第8話 卯月さんと圭くん

お昼休みに呼び出されて生徒会室に行ったら、来月の運動会についての話だった。


そして今はもう放課後。

2度目の生徒会室に向かうところだ。

「失礼します」

中に入ると奏汰くんがいた。

「か、奏汰くん。如月会長はどこにいるか知ってる?」

「…知らね」

「そっか…。ありがとう」

(う〜ん…会長に言いたいことあったんだけど…)

私は肩を落とす。

「…なんだよ、そんなにあいつがいなきゃ嫌なわけ?」

「え…?そういうわけじゃないんだけど…」

「じゃあ、何?」

「運動会のことで言いたいことがあって…」

(いつもにして無表情だけど…なんか怒ってる気がする)

「あっそ」

(な、何だったの…?)

その後結局如月会長は来なくて奏汰くんと仕事を終わらせた。


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そして次の日の朝。

「おはよ、律輝」

「おはよう、友梨」

いつものように手をつなぐ。

何故これが始まったのかはわかんないけど、最近毎日していたから慣れてきた。

「ねっ、律輝。来月の運動会、なんの種目やろうと思ってるの?」

「あー…運動会か…」

律輝は面倒くさそうに言う。

「律輝は運動神経がいいからな~」

律輝はめちゃくちゃ運動神経がいい。

小学生の頃に測った50メートル走の記録はなんと、7.8秒だった。

ちなみに私は8.8秒。

丁度、1秒差だ。

「友梨はなんの種目出るの?」

「んー、…余ったやつかなぁ」

(去年、余ってたのは綱引きだったから…今年もそうなるかな?)

「律輝は選抜リレー、出るんじゃない?」

「あー…そうかもな。っていったら、友梨も出るだろ」

「えー、私はでないよ」

私は選抜リレーが好きではない。

プレッシャーがすごいし、人の視線が気になる。

だからといって、わざと遅く走るわけじゃないけど。

「もうついたね」

今日はやけに学校につくのが早い気がした。


「おはよう」

「おはよ」

「おはよー」

二人で瑠海に挨拶をして、席に座る。

「そういえば、最近瑠海、学校来るの早いよね」

「あー、そうそう。宿題、わかんなくてさぁ。皆に見せてもらおうと思って」

瑠海はテヘッ☆と笑う。

(早起きするのはいいことだけど……理由がなぁ…)

私はニコニコしている瑠海に苦笑いを浮かべた。

「あっ、今日さ、運動会の種目の何に出るか決めるんだって!」

「今日なんだ!」

(まさか、朝の話題がここで決まるとは…。ってことは、今日100メートル走のタイムを測るんじゃない…?)

まさにのその予想は的中したのだった。

「今日の1時間目に100メートル走をしまーす」

(それで、決めるのね。誰が選抜リレーに出るか)

「じゃあ、出席番号順に四人ずつ並んで」

先生の声で皆が並びだす。

(そうだ…!私の名字って麻木だ…)

私は出席番号が一番なのだ。

私は一番前の端っこに立つ。

「位置について……よーい…スタート!」

先生の声で前の四人が走り出す。

私はスタートダッシュがうまく行ったから、今は一番。

だけど、あと30メートルほどになってきた時、後ろにいた女の子が抜き返してきた。

(足速いな、あの子)

私も全速力を出して、その子に追いつく。

彼女はぎょっとした様子で私を見てくる。

(行けるかも…)

あと一歩でゴール。

その、一歩を先に踏んだのは私だった。

わああああぁと次に走るみんなの声が聞こえた。

(あはは、なんでこんなに騒いでるの?運動会でもないのに…)

「はぁ、はぁ…っ」

となりの女子、2位だった子が息を切らして私の前を歩いていく。

そして、前にあるその子の水筒らしき物を飲んで、ぼそっと何かをつぶやいた。

「麻木さんって足も早かったのね…」

(何か、私のことについて言ってる!?

っていうか、わたしの名前知ってるの…って、クラスメイトなんだから当然だよね…私は覚えてないけど)

悪いな…と思い、その女の子の名前を思い出す。

(一番前の列にいたから……あっ!)

「卯月空恋さんだ!」

「はっ、はい」

私は思わず声に出してしまった。

そしたら、卯月さんはビクッとした様子で返事をくれた。

「あっ、ごめんなさい…」

ペコリとお辞儀をして、スタートに並んだところの後ろに並んだ。

彼女の名前は卯月 空恋さん。

腰まで届くキレイな黒い髪に真っ黒な目。

整った容姿。

卯月さんは美人ってことで有名な女の子だった。

(そんな子なのになんで気づかなかったんだろ…?私ってそんなに記憶力が悪いのかな?)

そんなことをしているうちにもう、2周目が終わっていたみたいで、律輝が私の後ろに座る。

「友梨、俺の走り、見てたか?」

嬉しそうな顔で聞いてくる律輝。

「見、見てませんでした…」

「えっ」

「ご、ごめん…」

律輝が悲しそうな顔をしてうつむいた。

(子犬みたいだな…)

「ごめんね?」

そう言って、律輝の頭を撫でた。

(これがでかい犬を撫でる気持ち…)

すると、律輝の顔はみるみる真っ赤になった。

「あら、お二人は付き合っているのかしら?」

いつの間にか、隣に座っていた卯月さんがニヤッとして聞いてくる。

「違うよ、ただの幼馴染だよ」

「ふぅん」

きっぱり否定すると、まだ納得していないのか卯月さんはそんな声を上げる。

「ほんとに幼馴染だよ?」

ね、と律輝の方を見る。

すると、さっき見た悲しそうな顔をまたしていた。

(な、何だこいつ…。いつまで、あのことを引きずるつもりだ…)

私は少し呆れてもうどうでもいいや、と前を向くともう結構進んだみたいで、後ろから5列目の人達が走り出すところだった。

「位置について…」

「よーい…ドンッ!」

4人が一斉に走り出す。

その中にはダントツで速い男の子がいた。

「圭だわっ!」

卯月さんはキラキラと目を光らせてその男の子を見る。

(あ、あれって圭くんだったんだ…。遠くてわからなかった)

「二人って知り合いなの?」

(なんか呼び捨てだし)

「知り合いなんかじゃないわよっ!」

「ええっ!?」

少し怒ったように言う、卯月さん。

「圭と私はいとこなの。知り合いじゃないから」

(へぇ、初耳だ。私は圭くんとは去年の修学旅行で同じ班になったことがあるくらいかな…)

その間にもう、圭くん達の100メートル走は終わっていた。

やっぱり、圭くんが1位だったらしい。

「圭…流石ね…」

卯月さんがうっとりとした目で、圭くんを見る。

「よーい…ドンッ」

最後の4人が走り出す。

(圭くんより早い人いるかなぁ)

速い人はいるんだけど、やっぱり圭くんを超す人はいなかった。

(ふぁ〜、やっと終わったぁ…)

体育の授業はあまり好きじゃないから終わったことが嬉しい。

「圭〜」

水分補給をしている圭くんを卯月さんがきれいな声で呼ぶ。

「ちょっとまって…今、行くから」

そう言って、圭くんが走ってこっちに来る。

「何?…って、え?」

圭くんは卯月さんの後ろにいた私達のことに気づいてなかったらしくこっちを見て硬直してしまった。

「……なんか、ごめんなさい…」

私は邪魔者なのかなって思って、その場を立ち去ろうと思った。

「あ、いや違うよ…別に邪魔とかじゃないから…」

「……あ、ありがとう」

そう言うと、圭くんはほっとしたように胸をなでおろした。

「……圭、今日おかしいわ。保健室にいきましょう」

「…えっ、ちょっと…空恋…!」

卯月さんにほとんど無理やり保健室に連れて行かれた、圭くん。

(具合、悪かったかなぁ…?私にはそうは見えなかったけど…あれか。長い付き合いだからわかるのか)

「帰ろうぜ、友梨」

後ろで律輝が言う。

「うん。そうだね」

「律輝と圭くんってどっちの方が速いの?」

「俺に決まってんだろ」

(自信たっぷりマン…)

「えー、そうかなぁ。私は圭くんの方が速そうに見えたけど」

律輝はこう言うと恥ずかしがるかなーと思って、言ってみる。

「えっ…そ、そうなの…?…って、友梨は俺の走り見てないだろー!」

恥ずかしがってはいなかったけどいい反応がもらえた。

「テヘッ☆バレちゃった!」

「お前ー!」

この後、私はふざけたことによって追いかけ回されるのだった(そのせいで皆より教室に戻るのがだいぶ遅れちゃった。けど、授業に間に合ってよかったぁ…)。


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「あ、卯月さん…と、圭くん」

二時間目が終わった時、卯月さんと圭くんが教室に入ってきた。

「圭くん、体調大丈夫だった?」

「体調?うん。全く異常なし。空恋に連れてかれただけだからね」

「そっか。よかったね」

「…良かったのかな?」

圭くんは自分の席に戻っていって、それに続いて卯月さんも席についた。

その時丁度、チャイムが鳴って、次の授業が始まった。

「じゃあ、早速運動会に出る種目を決めるぞー」

(そういえば、瑠海がそんなこと言ってたな)

先生が黒板に運動会でやる競技を書く。

黒板には────


大縄跳び(全員)

徒競走(100メートル、全員)

組体操(全員)

綱引き

二人三脚(女子)

二人三脚(男子)

障害物リレー

借り物競争

全員リレー

選抜リレー


────と、書かれていた。

(わっ、全員が多い…!)

「じゃあ、綱引きやりたい人〜」

8人くらいの人が手を上げた。

私のクラスは36人。

「じゃあ、綱引きは決定でいいな?」

「は~い」

「じゃ、次。女子で二人三脚やりたい人────」



────と、こんな感じで決まって行って、残りが借り物競争だけになった。

ちなみに、律輝は二人三脚(男子)を物として手を挙げる。

(借り物競争が余るんだ…。借り物競争って人気なのかと思ってた)

「決定〜」

そうして、私は借り物競争に出ることになった。

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