124. 紐なしバンジージャンプ

 闇の手の襲撃はまだ終わりではない。


 ナンバーズⅡ、傲慢のイカロス。


 今回の襲撃において最大の脅威がイカロスであった。


 そのイカロスは、馬のプフェーアトによって殺された……と思われていた。


 しかし、その程度で退場するほどイカロスは弱くもなければ甘くもなかった。


「くっ、ハハハハハッ」


 イカロスは悪魔となって復活していた。


「娘よ、反抗期にも目を瞑ろうではないか。

今の私は機嫌が良いからな。

アーク・ノーヤダーマが殺されるところを見ておるが良い」


 イカロスは瀕死の状態となったプフェーアトにそう言い放ったのだった。


◇ ◇ ◇


 グングニルってやつを放ったら、なんかスッキリした。


 にしても、すごい威力だな。


 まあオレのニブルヘイムほどではないがな!


 ふははははっ。


 そろそろ降りよっかな。


 どうやって降りようか?


 今から階段登って降りるのも面倒だな。


 よし、バンジージャンプでもするか。


 この高さからでも、身体強化使えば死にはしないだろう。


 ってことで、いざバンジー!


 いえあ!


 窓からひょいっと飛んでみた。


 ラプンツェルが驚いた声を出していたが、まあこの世界ではバンジージャンプって遊びはないだろうしな。


 ふははははっ!


 紐なしバンジーだぜ!


 って、うわぉ。


 なんかバンジーしてる途中で、悪魔みたいのがいたんだけど……。


「邪魔だっ!」


 よくわからんから、パンチしといた。


 オレはそのまま悪魔みたいなやつと一緒に落下していった。


◇ ◇ ◇


 イカロスは、魔法の熟練度で言えば国内でも五指に入る。


 ヘルの力がなくとも、イカロスの放つ魔法は神級に届くとさえ言われていた。


 さらにイカロスの使える魔法は幅広く、万能型の天才だ。


 そんなイカロスだが、唯一の弱点があった。


 器の限界だ。


 イカロスの器では、どれだけ努力したとしても神級魔法を使えない。


 そもそも、普通の人物では神級魔法どころか最上級魔法すらも扱えないため、それを弱点と呼ぶのはおかしい。


 しかし、トップに固執するイカロスにとって、神級魔法を使えないことは屈辱であった。


 また神級魔法の使い手と戦ったとき、大きなデスアドバンテージとなる。


 神の力は神の力でしか対抗できないからだ。


 それほどまでに神級というのは隔絶した力であった。


 アークのニブルヘイムしかり、スルトのムスペルヘイムしかり、マギの創生魔法しかり。


 イカロスは限界を超えるために、己の肉体を捨てる必要があった。


 そのために用意したのが、悪魔だ。


 神の力を扱える器。


 悪魔と化したイカロスは、神に達するほどの力を有していた。


 唯一の弱点であった、神級魔法を使えないというものを克服したイカロス。


 さらに悪魔の魔力量は膨大であり、神級魔法を何度も使える体になっていた。


 つまり、彼には弱点と呼べるものがなかった。


「アークを殺し、私が頂きに立とう」


 魔法の熟練度、魔力量ともにアークを上回っている。


 たとえアークがクリスタル・エーテルを持っていたとしても、イカロスの敵ではなかった。


 さらにヘルから神を地に落とす魔法――いわゆる重力魔法を授かったことで、イカロスは空を飛ぶこともできた。


 つまり、イカロスは人間を超越した存在となったのだ。


「アークを殺したあとは、神とやらもこの手で殺してやろう。私が天になる」


 悪魔の体を得たイカロスは、バベルの頂上に飛んだ。


 太陽をこの手に掴まんと――。


「邪魔だ」


「ぐはっ……!?」


 バベルの塔頂上に向けて飛行中、イカロスは、突然空から降ってきた”ナニカ”によって地に落とされたのだった。

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