176. マーリンの人生
マーリン――。
宮廷魔法使いのトップであり、アークのニブルヘイムを止めた男。
イカロスがいなくなった今、魔法技術においてマーリンを凌ぐものはこの国にいない。
マーリンは何度も死線をくぐり、魔法技術を身に着けてきた。
彼の人生は戦いの連続だった。
今とは違い、昔の宮廷は血まみれの権力闘争をしていた。
そこで生き残るために魔法技術を磨く必要があった。
権力闘争のために裏切りをしたこともある。
大事な人を裏切ったことも――。
「フォッホッホ。儂に国を裏切れと?」
マーリンはアークから味方につくように言われた。
それは国を裏切ることになる。
「違うな。違うぞ、老体。国を変えるのだ」
マーリンは今まで権力闘争と呼ばれる、何も生まない醜い争いを続けてきた。
その結果、宮廷魔法使いのトップに立った。
しかし、トップに立ったところで虚しさしか残らなかった。
こんな
優等種法が撤廃され、先王と一緒に未来を作ろうと約束をした。
だが、裏切った。
先王の時代。
マーリンは平和な世界を作ろうとした先王を裏切り、三大公爵の一つボウレイ公爵についた。
先王暗殺に手を貸した。
先王の警備をマーリンの手で無力化したのだ。
すべては恩義の為――。
それを恩義という言葉で表現するには、いささか解釈違いがあるかもしれない。
マーリンがいまの地位に登れたのも、宰相であるボウレイ公爵のおかげであり、持ちつ持たれつの関係であった。
平和の時代を築こうと言ってくれた先王を裏切った。
そのとき、彼は悟った。
この国は変わらないのだ、と。
自分は変わらないのだ、と。
魔法界を変えたくて宮廷魔法使いになったというに、その志は折れ権力に執着する醜い老人になってしまっていた。
そして愚王であるウラノスが王となった。
ウラノスの治世はお世辞にも良いとは言えず、ボウレイ公爵の傀儡であった。
国は確実に衰退の一途をたどっていた。
そんな時代だからか、二人の英雄と呼ばれる者が出てきた。
第一王子。
現王よりも明らかに聡明であり、未来を託せる若者だった。
そしてアーク・ノーヤダーマ。
正真正銘の英雄である。
アークなら本当に国を変えてしまうかもしれない。
マーリンとて魔法界を、そして国を変えたいと思っていた。
だが時代のせいで情熱を奪われたのだ。
権力闘争のために魔法を磨いてきたわけではないのに、気がつけば生き残るため勝ち残るために魔法を磨き、薄汚いことを繰り返していた。
いや、時代のせいではない。
マーリンは己の無力さを言い訳にして諦めてしまったのだ。
マーリンの人生はなんだったのだろうか?
裏切りと闘争。
そんなものために生きてきた人生に果たして意味などあるのだろうか?
もうマーリンの老い先は長くはない。
これまでの人生を振り返ってしまうのは、年老いたためか。
それとも後悔ゆえか。
後悔ばかりの人生だった。
国の発展のために貢献したかった。
それがマーリンの本音である。
「どうせ老い先短い貴様の命、オレが最大限使ってやろう?」
アークからの誘いにマーリンは乗った。
これが最後のチャンスだと思った。
「フォッホッホ。裏切りは儂の得意とするところじゃ」
今まで何度も裏切ってきた。
裏切りの数がもう一つ増えるだけだ。
それにアークなら本当にこの国を変えてくれそうだ。
その器があると信じていた。
マーリンは裏切ったというのに清々しい気持ちになっていた。
しかし彼は知らない。
アークが国を変えようなど一ミリも考えていないことを――。
こうしてまたアークによって目を曇らされた人物が誕生したのだった。
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