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「こうしてみると、大分ここも拡がってきたなあ」
実った野菜をもぎ取る手を、ふと止めて。
俺は、ふう、と息を吐きながら周囲を見渡した。
土地はあれから、どんどんと広げていった。
木々も生い茂ってきたためか、土地の端まで見渡すことはできなくなっている。
最初は4LDKのマンションにも満たなかった土地だったのにな。
そして、俺の手にある
これは俺のチート能力で生やした野菜ではない。
種からしっかりと育てた通常の野菜だ。
専業農家でもないし、ノウハウも知らない、化学肥料なんて、もちろんない。
それでも瑞々しい果実は、思わず見惚れてしまうほど。
前世で見たスーパーに売っていた野菜よりも、見栄えが良いし大ぶりだ。
…………いや、どうだったっけ?
流石に転生して随分時間が経ったし……そういう記憶はひどく曖昧だな。
思えばスーパーで買い物するときに、野菜の目利きなんてしたことない。
気にするのは値段と、せいぜい生産地くらい。
誰が作ったかとかはもちろん、見た目がいいだとか色がキレイだとか、そんなこと一片たりとも考えたことが無かった。
……ま、比較するだけ意味がないことだけれど。
「土が良いんだろうなあ。手で掘れるくらいフッカフカだし。それに
赤く瑞々しい
美味しそうな野菜が出来て、嬉しさ半分。
そして、悲しさ半分だ。
そりゃあ自分が食べる食糧なんだ、見た目もいい方が良いに決まっている。
ただ、農薬も使ってないし何の対策もしていないのに野菜がキレイだということは、要は害虫……野菜を食べる虫とかが、一匹も居ないってことだ。
この世界にはもう、アブラムシとか絶滅してしまったんだろうか?
農家からすれば居なくなってくれたほうが清々するんだろうけれど。
アブラムシを食べるテントウムシも居ないんだろうか?
アブラムシと共存するアリはどこに行ったんだろう?
………
「……っと、おー、精が出るね」
俺はふと視界の端で飛び交う蜂に気が付き手を振る。
すると彼らは、俺に答えるようにその場で旋回した。
いやー、蜂って、頭いいんだなぁ。
まあここ毎日ずっと顔を合わせているし、色々とお世話もしている。
ひょっとして、養蜂家の一生分よりも身近で生活しているんじゃないかな?
それに多分、俺が花とか植えたり、巣を作りやすそうな竹製の箱を用意しておいたことをちゃんと理解している。
だから近づいても刺したりしないし、むしろ歓迎をしているような素振りだった。
まあ、ずっと隣人として近くにいたからな。
蜂の巣は、俺が巣箱を用意した分も含めて複数個出来ているくらいには成長していたし、ここを安住の地と認めてくれたようだ。
ちなみに、脱落したり、古くなりすぎて蜂が住むには適さなくなった巣は、俺は蜂の許可を得て頂戴していた。
蜂の巣……蜜蝋はなんにでも使えるからな。
あって困るものじゃあない。
そして蜂の許可、と言うのは文字通りの意味だ。
ダメもとで俺が頂戴したい旨を、身振り手振りでお願いしたら蜂自らが巣の残骸を総出で運んでくれたのだ。
……俺は夢の国のお
いや……ひょっとして、エルフだからか?
エルフに備わってる
まあ何にせよ、彼らとは末永く生活していきたい。
「……さて、続きをやるか」
俺は頭を振って、虫食い一つ無いキレイな野菜の収穫を続ける。
蜂が住み着いて以来、まだ新しい来訪者は来ていない。
だが、もし今来たとしても受け入れられるようにしておかないと。
時間はいくらでもある。
でも、急がないとな。
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