177. よくわからん会話

 軍を離れたオレはとりあえず適当に歩き始めた。


 一人で抜け出してきたかったのだが、なぜか他のやつらもついてきた。


 マギサ、ルイン、カミュラ、それと干支の面々。


 なぜこんな大所帯に?


 まあいいか。


 どうせ帰るだけだし。


「アーク様、どちらに向かわれているのでしょう?」


「城に向かう」


「城……ですか?」


 自分の城があるというにはいいな。


 平民では一生味わえない贅沢だろう。


 最高だ!


 しかし城まで遠いな。


 というか、なぜオレはいま歩いている?


 馬に乗ってこればよかった。


 いや考えても仕方あるまい。


 それに歩きといってもそう疲れるものでもない。


 散歩がてら帰るとするか。


 最近はよく歩いてる気がするな。


 健康思考だぜ!


 ふははははは!


「城……。闇の手の本拠地に向かわれているのでしょうか」


 いや、違うよ。


 どういう思考したらそうなるの?


 普通にオレの城だよ?


「あれだけ”指”で探しても見つかりませんでした。申し訳ございません、アーク様」


 なんかよくわからんけど謝られた。


「いやいい。貴様はオレのために尽したのだろう? それなら文句をいうことはない」


 ふははははは!


 オレのために働くとは、さすがはカミュラだ。


 こいつはやはりオレの手元に置いておく存在だな。


 そのまま一生こき使ってやるよ!


「ありがとうございます。しかし、闇の手はどこに潜んでいるのでしょう?」


 闇の手ってあの賊どものことだろ?


 オレの領地を荒らしたゴキブリどものことだ。


「目で見えるものがすべてじゃない」


 ゴキブリっては見えないところに潜んでいるものだ。


「人は愚かな生き物でな、目の前にあっても気づかないことがある。認識しない限り、それがあることに気づかない」


 ゴキブリも認識するまで気づかないことがある。


「だが認識してしまえば、突然、その存在が大きく感じる」


 いきなり目の前で現れたときの絶望感は半端ないものだよな。


「……まさか」


 カミュラが目を見開く。


「認識阻害。バベルの塔で施されていた術式ですね。

しかし、ここまで高度な認識阻害はそれこそオーディン神のような存在でなければ不可能――。

それに広い空間の認識阻害など聞いたことがありません。

いや、違います。私達が相手するのは、その神なのでしたね」


 カミュラが勝手に納得した。


 マジでなんのこと言ってるかわからん。


 オレはとりあえず「ふむ、そうだな」と頷いておく。


 こういう威厳を出すのも悪徳貴族の務めだ。


 偉そうにしていれば大抵なんとかなる!


 まあ偉そうというより偉いんだけどな!


 ふははははは!


「認識阻害というのはな、認識しようにもできないというわけだ」


 とりあえずそれっぽいことを言っておこう。


「……はい。仰るとおりです」


 カミュラが真剣な顔でオレを見る。


「つまり、だ。まずは認識することが重要というわけだ」


「……」


「も、申し訳ございません。アーク様。私の頭でアーク様の崇高なお考えを理解しきれません」


 カミュラが頭を下げる。


 まあ良い。


「何かを認識するのに、最も良い方法はなんだと思う?」


 オレはカミュラに問いかける。


 しかし、カミュラは首をかしげる。


「それは……第六感シックス・センスだ!」


 第六感というのは、すべてにおいて最強だ。


 いや、知らんけど。


 ふははははは!


「第六感? まさか……魔力? しかし、魔力探知なら行っております。

そもそも認識阻害は魔力探知すらも阻害します」


「フォッホッホ! それで儂の出番というわけか」


 いきなりジジイが出てきやがった。


 誰かと思えば、オレが人質に連れてきたマーリンだ。


 なんでここにいる?


「アーク様。連れてまいりました」


 そういってシャーフがニコっと笑う。


 いや、指示なんてしてないけど。


 というか、存在自体忘れかけてたわ。


 まあいいか。


 よくわからんけど、老い先短いジジイに華を持たせてやろう。


 なんの華をもたせるか知らんがな!


「老人よ。貴様の舞台を用意してやったぞ」


「まったく。最近の若い連中は老いぼれを働かせ過ぎじゃ」


「ふははははは! 人生100年時代。死ぬまで一生働き続けるのが貴様らの宿命よ。年金などに期待するなよ?」


 平民を死ぬまでこき使うのが特権階級であるオレの立場であり、権利である。


「ネンキンがなんのことかわからんが、まあ良い。話は概ね理解した」


「ならやることはわかってるな?」


 もちろん、オレはよくわからんが。


「このマーリンの最も得意とするところよ。神の作り出したと言われる術式。これは面白そうじゃ」


 ふむ、老人が元気なのは良いことだ。


 オレに払われる税金も増えるということ!


 最高だ!


 ふはははははっ!


 それでこいつらは何の話をしてたんだ?


 まあいいか。

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