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最低限の文化的な生活を目指し家を建てるという目標を立てたはいいが、その前に確認しないといけないことがある。


それは、木を植えたときに拡がる、土地のことだ。


今までは特に気に留めることはなく、せいぜい苗を植えるときに、手でも掘れる程度に柔らかく良質な土だと思っていた。

それを、苗を作る際に俺のイメージに合わせて植物の種類を変えられるように、この拡がる地面も、俺がある程度指定できないかと考えたのだ。

街路樹を植えている場所のようなコンクリート舗装とかは無理だろうが……

例えば粘土質の土壌だったり、砂や砂利を含んでいたり、水辺だったり。


もしできるなら相当、できることが広がる。



まずは、いつものとおりに木の苗を作り、それを植える。

その時に湖をイメージした。

が……新しくできた土地は、他と同じ良質の土だった。



「まあ、そりゃあそうか」


そもそも湖になったら木が生えないわな。

ともあれ、まだ最初の検証だ。

時間はいくらでもある、焦らずにやればいい。



「さて、これからじゃあ何をするか、だけど……」


とりあえずの目標は『家を建てる』だが、俺はそういった手順を知らない。

前世で建築関係の仕事や勉強をしていたわけじゃあない。

まあ、経験があったとして電動工具や鉄筋コンクリートが前提になっている技術をどこまで流用できるのかは解らないが……。


……ん?工具?



「そうだな、まず手近な道具でも作るか。

 …………

 ……石斧とか?」


こういうサバイバル系やクラフトするゲームで皆が最初にやることだ。

誰だって石斧を作る。

勿論この世界はゲームじゃあないんだが……とはいえ、道具は必要だろう。

枝を加工するにも……今後、木を伐採するにしても斧は必要だ。


そうして土地を探し回ってみると、ちょうど手ごろな大きさの……俺の握り拳よりも2回りも3回りも大きな石ころが見つかった。


……しかし、この身体の手は小さい気がする……比較できるものや鏡がないからいまいちわからないが、エルフだけど人間よりも大柄で背が高い、なんてことはないのか?


まあいい、石を手にした俺は、岩のある場所へと移動する。

そして石を岩に、刃物を研ぐようにして、こすり合わせていく。

石を研磨して形状を整えるのだ。

石が削れて白い跡が岩肌にいくつも残っていく。

ゴリゴリ、シャリシャリといった甲高い音がしばらく響いた。




「ふう、こんなもんかな」


そうやって1日ずっと作業すると、石が「ちょっと斧の頭部分のような形かな?」と思えるくらいには変わった。

空を見上げれば、木々のある所だけ雲が晴れて、すっかり夕暮れの色に染まっていた。

これも結界バリアの力なんだろう。

黒と灰色の世界でここだけ、緑に朱色の光が差し込んでいる。



「ふわぁ……」


エルフは日が沈むとすぐに眠くなる。

俺は頑張って削った石を大事に握りながら、最初に植えた……今はかなり太く立派になった木の根元で丸くなって眠った。

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