149. マップ

 国が保有する戦力は、大きく分けて2つある。


 騎士団と軍だ。


 騎士団には、北神騎士団、近衛騎士団、魔導騎士団が存在する。


 それぞれ性質は異なるが、まとめて騎士団と呼ばれている。


 そして軍にも同様に3つの軍隊が存在する。


 第一軍、第二軍、第三軍だ。


 軍と騎士団、どちらが上かという議論はたびたび行われていた。


 人員でいえば軍のほうが圧倒的に多いが、個々の力を見たときは騎士団のほうが上。


 単純な比較が難しく、どこを切り取るかで上下が逆転する関係にある。


 だがしかし、これらの組織の中でただ一つだけ飛び抜けた組織がある。


 第一軍だ。


 全騎士団、全軍、宮廷魔法使い、全ての組織の中で最強と言われるのが第一軍である。


 そのトップを務める男。


 テュール。


 個人の武勇にも優れているが、化け物じみている猛者たちが集うこの世界でいえば、少し・・・腕が立つ程度の評価だ。


 だが、軍を動かす能力には目を見張るものがあった。


 勘が鋭いというべきか、鼻が利くというべきか。


 天才的な嗅覚を持ち、いくつもの戦場を駆け抜けてきた。


 辺境伯とともの北の異民討伐にも参加したこともあり、精強と言われるあの辺境伯に、


第一軍あれと戦うなら、真っ裸で異民共の群れに放り込まれるほうがよっぽどいいわ」


 と言わせたほどだ。


 1万5000を超える軍勢。


 それがガルム領の平原――ニーベルンゲン平原で構えていた。


 右翼に3000、左翼に3000、そして中央に9000。


 テュールは中央寄りの右翼一隊を指揮する。


 自慢の騎兵隊を手足のように扱い、敵を押し込み分断、突破するのが彼の常道だ。


 バカ正直に突破が通じるなら戦術など必要ないのだが、


「テュールこそ戦術だ」


 と、言わしめた男なのである。


 アークやイカロスも個人で戦術と言われる実力を持っているが、それとは意味が違う。


 あくまでもテュールは軍を率いた場合にその力を発揮する。


 そも、突破がたやすくできるなら、どの軍もそうしているはずだ。


 突破することで、敵を分断でき、側面を増やすことができ、本陣への侵攻ができ、遊兵を消耗させられる。


 メリットを上げたらキリがないほどだ。


 同時にデメリットのも存在する。


 一番のデメリットは、失敗したときのリスクが大きいことだろう。


 敵に包囲されてしまったら、壊滅的な被害を受けかねない。


 つまり、突破しか戦術がないというのは、戦術そのものがないと言っているに等しかった。


 もちろん、テュールに戦術がないわけではない。


 最も勝率が高い戦術が突破なだけであって、必要であらば騎兵を迂回させた側面攻撃も行う。


 しかし、その必要が今までほとんどなかっただけだ。


 突破だけで最強と呼ばれる化け物。


 戦術家として知られる辺境伯が嫌がるのも無理はない。


「壮観だな」


 馬にまたがりながらテュールが呟く。


 牙をむき出しにした獅子の旗が風に揺らぐことなく、堂々と立っている。


 旗の乱れは軍の乱れ。


 第一軍には一切の乱れがない。


 ロット侯爵の軍とは質が違うのだ。


「さてさて。アーク・ノーヤダーマとやらの実力見せてもらおうか」


 テュールが獰猛に笑う。


 テュールの目の前にはニーベルンゲン平原が広がり、そして、アーク軍が陣を構えている。


 重々しく張り詰めた空気が漂っている。


 じきに戦争が始まる。


◇ ◇ ◇


 やべぇ。


 道に迷った。


 グー〇ルマップが欲しいぜ。


 まあこういうときは逆に考えてみよう。


 オレが迷子になったのじゃない。


 世界がオレを見失ったのだ!


 ふははははっ。


 と、まあそんなこと言っても始まらんな。


 とりあえず山の上でも目指すか。


 上からなら、そこら中を見渡すことができるしな!


 ふはははは!


 ついでに領民共高いところから見下してやろう!


 これぞ悪徳貴族!


 というわけでオレは道なき道を進んだ。


 いや、この表現には語弊があるな。


 オレが通るところが道である!


 ふははははっ。


 しかし、本当にここらへんの山も随分と平和になったものだ。


 昔は山賊どもがうじゃうじゃ湧いて出てきたのにな。


 あのころが懐かしい。


 こんな平和な世の中では、狩りのしがいがないではないか!


 山賊の一匹や二匹、いやもう大群でも来てくれても構わんのにな。


 賊共をどれだけ殺っても問題ないからなぁ!


 オレは村人にもらった干し肉をポリポリ食べながら森を散策した。


「ん? ここ来たことあるぞ?」


 見慣れた場所だ。


 山賊を狩っていた頃に来た覚えがある。


 つまり、ここは城の近く……のはず!


 ふははははっ。


 ようやく家に帰れるぞ!


 帰ったら、贅沢三昧してやるぜ!


 待ってろよ、ノーヤダーマ城!


 帰ったら使用人共をせっせと働かせて優雅に風呂に入ってやるぜ!


 ふははははははっ!


 楽しくなってきたぜ!

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