120. 万能の解呪魔法
シャーフはすでに限界を迎えていた。
無限に湧いて出てくる化け物たちの対処に追われ、疲労困憊の状態だった。
もちろん、キラメも魔物も無限に出てくるわけではない。
だが、あまりにも数が多く、対処しきれなかった。
要は人手が足りなかった。
だが、シャーフの目は死んでいなかった。
なぜなら、バベルの塔にはアークがいる。
アークが何かしらの対策を立てているだろう。
と、シャーフは根拠もなく信じていた。
その信じる心のおかげで戦線を維持できていたといっても良い。
もしも心が折れていれば、すでに撤退していただろう。
だが、いくら信じる心があったとしても、状況が厳しいことに変わりはない。
さらに、シャーフたちの心を折るように、大量のキメラが現れた。
「いくらなんでも、ちょっとキツイって……」
シャーフは思わず弱音を吐く。
「この数は、さすがに厳しいものがありますね」
ロストがシャーフにつられるように弱々しい笑みを浮かべた。
「でもまあ、やりしかないけどね」
シャーフが自分を奮い立たせる。
そうでもしなければ、逃げたくなる衝動に負けてしまう。
干支のメンバーは超人揃いだ。
精神も超人じみているメンバーがほとんどだ。
しかし、シャーフのメンタルは他のメンバーほど強くはなかった。
干支で一番臆病であった。
でも、逃げるわけにはいかなかった。
魔物の大群がすぐ目の前まで迫っている、と、そのとき。
「……ッ」
大地が揺れた。
「え、なに……?」
地面を突き破り、にょきにょきと大木が生えてきた。
突然、一つの巨大な木が生えた。
大木から複数の太い枝が生え、キメラたちを拘束していく。
「これは……
シャーフがふとロストをみる。
そして、現在ロスト以外のドルイドは全滅している。
そのため、
「ボクじゃない」
ロストがふるふると首を横にふる。
では、だれが……。
そうシャーフが尋ねようとしたときだ。
「助けに参りました」
シャーフとロストは同時に、声のしたほうを向く。
そこには美しい少女が立っていた。
「なぜ?」
ロストがその少女に問いかける。
「なぜ、セミークがここにいるんだ?」
ルサールカによってイヤリングされた少女――セミ―クが立っていたのだ。
◇ ◇ ◇
マギサはマギと一体化し、マギの知識を引き継いだ。
マギの経験までは引き継がなかったが、おそらくマギが意図的にマギサに経験を見せなかったのだろう。
しかし、何のためにマギサに知識を託したのか、マギサにはわかった。
マギの扱っていた魔法は、人形魔法の最終形態。
それは創生魔法と呼ばれるものだ。
この創生魔法を使えば、様々なことができる。
たとえば、万能の解呪魔法だってできてしまう。
アークが講義で語っていた内容だ。
新しい肉体を用意し、そこに魂を移せば、どんな魔術でも解呪可能となる。
当然、そんなことできるはずもなく、万能の解呪魔法は存在しないと言われていた。
だが、今のマギサなら、創生魔法が使える彼女なら、万能の解呪魔法を使える。
しかし、一つだけ問題があった。
全員分救うにはかなりの時間がかかってしまう。
そうマギサは考えていたのだが、アークはそれすらも予想していたようだった。
申が、最高のタイミングで現れたのだ。
干支の中で唯一戦闘力皆無の人物。
こっそりアークが連れてきた干支の一人だ。
申なら、本物の人間そっくりの箱を創ることができる。
それはもはや本物とも言える
おそらく世界中探しても、申ほど精緻に肉体を生成できる人物はいないであろう。
申は、完璧な
そして申いわく
「アークに呼ばれたから」
というものだった。
マギサはその言葉だけで理解した。
この場をセッティングしたのが、すべてアークだったことを理解した。
「アーク様は本当になんでも見えているのですね」
マギサは、アークが未来予知できるのではないか、と考えてしまうほどだった。
ドルイドが使う予言よりも、もっと正確な未来予知ができるんじゃないか、と思った。
申の力を借りながら、マギサは森の一族たちを復活させた。
もちろん、一度にすべての者を復活させることはできない。
マギサは全員を救いたかったが、優先順位をつけて助けることにした。
今この場で戦力となる存在。
魂の色が強い者たちから復活させていった。
ドルイドに加え、アフロディーテやセミークである。
ドルイドは森の一族のなかで特に優れた存在であり、十年を超える修行を経てようやくなれるものだ。
一人ひとりが屈強な戦士である。
それに加え、研究員の中で最も優秀なアフロディーテや、ドルイドに負けず劣らずの知識量を持つセミークが復活したのだ。
彼女らがいることで、この戦況を覆すことができる。
事実、彼らが目覚めたことで、次々と化け物たちが討伐されていった。
こうして、マギサの
「これもすべてアーク様の計算の上なのですね。本当にアーク様が味方で良かったです」
マギサは、この状況を作り出したアークに、ただただ感嘆するのであった。
当然のことながら、アークは何も意図しておらず、すべてマギサの勘違いなのである。
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