第6話 3人目

 さていよいよ突撃する時が来たようだ。

 目の前には隣のビルへの道筋が映し出されている。


(ではポーンといきましょう)


 ウリカちゃんの無機質な声が響く。

 画面下のウリカちゃんのアバターウサギっ娘は何やら楽しそうだ。


 仕方ない、おじさんは覚悟して飛ぶ事にする。


「ポーンと行ってやるぜ!」


 助走しガイド通りの位置で向かいに見えるビルに飛び上がった。

 あっという間に飛び出したビルは後ろに流れ、はるか下に有る道路が見えた。


 お隣さんがゴミ出しをしているのが見える。


「今日はゴミ出しの日じゃないのにお隣さんまた違う日にゴミ出してんのか…」


「ん?」


 何か言い争う様な声が聞こえた気がした。

 そして音も無く余裕を持って隣のビル屋上に着地する。

 一瞬のようなすごいゆっくりだったような不思議な感覚だった。


(おめでとうございます)


「ああ、やったよ!飛び移れた!」


(違います。能力を発現しました)


 そっち?


(勇者の気概、ナイトアイ、ヘルイヤーを発現しました)


「3つも!?」


(通常の人が出来ない事を成功させるとで能力の発現確率が高くなります)


 そうかそれでビルを飛べと。

 なかなかやるじゃないかウリカちゃん。


(最初は大体失敗して落ちるのですが…)


「落ちるの前提だったの!?」


(発現した能力の説明を聞きますか?)


「う、うん…」


 なんか誤魔化された感じだ。


(勇者の気概、自身には絶対出来ないと思う事を強い勇気で実行出来る)


「おお、死ぬ気で飛んだからな!」


(ナイトアイ、夜でも昼間の様に見る事が可能で遠くも拡大した様に見る事が出来る)


「飛んでた時に見えたあれか〜」


(ヘルイヤー、遠くの音を聞き分ける事が出来る)


「これも飛んでた時に聞こえたやつか」


「どれも良さそうな能力だな、が今はちょっと急ぐ!」


 そう言って残りのガイドに従い次のビルに飛んだ。

 その次、そして例のビルから飛び降りる所も躊躇なく飛んだ。

 不思議と恐怖や心配は無かった。


 飛び降りた先は低いビルになっておりそこからまた低い建物と続いて地上に降りた。


「何かすごくスムーズに来れたな…」


(勇者の気概によるものと推測します)


「なるほどな、ここまで違うのか。すごく気持ちが落ち着いて動ける」


 そう言いながら周りの音に集中する。


「… 何だお前!…」


 先ほど聞いた声を捉えた。

 その方向に向かう。向かう途中人は多くないがちらほら居る。抜足差足で音も無くなるべく見つからない様に移動した。

 すると周りの気配が感じれる様になり自分の気配が薄くなった感じがした。


(気配遮断を発現しました)


「え、もう?」


 抜足差足のバージョンアップに驚きながらも声のする所へ向かう。

 大通りのビルから路地に入った所から聞こえて来るようだ。とりあえず路地に入る前にそっと覗きみてみる。


「さっきからウぜぇんだよ!変な格好しやがって!」


 数人の柄の悪い男達と二人の若い女性、そして背の低い妙な格好をした者が言い争っている。


「おみゃーさんがた、娘っ子を囲んで何をしとるんだ?」


 背の低い者が柄の悪い男達に言った。

 声と言い方からして老人の男性と思われる。

 しかしその格好は全身が白く、いや銀色でピチッとしたまるでHIROスーツを着ている。マスクは付けておらず代わりにファンキーなサングラス、白い髭で頭はツルッと禿げて両サイドに僅かに白い髪が残っていた。


「おいおい、あれもHIROかよ?」


(その様ですね)


 HIRO ラオG《ジー》

 本名 ----

 年齢 82歳

 能力 不動堅身、百心得、無力闘技、説教(極)

 潜在 不老献身、精神若心、ビッグバン

 好物 孫


 HIRO検索によって状況が表示された。


「82歳!?いくら何でもHIROは無理だろ?まあ、俺も人の事を言えた歳じゃないけどさ」


(そうですね、私もあんなお爺さんが選ばれているとは思いませんでした)


 ウリカちゃんも知らないって事は俺と同じ様に手違いでHIROになった可能性があるな…


「おかしな格好しやがって邪魔すんじゃねえぞ!」


 柄の悪い男が一人、ラオGに殴り掛かった。


 ゴキィ!


「うがぁー!痛えー!」


 殴り掛かった男の攻撃はラオGに届く前に見えない壁みたいな物に弾かれ自身の拳を痛めていた。


「な、何だよこいつ!」


「おみゃーさんがたがいくら殴り掛かっても儂には効かにゃーよ」


 そう言うとラオGはヨボヨボと男達に近づいて行った。


 ダダーン!


「あが!」


 ズダーン!


「ぎゃ!」


 ドターン!


「グゥ…」


 ラオGが男達の横を通り過ぎるといつの間にか男達の体は宙に舞い激しく地面に叩きつけられていた。


(不動堅身と無力闘技ですね)


「すげえな爺さん!」


 ラオGは唖然としていた若い女性に近寄って行く。


「おみゃーさんがたもこんな時間にこんな所をウロウロしてあぶねーじゃろ!」


「え〜お爺さんすごーい!ファンキー!」


「何!これHIROなの?お爺ちゃんHIROコス?」


 二人の若い女性はラオGの話は聞こえていない様子で助けてくれた老人のファンキーな格好に夢中だ。


「こりゃー!話しを聞かんか!」


 ラオGは82歳とは思えない程の大声で叱った。


「おみゃーさんがた、ちょっとそこに正座!」


 二人は唖然としてラオGの前に正座した。


「あいてて…」


 倒された男達もラオGの大声に目を覚ました。


「ちょうどええわ、おみゃーさんがたもこっちに来て正座!」


 男達は状況がわからない様子だったがすごすごと若い女性と並んで正座する。

 ラオGはその前にどっかと胡座をかいて座った。


「ええか!おみゃーさんがたはまだまだ未来がある若造だ。こんなくだらない事でおみゃーさんがたの大事な時間を使ってる場合じゃねえぞ!」


 何やら説教が始まった…


「パワフルな爺さんだなあんな若い連中に堂々説教してるよ」


 人生経験半端な俺じゃあんなには出来ないな。

 何か爺さんの説教聞いてるとこのままでいいのかと思ってしまうな…


(能力、説教(極)です。つまり説教慣れしています)


「さすが年の功…」


 しばらく見ていたが若者達は真剣にラオGの話しを聞いていた。中には涙を流して感動している者もいた。


「あ、ありがとうございます!今までそんな事を言ってくれる人はいなかった!これから頑張ります!」


 何をどう説教すればあそこまで改心するのか…


「ぜひあなたのお名前を教えて下さい!」


 若い女性の一人が言った。


「わしか?わしゃー ラオG! じゃ!」


「ラオG!やはりHIROなんですね!」


 男の一人が興奮気味に言う。


「儂の事はどうでもええわ、もう時間も遅い。おみゃーさんがた娘っ子達をちゃんと安全な所まで送り届けなさい」


「わかりました!この命にかけても二人を送り届けます!」


 男達は付きものが取れた様に晴れ晴れした顔で女性を優しくエスコートして去って行った。


 余談だが彼らの中でそのまま恋に発展し結婚まで行った者もいたらしい。

 人の縁とはわからないものだ。

 縁といえばこのラオGとの出会いも縁だったのかもしれないな…


 若者が立ち去った後、突然ラオGが隠れている37の方を見つめた。


「そこにいるのはわかっとる、出て来なさい」


「え?俺?」


 気配遮断で俺がここに居る事はわからないはずだが…


「何じゃ、こっちから行ってやらんといかんのかい?老人を動かすとはなっとらんのう」


 ラオGがこちらにゆっくり向かった来た。


「HIRO同士って会っても大丈夫だよな?」


(問題ありません)


 初めてのHIRO交流、緊張するが行くしかない!

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H!な おじさん りるはひら @riruha-hira

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