00010923

「あ"あ"ぁ~~……」


俺は自宅の寝床にごろりと横になり、呻き声をあげていた。

以前に焼き上げた、レンガを積み重ねて作った新居だ。


素焼きながらしっかりとしたレンガは、土壁で作ったものとは比べ物にならない程に頑丈だ。


それに屋根には、レンガと同様にして量産した粘土で作った瓦が敷いてある。


内装にもこだわり、炊事場と居間、寝室を壁で隔てて分けてある。

そして床にもレンガを敷き、寝室ではサンダルを脱げるように竹が敷いてある。


ベッドも竹を編んで作ったものだ。布団こそないが寝心地は比べようもない。


そして簡単ながら玄関には、これも竹で編んだドアを設置した。

明かりを取り入れられるように窓も作り、それでも暗い時には、と蜜蝋で試しに造ってみた蝋燭もどきも用意してある。


掘立小屋から家にランクアップしたのだと、俺は確信を持って言える。


……という、何度見ても飽きない俺の家なのだが。

俺はその竹ベッドの上に寝転び、唸りながら転がっていた。


顔は両手で覆ってしまっている。


今は何も見たくねえ。


「マジかぁ……いや、そりゃあそうだよなあ……そうだけどさぁ……」


絞りだすような声が口から洩れる。


特に意味がある言葉じゃあない。


だが、今はとにかく何か口に出さないと落ち着けないのだ。

無言でいることに耐えられないのだ。


それ故に俺は呻き声をあげて転がる存在になり果てていた。


幼児向けの玩具にありそうだな。


ちなみに……俺がこういう状態になっているのは、なにも病気になったわけじゃあない。

病毒耐性があるからな、だから



「そうだよなぁ……女になったんだもんなぁ、俺……」


そう、病気ではない……女性特有の生理現象が起きただけである。

……起きただけ、なんだけどなあ。


先日より、どうも身体の調子がおかしなことには気が付いていた。

だが、特段気にすることはなかった。


病毒耐性があるからな、深刻な身体の不調なんて起きないのである。

「なんか疲れてんのかな?」程度にしか考えていなかった。


そして今日、外で仕事をしていたら、真っ赤になっていたのである。

俺はマジでビビッて泣き散らかした。


病毒耐性のおかげか、痛みは殆どなかった。

よく聞くような体調不良とかも一切ない。


初めての経験だが(むしろ経験があったら怖いが)、後始末さえ終えてしまえば大したことが無いと、俺の理性はそう結論付けている。


だが、女性特有の現象が、俺に起きたという事実。

それは、俺に精神的な打撃ダメージを与えるには十分だった。


何せ精神は男、だと自認しているわけだからな。

肉体に思いっきり全否定されたのだ、そりゃあもう、辛い。



「…………はぁ、もうマヂムリ……」


そうやって、ここ数日間は仕事もせず、寝転がりうんうん唸っていた。

日課の苗植えだけは行っていたが。


そうして、身体が空腹を訴えだすころには、俺はベッドから降りられる程度には、少しだけ精神的に回復した。

……本当にほんの少しだが。


寝室の床に座り込み、膝を抱えるようにして、独り言をぶつくさ呟く。


「……でも、おかしいんだよな、色々と……

 何せ……これがだもんな……」


この女性特有の生理現象……俺の知る限りでは、月に1度とかの頻度で起きる現象のはずだ。


転生後の日数を詳しく数えていたわけじゃあないが、しかし俺の場合はそれより大幅に超過しているのは間違いない。

体調に問題があれば起きなくなることもあり得るかもしれんが、俺の場合は病毒耐性があるし、それはないだろう。


もちろん、俺が知ってる内容なんて本当に保健体育の授業とそれに+α程度の知識でしかない。

自分が体験したわけでもなければ、どういうものなのか勉強した記憶もない。


何かしら例外はあるかもしれないが……。


……例外か。

ひょっとして、純粋にエルフの生態なんだろうか?


まあ確かに摩訶不思議なのはそれだけじゃあないからな。


何せ俺はまだ催したことが無い……排泄物が出ないのだ。

正直こっちのほうが生物としては異常だよな。


エルフは消化器官が特別製で、摂取したものを完全に消化してしまうんだろうか?

でも体には、そういった器官はちゃんと備わっている。


食べ過ぎたり飲みすぎたりしたら出るんだろうか?

そもそも、食事の摂取量が非常に少ないもんな。


……まあ、疑問は尽きないが、答えはどこにもない。

蜂に聞いてみても解らない。


……答えてくれた方が困るか。ははは。



「……帰りたいなぁ……」


こういう時、家族に相談出来たら。

誰かに相談出来れば、どれだけ楽か。


別に答えが無くてもいい。


共感してくれる……いや、共感するフリでもいい。

うんうんと頷いて聞いてくれる、誰かがいてくれれば。


「帰りたい……寂しいよ……」


俺は前世の、置いてきてしまった両親のことを久しぶりに思い起こした。

先だった俺がこんな姿になっていても、慰めてくれるだろうか。


顔は覚えているが、でも声が、もうはっきりと思い出せない。


もう、妄想の中ですら、両親に声をかけてもらえないのだ。


俺は、膝を再度強く抱え、さめざめと泣き続けた。

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