187. それぞれの戦い
ふははははははははっ!
こういうこと一度やってみたかったんだ!
「あとは任せた」
RPGの定番だろ?
いや、勇者の定番か?
オレは勇者じゃないがな!
悪徳貴族だがな!!
よくよく考えてみれば、敵の集団に少女を置いてくなんて鬼畜の所業だよな。
やはりオレは勇者ではなく悪徳貴族だ!
ふはははははっ!
さて、先に進むとするか。
ボス戦クリアして大量の秘宝をゲットしてやるぜ!
待ってろよ、秘宝!
オレの希望!
ふははははっ!
秘宝探しは道中も大事だったりする。
RPGでもよくあるだろ?
ボスを倒して得られるアイテムはもちろん貴重なものが多いが、実は道中にレアアイテムが転がってることがある。
むしろ道中で手にするもののほうが使えるものが多い。
ふははははっ!
見つけてやるぞ、レアアイテム!
目指すは大金持ち!
「ん?」
オレの直感が告げた。
この部屋になにかがある。
レアアイテムがどこに眠っている、そんな予感だ。
そこだ!
「えりゃ!」
オレは直感に従って壁を凍らした。
そしてパチンと指を鳴らし、壁を粉々に砕く。
するとそこには、
「ふははははっ! やはりオレの予想通りだ!」
いかにも高級そうな赤い宝玉があった。
◇ ◇ ◇
時を少し戻す。
国の東側、バベルの塔ではシャーリックとラプンツェル、さらにフレイヤとロストが話し合いをしていた。
塔はアークの味方だ。
つまり、第一王子・第二王女連合軍側についている。
国全土を巻き込んだ戦いの裏で、アークが闇の手と戦っていることを、ここのいるメンバーは理解している。
「問題は、グングニルを使うタイミングが来るか……ですね」
グングニルは現状、第一王子・第二王女連合の最終兵器である。
王都では対グングニル用に、魔導騎士団と宮廷魔法使いの人員を割く必要があった。
だが、本音をいうならば塔はグングニルを使いたくなかった。
威嚇としての兵器にとどめておきたい。
理由は2つある。
1つ目は被害が甚大になること。
王都にグングニルを放つとなると、王都に住む人々を大勢犠牲にすることになる。
戦争とはいえ、虐殺をしたいわけではない。
それも相手は同じ国の人。
できることなら使いたくないというのが本音だ。
そしてもう一つの理由。
それはグングニルを使ったときの代償がわからないということ。
アークは代償なくしてグングニルを使ったが、通常、グングニルの使用には大きな代償が必要となる。
その代償がわからないため、下手にグングニルを放つことができない。
「もし使うとすれば、ラプンツェル様しかおりません」
塔長であり、唯一頂上にいけるのがラプンツェルだ。
彼女以外にグングニルを発動できる者はいない。
「ええ。覚悟はしております」
ラプンツェルは頂上にいたときの記憶が残っていない。
だが、アークに助けられたことだけは理解している。
最愛の娘たちに会うことができたのもアークのおかげだ。
グングニルの犠牲が娘たちでなければ、ラプンツェルはグングニルの使用を躊躇わない。
「ご安心ください。私たちには十分な戦力が整っております。アークたちも第一軍を破ったそうですし」
と、ロストがいうと、シャーリックが同意するように頷く。
「ええ、そうですね。それにマーリン様もアーク様に下ったようですし。優勢なのは間違いありません」
塔の仮想敵は魔導騎士団と宮廷魔法使いである。
その中の一つ、宮廷魔法使いのトップであるマーリンが味方に加わった。
塔には、魔術員に加えドルイドもいる状況だ。
たとえ魔導騎士団が攻め入ってきたとしても防衛できる自信があった。
「それにしてもアーク様は、あのマーリン様を味方にするなんて……。本当にすごい方ですね」
シャーリックはアークの活躍を聞いて誇らしい気分になる。
もと宮廷魔法使いであるシャーリックはマーリンのことをよく知っている。
とらえどころのないような人物だったと記憶していたが、そのマーリンをも味方にしてしまうのだから、アークに対する尊敬がますます強くなった。
ラプンツェルもロストもフレイヤもみな、アークがいれば大丈夫だと考えていた。
そのアークが何も考えていないことを彼女らは知らない。
そして場所を変え、学園。
学園長は中立を謳いながら、アークの味方をしている。
学園の仮想敵はゲルプ侯爵。
ゲルプ侯爵はボウレイ公爵の腰巾着であり、臆病者である。
ボウレイ公爵からの軍を動かすよう要請があったものの、遅れてしまっていた。
その理由はゲルプ侯爵が臆病だからだ。
塔や学園からの攻撃を恐れ、防衛の準備に時間をかけてしまっていた。
とりわけ塔に対して警戒していた。
グングニルを落されたらたまってものではない。
塔がゲルプ侯爵を倒すためにグングニルを使うことはないのだが、臆病なゲルプ侯爵は真っ先に狙われるのではないかとヒヤヒヤしていた。
そして防衛対策に時間を取られている間に北の砦が落されてしまったのだ。
そもそも北の砦までの距離が長く、要請に応じていたとしても戦いに間に合わなかった可能性が高い。
結果、ゲルプ侯爵はほとんど戦力を残したままであった。
しかしゲルプ侯爵軍だけで情勢を覆せるものではない。
塔と学園に睨まれながら、ゲルプ侯爵は領地に縮こまっていた。
次に――北西の戦況。
ゴルゴン家の敵はブラウ侯爵。
ブラウ侯爵を足止めすることがゴルゴン家の役割でもあった。
というのもブラウ侯爵は、地理的に辺境伯の進軍を妨害できるところにあったからだ。
ゴルゴン家がブラウ侯爵に攻め入ったことで、ブラウ侯爵は防衛に追われることとなった。
特にメデューサの放つ隕石魔法は強力で、防戦一方であった。
この状況で辺境伯軍を足止めするなど無理な話であった。
続いて西での公爵同士の戦い。
これは戦いというより、にらみ合いの状態だ。
ヴェニス公爵とピピン公爵。
長年犬猿の仲と知られる二公爵であり、今日も
ピピン公爵はヴェニス公爵の相手をしなければならず、アーク軍が王都に向けて出発したという情報を耳に入れても、軍を動かすことができなかった。
当然、ブラウ侯爵への援軍も派遣できない。
最も被害が少ない地域であるが、もしもヴェニス侯爵とピピン公爵が戦えば被害は甚大になるだろう。
決して楽な状態ではなく、常に緊張状態にあった。
南の戦況はというと――。
そもそも南は南西に位置するガルム領を除いて、めぼしい戦力が残っていない。
もともとハゲノー子爵やフロムアロー家、グリューン侯爵家があったが、どれも落ちぶれたかアークに敗北したかで、現状戦力として期待できるものはない。
そのため、アーク軍が王都に向かっていても阻むことができなかったのである。
こうして国中全土で戦いや睨みあいが発生しており、文字通り国全土を巻き込んだ内戦に発展していた。
そして最後。
第一王子クロノスの率いる軍についてだ。
北の砦を突破した第一王子はそのまま王都に向かって進軍。
彼らを止めるすべを持たなかった王都は一日も経たない間に陥落。
想像以上に脆かった王都の守備。
こうしてクロノスは父であり、王であるウラノスと相対していたのだった。
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