、釣りをしている人もいるようだ。
これは俺は教えていなかったので驚いたけれど。
元々沼地での食料の調達手段の一つとして、釣りを行うこともあると聞いた。
ただ汚泥の中に魚がいることは稀なので、時折見つかる、汚染が薄い大きな湖のような場所で行っていたそうだけれど。
モリックスという名前の男性が、とくに釣り上手なのだ。
採りつくさないようにだけは、お願いしておかないといけない。
森の中の池に住んでいる魚たちだって、無限にいるわけじゃあないから。
「……あ、でも森の中での食料調達はアリかも。
そうしよう、と俺は独り言ちる。
そうしていると、タタタタ、と軽い足音を立てて小さな人間の男性がこちらに駆け寄ってきた。
ヴァルフレードとアデーレの長子、アルベルトだ。
最近はアデーレも二人目の女の子につきっきりで、さらには三人目が産まれそうで彼にかまってあげられていない。
元々、俺が小さな頃から抱っこしていたこともあったけど。
随分と俺に懐いてしまった様子。
この前まで腕の中で寝ていたのに。
俺の腰ほどにまで身長が伸びていた。
成長が早いなあ。
「ユーキ、なにしてるの?」
「お仕事だよー、皆がご飯をおいしく食べられるように、って思ってるの」
「ごはん、おいしいよー?」
「そうだけど……ほら、アルベルトは
「苺!苺好き!」
アルベルトの頭をなでながら、俺は笑ってしまう。
そういえば、君がこんなに喋るようになったのはいつ頃からだっけ?と思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます