騎士との手合わせ
「ハア……ッ! ハア……ッ!」
そうだ……僕は、戻ってきたんだ。
全てに裏切られ、彼女を死に追いやるきっかけとなった、今日という日に。
「あ、あはは……っ」
目が覚めて、三年前の婚約発表の日……つまり、今日の朝に死に戻ったことを知った時には、大声で
だって、僕は僕を裏切り、罠にはめた連中に復讐することができるのだから。
アビゲイル皇女を、あの結末に導かずに済むのだから。
何より……
「そのためには、絶対に間違えるわけにはいかない」
王国の連中は、
アビゲイル皇女の夫である、僕の権限を利用して。
逆に言えば、僕は王国がどのようにして皇都を制圧したのか、その全てを把握している。
なら、それを逆手に取って、王国の企みをことごとく潰してやる。
もちろん、それだけじゃ面白くないので、思う存分
「だけど……アビゲイル皇女との婚約式までは、まだ三か月もある」
「……まあいいや。
僕は拳を握って気合いを入れると、部屋を出て騎士達の訓練場へと向かう。
ストラスクライド皇国内には、ヴァルロアの王子である僕を敵視している者は多い。
もちろん、アビゲイル皇女が僕に絶対に手出しさせないよう、騎士に護衛させて守ってくれてはいたけど、その騎士自身の暴走などを含め、命の危険に
なら、自分の身は自分で守れるようにしないと。
……いや、違う。
ということで。
「九八一……九八二……九八三……ッ」
「「「「「……………………………」」」」」
騎士達の訝しげな視線を無視し、僕は一心不乱に木剣を振る。
一応、剣術そのものは
何とかして、
「九九八……九九九……一千……ッ!」
剣の素振り一千回をやり遂げ、僕は膝をつく。
やはり、まだ身体が出来上がっていないために疲労がすごい。
「ハア……ハア……つ、次だ……っ」
僕は木剣を置き、走り込みを開始しようとして。
「ギュスターヴ殿下、少々よろしいですか?」
一人の騎士が、声をかけてきた。
だけど、その表情……どこか僕を馬鹿にしていることが
ああ、知っているよ。王宮騎士は王家に忠誠を誓っているのであって、不義の子である僕をその一員として認めていないことを。
僕だってオマエ達にそんなものは求めていないし、剣を捧げられても迷惑なだけだ。
「お一人で訓練をされても、なかなか上達しないでしょう。それに、剣の訓練は実戦こそが一番の近道。どうです、この俺と手合わせをしませんか?」
なるほど……この騎士の目的は違うだろうが、基礎体力を含めそのほうが鍛えられるのも事実。
なら、僕に否やはない。
「ありがとう、助かるよ」
「そうこなくては」
僕は置いたばかりの木剣を再び手に取り、騎士に案内されて訓練場の真ん中へ移動する。
他の騎士達も、僕達の様子を見て訓練の手を止め、こちらに注目した。
「さあ、はじめようか」
「ギュスターヴ殿下、それなりに持ちこたえてくださいよ」
木剣を構える僕を見て、騎士は口の端を持ち上げる。
さて……侮ってくれるのはいいが、真剣に相手してもらわないと訓練にならないんだけどな。
なら。
「始……っ!?」
王宮騎士団の副団長を務めるクレマン=バラケによる開始の合図を待たずに、僕は一気に詰め寄り、騎士の木剣を叩き落とした。
「ごめん……気が
「…………………………」
僕は頭を下げて謝罪すると、騎士は無言で落とした木剣を拾う。
だがその視線は、先程までのような見下したものから、僕に恥をかかされたことによる怒りに変わっていた。
「では、再び構え……始め!」
「うおおおおおおおおおおおおッッッ!」
仕切り直し後の試合開始の合図と同時に、騎士が木剣を構えて突進する。
冷静さを失っているせいか、動きも単調だ。
とはいえ。
「ぐ……っ」
体格も筋力も、素早さだって向こうのほうが上。体重の軽く非力な僕では、騎士の剣撃を受け止めるだけで押し込まれてしまう。
「ほらほら、どうしたんですか! これじゃ訓練になりませんよ!」
思いきり木剣を打ち据えることができて、気分がよくなったのだろう。
ついさっきまでの怒りの表情から一変し、
だが、この騎士は分かっていない。
防戦一方とはいえ、有効打を一度も入れることができていないことに。
「ほら! ほら!」
「……っ!」
ますます調子に乗り、騎士の剣は大降りになっていく。
チラリ、と周囲を
そろそろいいだろう。
「さあ、これで終わり……っ!?」
「ああ、これで終わりだ」
「ごぽ……ごぽぽ……」
「っ!? いかん! 早くコイツを医務室に連れて行くんだ!」
白目を剥き、口から血の泡を噴いている騎士を、他の騎士達が血相を変えて運び出す。
僕はその様子を見て、口の端を持ち上げた。
「っ! 次は俺が!」
「いや、私にやらせろ!」
騎士の敵討ちとばかりに、残っている騎士達が次々と名乗りを上げる。
だが。
「駄目だ! 手合わせはもう
王宮騎士団の副団長が強制的に終了させ、血気に
このまま続ければ、僕に危害が及ぶことになりかねないからね。
しかも、アビゲイル皇女との婚約だって控えているんだ。万が一のことがあったら、それこそ全員の首を
「……ギュスターヴ殿下も、どうかこの辺で」
「ああ、分かったよ」
忌々しげに睨む副団長を
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