最終章 ラグナロク編
172. ラグナロク
原作、最終章。
死の神、ヘルとの戦い。
原作は鬱展開が多いが、当然、最後まで鬱の展開が続いている。
原作のラストは誰も報われないような終わりであり、批判の嵐となっていた。
その原作ラストと同じストーリーを進むかのように、アークを除く、アーク陣営はヘルとの戦いに向けて動き出していた。
果たして、アークは最後の難関を乗り越えることができるのか?
こうして闇の手との最終決戦が幕を開けた。
◇ ◇ ◇
ときは少し戻り、アークが第一軍と竜の軍勢を倒す前のこと。
ロット侯爵軍を倒し、同時にテュールが王都を経った頃だ。
場所は北の辺境伯領。
第一王子と辺境伯がテーブルを挟み、向かい合っている。
無骨という言葉がよく似合う辺境伯は、その性格が部屋の内装にも表れていた。
無駄な装飾品はなく、王子をもてなす客室でさえ質素である。
だが、第一王子はそれに不満を感じることはない。
むしろ豪華な装飾品の部屋で盛大に歓待されるほうがクロノス王子にとっては不快であった。
それにクロノスと辺境伯の関係はただのもてなす、もてなされるというものではない。
彼らはともに北の異民討伐をなし、一時的ではあるものの北の大地に安定をもたらした。
戦友である。
クロノスの斜め後ろでは、もじゃもじゃの赤髪の女性トールとアークの妹であるエリザベートが控えている。
「くははははっ!」
辺境伯が笑い声を上げる。
気が狂ったわけではない。
愉快なことが起きたからだ。
「殿下の信頼するガルム伯爵とやらは面白いやつですな!」
アークがロット侯爵を打ち負かした。
これにより、緊張状態だった2つの勢力が本格的にぶつかり合うことになった。
テュール軍が動き出したという情報は彼らの耳に入っている。
「アークはすごいやつだ。私にはないものをたくさん持っている」
ヴェニスでの事件以降、クロノスは考えを改めた。
しかし、アークには遠く及ばないと考えていた。
だが同時に、アークに勝つ必要もないと思っていた。
アークは仲間だ。
戦う相手は別にいる。
クロノスが倒すべき敵は国王であり、父であるウラノスである。
「戦争が起きる。今までにない、大きな大きな戦がな」
クロノスは冷静にいう。
しかし、彼の心は声の調子とは裏腹にぐつぐつと煮えたぎっていた。
戦争が始まる。
これでようやく父であるウラノスを殺せる。
幼少期からずっとウラノスを殺すことを考えて生きてきた。
ようやく、本当にようやく実現可能なところまで来た。
クロノスにとって一番の幸運は
アークが味方でならなければ、この状況は整わなかった。
戦いにすらならなかった可能性もある。
「して、クロノス殿下。ガルム伯爵が負けた場合はどうなされますか?」
エリザベートがとっさに身を乗り出した。
「私が話をしている」
クロノスがエリザベートを手で制す。
「失礼いたしました」
エリザベートは一歩後ろに下がる。
「負けたとしても私の歩みは止まらんよ」
クロノスはガルム伯爵を信頼しているものの、万が一の可能性も考えている。
万が一、アークたちが負ける可能性。
もしもアークが第一軍に敗れた場合、形成は一気に不利になる。
「どちらにせよ今が好機なのだ。
目指すは王都。王の愚行をこれ以上見過ごすことはできん。
私はずっと耐えてきた。ようやく掴んだチャンスだ。逃してたまるものか」
辺境伯は満足したように「さようですか」と頷く。
「だがな、辺境伯よ。私はアークが負けるとは考えておらんよ」
クロノスはアークに対して大きな信頼を置いていた。
学園での事件、クロノスが助けられたヴェニス公爵での事件、さらにバベルの塔での事件。
これまでのアークの活躍を考えれば、第一軍を倒すくらい簡単にやってのけるだろう。
「アークの実績、この目で見たアークのカリスマ性。
あれは英雄よ。英雄には強い運命が宿るのが道理というもの」
「英雄……。それは殿下にとってはやっかいですな」
辺境伯が試すようにクロノスに投げかける。
「英雄を歓迎できんようでは、王としての資格はない」
「これは失礼いたしました。お許しを」
辺境伯は頭を下げる。
「良い。顔を上げよ」
以前の第一王子であれば、英雄に対し敵対心を抱いてもおかしくはなかった。
あるいは、英雄をどう使ってやろうと画策した結果、英雄と対立してしまう可能性があった。
「
「ああ。ともに戦ってくれるか?」
「なにをいまさら」
辺境伯は朗らかに笑う。
「お供いたしましょう」
クロノス王子は軽く頷いてから、力強くいう。
「これで盤上は揃った。さあ、反逆の狼煙を上げようか」
第一王子・第二王女連合と王派閥による最終決戦。
王国はじまって以来最大の内戦とも言われるこの戦は、終末を連想させられたことからこう呼ばれることになる。
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