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ゴリゴリ、ゴリゴリと音を立てて乾燥した薬草が粉末に磨り潰されていく。
苗を植えた薬草は順調に育ち、数も増えてきていた。
だから何本かは採取して乾燥させておいたわけだが……。
俺は、今回その採取した薬草を粉末にしている、というわけだ。
粉末にする、と聞いたとき。
おそらくは2通りの方法を思いつくのではないだろうか。
一つは、乳鉢とすり棒だ。
大きな丼状で細かい溝がついた皿に薬草を入れ、陶器の棒でゴリゴリと擦って潰すという道具だな。
確かそんな名前のギルド名だったり店名を掲げていたファンタジーの作品があった気がする。
……前世の記憶もまだしっかりあるとはいえ、さすがに思い出せないな。
まあいい、ただ今回は違う方法を用いている。
それがこの『薬研』だ。
こっちもファンタジー作品とかで見たことがあるかもしれない。
それとも時代劇とかのほうがメジャーかな?まあ、時代劇もファンタジーみたいなものだが。
丸い石の真ん中に棒を一本通して、緩やかにカーブした楕円形の皿の上で、この丸い石を前後させる。
すると皿の上に置いた薬草が粉末になるという代物だ。
こちらのほうが楽そうだったので、いろいろ苦労して試作品を造り実用化にこぎつけたわけだ。
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌交じりに、俺は薬草を粉末にしていく。
草の名前は解らないが……これは下痢とかに効果がある薬草を願って苗を作ったものだ。
出来上がった粉末は、表面に「下痢」と書いてから焼いた陶器の小さな壷の中に入れていく。
怪我とか頭痛とかも同様だ。
俺には不必要なものだが、これが将来やってくる人の助けになるのかもしれないからな。
「……人、なぁ」
あの後誰かがやってくる、ということは、まだ無かった。
将来誰かがやってくるかもしれないが……。
流石に、彼が
どこかに人はまだ生き残っているとは信じているが……。
まあそれが、この辺に居て、そして妙な木とかを見たからってやってこれるかと言うと別問題か。
かといって、前考えた通りこちらから探しに行くのは余りにリスクが大きい。
どうしたものかとヤキモキしていた。
ぷぅぅん……
「んっ」
パシンッ、と思わず手を払う。
耳元で羽音のようなものを聞いたのだ。
まったく、蚊でも出てきたんだろうかと見渡す。
そこに居たのは小さな虫……蜂だ。
壁に留まっていた。
あぶね……刺されなくてよかったなぁ。
虫刺されに効く薬草なんて、まだ育ててないぞ。
いや、虫刺されって病毒耐性でなんとかなるのかな?
それを加味しても、こんな生き物のいない世界で虫刺されとかって言う話だし……。
………
……ん?
羽音?
小さな虫?
「蜂?!」
俺は慌てて蜂に向かって近寄る。
すると蜂は逃げるように飛んで行った。
俺は蜂を追って家を飛び出す。
蜂はふらふらと飛んでいき、木々の合間を縫って、やがて花をつけた薬草の付近の木立に留まる。
そこにあったのは。
まだまだ小さいながら、
そこから何匹かの蜂が外に出て、花の蜜を集めたり、俺を威嚇していた。
「……ははっ」
俺は、その場でへたり込んだ。
「はははははっ!!ははははははっ!!!」
大声で笑った。
俺は、この異世界に来て、ここまで笑ったのは初めてだった。
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