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「ふんふんふ~ん♪」
俺は今日も今日とて、蜂たちの様子を見ていた。
彼らは今日も元気にブンブンと飛び回り、せわしなく動いている。
毎日来ている俺にも慣れたのか……あるいは害のない存在だと見做してもらえたのだろう。
最初こそ警戒のためか、近づくたびに周囲を飛び回っていたのだが。
今や時おり、羽を休めるために、俺の身体に留まったりしてくれる様子だった。
「おお~、巣も大きくなったなあ」
俺のエルフの女性の握り拳くらいしかなかった筈の巣は、今は立派な大きさに育っていた。
蜂も最初は数匹しか見ていなかったが、中で増えたのか、数えるのも億劫なほどになっていた。
「そ~ら、ちゃんと蜜を集めるんだぞぉ~」
蜂の巣の周りは、ちょっとした花畑になっている。
折角だからと俺が色々と植えてしまったのだ。
油も取れし食用になるからいいよな、と思って
同じく食用になるし、増えやすいよなと思って
もう食用じゃなくてもいいよね、とか思って
………
うん、やり過ぎた。
森の中がもう、ものすっごいファンタジーで色とりどりになってしまっている。
ま、まあこれは今俺の能力のチート成長速度でこうなってるだけだから……!
こいつらが普通に育ち始めれば、季節に応じて花が咲くようになるから……!
言い訳はさておき……流石にこれ以上はやめておこう。
ここからは離れているが、畑に植えた野菜の花とかからも、蜜を集めて欲しいしな。
蜂は植物の受粉を受け持ってくれるのだ。
……俺が能力で生みだした苗は成長すると勝手に種をつけてくれるんだが、その種で一から育てた植物は、そうはいかない。
彼らが居なければ、俺が手作業でやる必要があった。
本当に助かった……末永くお付き合いして欲しい。
世界の植物の三分の一は、蜂が受粉作業を行っていると言われている。
蜂が死に絶えた世界では、次に植物が死に絶える、なんて仮説もあったな。
……そう考えると、この世界もそうだったのかもな。
死に絶えるほどでなくても、もはや維持できない程に蜂が居なくなった世界。
鳥も蜂の羽音もしない
俺のためにも。
世界のためにも。
そして彼らのためにも、この場所は安住の場所にしないといけないんだ。
「生き残っていてくれてありがとう」
俺は蜂に声をかける。
傍から見たら危ない奴だが、構いやしない。
今ここに居るのは俺と、彼らだけなんだからな。
「ここで安心して育ってくれ」
俺の身体に留まった蜂たちが、返事をするようにブンブンと羽音をたてた。
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