第7話 複雑 律輝 Side

朝、友梨が生徒会に入るという話をした。「友梨を応援する」と言ったが、そんなの綺麗事でしかない。

生徒会に入る事は、本当は全力で反対したい。

なぜなら生徒会は友梨以外全員男だからだ。特に如月 碧羽。もし友梨がアイツを好きになってしまったら、きっと、友梨は俺を見てくれなくなる。それは何としてでも防ぎたい。

でも、その代わり昼メシと昼休みの時間、友梨と過ごせるようになった。

それで、友梨が生徒会に入ったことを許したわけではないが……。



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「友梨!どこで食べる?」

待ちきれなくて、昼の時間になってすぐに、俺は友梨のもとへ向かった。

「あ、ちょっとまってて」

友梨はそう言い、後ろを向いた。視線の先には瑠海がいる。

まさか……いや、そんな訳ないよな。瑠海と3人で食べるわけ……

「瑠海ー!!こっち来て!」

「何?友梨…あっ、そっか!!お弁当持ってくる!」

────最悪の予想が的中してしまった。

二人だけで食べるのかと思っていた弁当の時間は、またしても瑠海に邪魔されてしまうのだ。

絶望で同じ言葉を何回も繰り返していると、友梨は何故か悲しそうな目でこちらを見ていた。

神妙な顔で目を合わせ続けていると、瑠海が弁当箱を持って走ってくるのが見えた。

瑠海が来ると、友梨はいつもの表情に戻り、俺にどこで食べるか聞いてきた。

でも、その前に問い詰めたい事がある。

「友梨…話が違うぞ」

二人きりだと思っていたのに…という視線で友梨を軽く睨むと。

「だ、だって律輝が私と食べたいって言ったんじゃん!瑠海と二人がいいなんて知らないよっ!」

全く意味の分からない返答が返ってきた。

……?友梨は何が言いたいんだ?全く会話が噛み合っていない気しかしないぞ……。

「何を言ってるの、友梨」

「何って…何が?」

……これはもうダメだ。多分このまま話し合っても理解不能のまま終わってしまう。でも友梨の言ったことの意味を知りたい…!

「とにかくお昼ごはん食べよっ!」

そんな瑠海の声で俺はやっと我に返った。気づくと俺が友梨に声をかけてから5分程経っていた。

俺達は、今さっきのことは後でにすることにして、弁当を食べるのを優先した。



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屋上につく。

桜が散り、緑が見えはじめた木々が目に入った。

もう5月か。友梨の誕生日が近いな。

そう思いながらぼーっと木々に目を奪われていると、友梨が、

「なに見てるの?」

と言ってすぐ隣に来た。

肩が当たりそう…というかもう当たっている。

ち、近い…!俺からグイグイ行くのは得意だけど、友梨から来られるとちょっとヤバい…!

恥ずすぎるから助けてくれ!と、後ろにいる瑠海に、助けを求めようと振り向くと、瑠海は、遠い目で友梨と俺をじっと見つめていた。

「瑠海?」

「っ…な、なに?」

俺が声をかけると、瑠海は戸惑った様子で答えた。校庭の景色が綺麗で見とれてたのかな。俺はそう自己解決した。

「校庭しか見えないよ?律輝。何を見てたの?」

教えてよ、と言うように、友梨はふくれっ面になる。可愛い。

「校庭だよ。てか、そろそろ弁当食おうぜ、友梨、瑠海。」

「…そうだね」

「あっあそこで食べようよ!」

「おう。そうするか。」



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「あのさ、さっきの事だけど…」

「はいは~い、その話は違うときにしてね〜」

真意を知りたくて会話をふっかけたら、瑠海にその話題をバサッと切られてしまった。

「もっと楽しいこと話そ?私にとって今は貴重な時間だから」

瑠海は、拗ねるような、それでもって悲しそうな顔と声音で言った。

……俺はあの時の謎を解き明かしたいのだが。でも、そんな顔されたら言いにくい。

…いいや。今度聞こう。

「そうだねっ!何話す?」

無駄に元気のよさそうな声を出した友梨。気を遣ったな、俺はすぐにそう感じとった。

あ、という風に友梨がポンと手を打つ。

「恋バナとかする?」

純粋無垢な笑顔で友梨が言った。

こいばな…恋バナ?!

恋バナ…ということはもしかして友梨の好きな人が分かる!?

でも…

「……恋バナって皆答えるの?」

「どうなの…!?」

便乗するように瑠海が続ける。

友梨は迷いに迷った末、

「え、えーっと…ま、まぁそういうことで!」

そう答えた。

俺は心のなかでガッツポーズをする。

「じゃあやろう!」

瑠海も同感のようだ。さっきの沈んだ表情とは一変して、楽しみでたまらないような表情を見せている。

「じゃあ、言い出しっぺの友梨からね!」

瑠海ナイス!

「ええっ、私!?」

友梨が驚愕の表情を見せる。

「友梨、絶対言ってね」

とうとう友梨の好きな人が分かる……!

「…期待しないでよ?」

「「うん!」」

「私……好きな人…」

次の言葉を待つ。

そこで、俺ふと思った。

……あれ?もし仮に、友梨に好きな人がいたとして、それは俺じゃないのかもしれないのか?これでもし友梨が如月碧羽を好きといったら……

一気に楽しみな気持ちが消え失せる。

それとほぼ同時に、友梨が口を開いた。

「…いないんだよね」

……!!

「い、ないの…?」

「え…!ほ、ほんと!?」

他の男子が好き、と言っていなかったのはとても良かった。が、なんか…複雑だ。何が複雑なのかは…よく分からないが。

隣で瑠海が嬉しそうにはしゃぐ。

「瑠海…なんで嬉しそうなの?」

「えっ…えと…ゆ、友梨のことが大好きだから、まだ好きな人がいないなら誰にも取られないかなー…って…」

だろうな。そんなことだと思った。

「瑠海!私は取られないから大丈夫!安心して…!」

……複雑。何がかは分からないがとにかく複雑。

悶々とその言葉の意味を頭の中で考える。

「はいっ、気持ちを切り替えて、次は…律輝ね!」

「俺っ!?」

「そう、俺!」

突然の事だったので、声が裏返る。

お、俺っ?!

「っていうか、律輝って好きな人いるの?」

うーん。俺に、好きな人……?

俺に、好きな人??

「お、俺って……好きな人がいるのかな…?」

純粋な疑問。

「「…は?」」

まあ当たり前の反応をされる。

「「何いってんの…?」」

…被るなよ、言葉。

「いや、俺もよくわかんないんだって…!」

いそうな気がするのに、いない気がする。

いない気がするのに、いそうな気もする。

要するに、分からない。

「ん~っとそれは律輝に好きな人がいないってことでいいんだよね…?」

「……多分」

いないってことで、いいんだよな?自分の言ったことに疑問を持つ。

「うーんそっかぁ……。じゃあ、最後は瑠海だね」

友梨が瑠海に話題を向けたので、この疑問は強制終了させる。そこまで重要じゃないし。

瑠海の好きな人、か。いなさそうだな。

「…えっと…う~ん…」

必死に考えるような顔で瑠海は唸る。

それは、言おうか言わないか迷っているように見えた。ということは…

「いる…にはいる」

「えっ!?えっ!?ええっ!?」

「おおっ!?」

驚きの答えが返ってきた。

瑠海に好きな人!?あの、瑠海に!?

俺はただただ驚く。友梨大好き女に、好きな人!?

…友梨って可能性もあるか。

「誰っ!?誰なの!?」

「うっ、それは…」

友梨の問いかけに、瑠海はまた迷うような顔を見せる。言うのを躊躇うってことは、その「好きな人」は異性だと確信した。

「誰なんだっ?」

それなら、聞くしかない。

「わっ、私の好きな人は……っ」

半ばヤケクソのような声音で瑠海が言う。

予想もできない。誰なんだ!?

「…りっ…!」


キーンコーンカーンコーン─────


『生徒会役員は生徒会室に集まってください。もう一度繰り返します。生徒会役員は……』

チャイムが鳴り響き、その後に放送が流れる。

「あっ、ごめん。行かなきゃ…!」

いそいそと荷物を持ち、友梨が屋上を後にする。

「…友梨、いなくなっちゃったね…」

「ああ……」

あんなタイミングでチャイムが鳴るなんて……タイミングの悪すぎにも程がある。まるでチャイムが悪戯をしたようだ。

友梨と3人になった時、また聞くか。

「じゃあ、もう戻ろっか」

「え?なんで?」

「…友梨がいないから」

「友梨がいないからって瑠海と昼休み遊ぶのは変わらないだろ?」

本当は友梨と二人だけで遊びたいけど、今ここに友梨はいないし、一人も暇だから。

「はぁ……。そういうところだよ」

「えっ!?なに?なんのこと!?」

何のことだ!?俺、なんか変な事言ったか?!

「そのうち分かるよ」

「…?」

理由が分からなくて、首を傾げる。

すると、瑠海にフフッと笑われた。

お前…!俺をバカにしてるのか…!?


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