皇女の本当の居場所 ※アビゲイル=オブ=ウッドストック視点

■アビゲイル=オブ=ウッドストック視点


「……そろそろ、まいりましょう」


 窓の外の月を見つめ、私はゆっくりと席を立つ。

 これから、彼女・・と話をするために。


 私に付き従うのは、グレン卿とハンス。

 本当は向こう・・・のほうが危険なのですが、愛する御方はがんとして譲らず、グレン卿を私のそばに置いたのです。


 ハンスについても、彼女・・と話をする上で必要になるからと、こちらも譲らず私と同行しています。

 本当に、私の愛する御方は過保護でいけませんね。


 ですが、こんなにも大切にしていただいていることが嬉しくて、このようについ口元を緩めてしまうのですが。


「アビゲイル殿下は、またギュスターヴ殿下のことをお考えで?」

「……さあ、どうかしら」


 ハンスに指摘され、私は素っ気なく答える。

 いけません。気を引き締めませんと。


 ちなみに、サイラス将軍は別の場所・・・・におりますため、私やあの御方のそばにいることもできません。

 最後の最後まで私達のことを心配してくださっておりましたが、彼もまた自分の役割がありますので、しっかり果たしていただかなければ。


 ある意味サイラス将軍こそが、今回の策の成否を分けると言っても過言ではありませんから。


「ですが……本当に、こんなところに……?」

「グレン殿は、ギルドの情報を信用できないので?」

「む……」


 そう……私達は既に皇宮を離れ、皇都の外れにある一軒のさびれた屋敷の前におります。

 彼女は、ここにいますので。


「彼女がいるかどうかは、入ってみれば分かります。まいりましょう」

「はっ」

「はい」


 グレン卿がゆっくりと門を開け、敷地内へと入って行きます。

 私とハンスもそれに続き、さらに奥へと進むと。


「何者だ……って、これはグレン様と、それに……アビゲイル殿下!?」

「彼女はいるかしら?」


 玄関の前にいた二人の兵士を一瞥いちべつし、私は抑揚のない声で尋ねる。

 今ばかりは、『ギロチン皇女』としての姿で。


 あの御方には申し訳ありませんが、『ギロチン皇女』の仮面は素顔を隠すにはちょうどいいですから。

 だから……今回だけは、お許しくださいませ。


「しょ、少々お待ちを!」


 兵士は慌てて屋敷の中へ入っていったかと思うと、五分もしないうちに息を切らして戻ってきた。

 蛇のような目つきをした、初老の執事を連れて。


「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」

「ええ」


 執事の案内により、私達は屋敷の中へと足を踏み入れる。

 屋敷の中は充分な明かりも用意されておらず、執事の持つランプがなければ暗くて歩けないほどだった。


 そして。


「こちらに、お嬢様・・・はお待ちです」

「ありがとう」


 扉が開けられ、私達の視界に飛び込んできたのは。


「あら……お姉様、こんな夜更けにどうなされたのですか?」

「ブリジット……」


 椅子に腰かけて微笑みをたたえる、私の腹違いの妹であり、第二皇女のブリジット=オブ=ストラスクライドだった。


「あなたこそ、ノルウィッチにいるはずなのに、どうしてこの屋敷に?」

「ウフフ……あの田舎町、つまらないんですもの」


 私の皮肉を、ブリジットはクスクスと笑って返す。

 ですが、さすがは情報ギルドですね。まさか本当に、ブリジットが皇都ロンディニアに潜伏しているとは、思いもよりませんでした。


 ギルドの調査によれば、ノルウィッチにいるのはブリジットの影武者で、本当の彼女はずっとここに潜伏していたとのこと。

 ゴールトン伯爵の従者が定期的にこの屋敷を訪れていたことで、所在をつかんだのだとか。


 愛しいあの御方のそばに、私以上にいるのは心から気に入りませんが、あの御方や私にとってこれほど有益なのであれば、目をつぶらざるを得ませんね。


「……まあいいでしょう。ところで、あなたも知っていると思うけど、王国の使節団がもうすぐ皇都にやって来るわ」

「そうらしいですね」

「単刀直入に言うわ。あなたの母であるパトリシア皇妃を、エドワード殿下のおそばから……いいえ、皇宮から即刻追い出しなさい」


 そう言い放ちますが、ブリジットは眉一つ動かさず、相変わらず微笑んだままで私を見据えます。


「お姉様。あれ・・は勝手にお父様のおそばにいるだけですわ。私に言われても、どうしようもありません」

「そうかしら? ブリジット派の面々が彼女を強引に引き離せば、済むことではなくて?」

「ですから、どうしてそれを私に頼まれるのですか? そんなにお嫌なら、お姉様が自らなされればよろしいではないですか」


 ブリジットは面倒そうに、そう言い放ちます。


「……本当に、それでいいのね?」

私は・・構いません。ですが、皇国の忠臣や民達がどう思うでしょうか」


 ふふ……私は、その言葉を聞けただけで充分。


「グレン卿、ハンス、確かに聞きましたね?」

「はっ! しかとこの耳に!」

「はい、間違いなく」


 両隣に立つ二人に確認すると、どちらもしっかりと頷いた。


「では、早速実行するといたしましょう。『ブリジットの許可を得て、パトリシア=オブ=ストラスクライドを国家反逆罪で流刑とする』ことに」


 そう言うと、私は『ギロチン皇女』らしく、口の端を吊り上げた。


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新作を始めました!


『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~


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絶対に面白いので、どうぞよろしくお願いします!!!

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信じていた聖女に裏切られて王国に処刑された死に戻りの第六王子は、復讐のために隣国の『ギロチン皇女』と再び婚約した結果、溺愛されて幸せになりました サンボン @sammbon

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