三幕目
ぽこぽこ、ぽこぽこ、と熱せられた
初歩的な術式に寄る
神殿での騒動から帰路に着いて数日。今に思い返して考えて、考えて、省みてもアレは好奇心を抑えきれなかった私の大失態である。如何に店子の修道女に許可を得たからとは言っても所詮は権限を持たない者との口約束に過ぎず、他の権利者に見咎められれば部外者厳禁の私有地に軽率に踏み入った私に弁明の余地はない。加えて私があの場で目にした光景は神殿に伝わる慰霊の儀式、死者を弔い送る祭事に似て。ましてや大気に滞在する
が、それはそれ、である。
ぱちんっ。
と、軽快に指を鳴らし術式を起動させると、並べた硝子瓶が淡く発光する。それは聖水から分離した
危険を冒しただけの対価は得ていた。それを今、確信する。
クラリス.ティリエール助祭。彼女から受け取った聖水に籠められた
我が黄金の君。年の頃は十代後半であろうか。脳裏に思い浮かべて。見目麗しい少女は私の
兎も角である。
近々に解決すべき問題の一つである私以外の術師に依る
であるが、あの年で助祭位にあるのは
最後の難題である工房の移転阻止の為。その対価として私は冒険者ギルドの正式な契約商人となった。対等な関係性の上で任せた案件に。ましてや貴族絡みの交渉事に首を突っ込む気などは毛頭ないが、別件ともなれば話は別で。私個人の都合でギルドの力を最大限利用させて貰う事に何ら罪悪感は抱かない。向こうは向こうで神殿との交渉に私の
商人としてのクリス.マクスウェルは世間を知らぬ才無き凡愚の類であろうと。悔しいが自覚くらいは持っている。ゆえに多くを学び得てこそ、この時代に目覚めた意味がある。旅は半ば。迷う事なく進む為、利用出来る全てを私は利用する。そう、今代においての私は魔性の女なのである。
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