121. ロキ進軍
ロキは死者である。
今のヴェニスができるよりも前の話。
ラグーナと呼ばれる街があった。
そこでロキは暮らしていた。
今の
ロキはその街の領主をやっていた。
のどかな街と穏やかな人々。
平和という言葉がよく似合う街であり、平和な時代であった。
だが、それは突如として終わりを迎えた。
蛮族共がラグーナに攻め込んできたのだ。
当時、それまで国が攻め込まれているという話は聞いたことがなかった。
では、どこから来たのか?
蛮族共は海からやってきたのだ。
ラグーナは国の西側にある。
それにより西には海しかなく、蛮族共は船に乗ってラグーナに攻め入ってきた。
しかし、ロキたちには高い魔法技術があった。
ヴァン神族の魔法技術である。
何も恐れることはない、とそう考えていた。
しかし、海からの侵略者は人間だけではなかった。
神が――アース神族が蛮族を従えて侵略してきたのだった。
それもアース神族の最高神であるオーディンが――。
ロキたちは人間である。
人間が神に勝てるはずがない。
高度な魔法技術で作られた防衛結界を軽々と破壊され、蛮族共がロキたちの故郷を蹂躙した。
食料は奪われ、男はなぶり殺され、女は犯したあとに殺された。
遊び半分に火遊びにされる者もいれば、馬を使って一日中引き摺られ殺される者もいた。
見せしめのように子供の首を門にならべられ、同族に的あてゲームをさせるという悪趣味な遊びが流行った。
的あてゲームを拒否した者は、生きたまま的にされ、死ぬまで苦痛を味わうはめになった。
まさに蛮行。
アース神族が従えていた蛮族は、ヴァイキングと呼ばれる海賊たちであった。
ヴァイキングはロキの故郷を蹂躙したあと、東に軍を進め王都に攻め入り、国を滅ぼした。
そうして自分たちの国を作った。
そう……現代文明人の祖先は海賊なのだ。
ロキは目の前で多くのものを奪われ、地獄を見させられた。
ロキにはヴァーリとナリの二人兄弟の息子たちがいたが、ロキの目の前で殺し合いをさせられた。
すでに精神が壊れていたヴァーリが、弟のナリを殺した。
その後、ロキがヴァーリを殺した。
もうこれ以上苦しまないように。
ロキは街の中央で貼り付けにされ、妻のシギュンが生きたまま焼かれる姿を見させられた。
街が壊されていくさまを最後まで見させられた。
ロキの怨念は死んだあとも続き、死者となって今も怒りが消えることはなかった。
むしろ、時ともに怒りが増していくようだった。
そして死してから何百年が経ち――。
ロキは、ヘルの力によって復活した。
ラグーナの領民たちを引き連れて。
現代文明人によって発展した街は、ロキにとってヘドが出るほどに不愉快だった。
自分たちの犠牲の上に成り立った世界。
かつてオーディンがロキに言ったセリフを、ロキはいまでも憶えている。
決して忘れることはないだろう。
「何かを得るのに犠牲はつきものさ。君たちがたまたま犠牲になってしまっただけのこと」
――ならば、その犠牲とやらを今度はお前らが払う番だ。もう十分満喫しただろう?
ヴェニスの美しい街並みに苛立ちを、怒り、憤りを覚えた。
ヴェニス人に恨みを、怨嗟を、憎悪を、殺意を覚えた。
ロキはどのような結末が良いか考えた。
領主であるヴェニス公爵に街が壊されるさまを見せつけてやろうと考えた。
――
ロキは楽しみでしかたなかった。
玉手箱を使ってヴェニスを壊す計画は、順調に進んでいた。
あと一歩のところまで来ていた。
あと一歩でヴェニス公爵に地獄を見せられる。
だが、
アーク・ノーヤダーマだ。
すべてを台無しにされ、ロキは屈辱を覚えながら逃げた。
もしも……もしもアークがいなければ……。
アークがいなければ玉手箱の計画を阻止されることはなかっただろう。
「目指すは、バベルの塔。ここでアーク・ノーヤダーマを刈り取る」
真っ先に殺す対象。
もはや
たとえ
ロキがヘルから与えられた力は、怒りの軍勢。
ロキは軍勢を率い、バベルの塔に進軍していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます