119. この世界に来れて
マギは、自分と同じ容姿の少女を見つめる。
「……あなたは誰?」
この世界のマギサがそう尋ねてきた。
マギにも自分自身が誰なのかわからなかった。
自分とは何者か?
この世界で、彼女の存在意義はない。
むしろ、世界が彼女を消そうとしており、消えてしまうことに意義があった。
「なぜ私を狙うのですか?」
もうすでにマギサを殺す意味などない。
戦う意味などない。
たまたまマギサがキメラと戦っているところに通りかかっただけだ。
彼女にはルサールカに囚われた人々を救うという義務があった。
戦う意味がないのに、マギは黒ゴーレムを使ってマギサと戦っていた。
「目的はなんですか?」
マギサがマギに尋ねてきた。
目的などない。
結局マギは何のために生まれてきたのだろうか?
一つの世界を破滅に導き、死なずに異なる世界線で生き延びて……。
マギは昔からずっと一人ぼっちだった。
人形遊びをし始めたのは孤独を紛らわすため。
人形魔法を覚えたのは友人が欲しかったから。
マギサを産んだのは、孤独に耐えられなかったから。
孤独に生きて孤独に死んでいく、そんな人生は嫌だった。
死を眼前にして、生きた意味を見出したかった。
「理由もなく私を狙っているということですか?」
「理由を見つけるために、です」
ふと、ソードマンの顔が目にうつる。
それはアークに似ていた。
マギがこの世界で惟一触れ合ってきた人物だ。
なぜ、マギの隣にアークがいないのだろう?
なぜ、もっとはやくアークと出会えてなかったのだろう?
それがたとえ人形であろうと、マギはアークを欲した。
だから、
「解析完了です」
彼女はマギサからソードマンを奪った。
そしてソードマンを使って、マギサを追い詰めた。
「あなたの命は、いつでも奪えるのです。ええ、いつでも」
こんなことをしても無駄だ。
アークが手に入るわけもなければ、マギの寿命が伸びるわけでもない。
無意味だ。
「なぜ……泣いているのですか?」
泣いてなどいない。
マギはそう答えようとした。
しかし、頬に冷たい雫が伝った。
たしかに涙が流れていた。
結局、マギの人生はなんだったのだろう?
わからない。
前の世界では魔女と恐れられ、この世界では世界そのものから存在を否定され、孤独を味わい続けた。
虚しい。
孤独から抜け出したかった。
幸せになりたかった。
それだけだったのに……。
頬にぬくもりを感じた。
マギは目を見開く。
マギサがマギの頬を触れながら、泣いていたのだ。
「あなたはなぜ泣いているのですか?」
マギはマギサに問う。
「わかりません。でも、あなたが泣いているから、私も泣いてしまうのです。
ふふっ、なんででしょうね?」
マギとマギサは、つい先程まで敵対していたのだ。
そんな相手に同情するなど、マギにはマギサの心情が理解できなかった。
いや、違う。
理解できてしまう。
なぜならマギもマギサだから。
わかってしまう。
目の前で泣いている人がいれば、放っておくことなどできない。
マギサとは、そういう少女なのだ。
心優しい、お人好し。
キメラを殺すこともできないお人好し。
マギサに殺人など似合わない。
だからマギがマギサに代わってキメラを殺した。
マギはマギサの手を握る。
自分とは対象的な温かい手だ。
おそらく一度も人を殺したことがないのだろう。
優しい手だ。
「マギサ。あなたは私に誰? と聞きましたね。その答えをあなたに授けましょう」
魂の魔法。
ルサールカやイカロスが得意としていた魔法分野だ。
しかし、魂に扱いに関しては、マギのほうが優れていた。
人間を創り出す魔法は、魂の研究の一つの終着点といっても過言ではない。
イカロスの行っていた研究の先に、マギの魔法があるとも言えた。
創り出すこともできれば、当然、魂と魂をつなぎ合わせることもできる。
同じ魂なら、つなぎ合わせるのは容易い。
「あなたに私のすべてを授けましょう。あなたが手を汚すときは、私が代わりにやりましょう。
あなたでは救えないものを私が救いましょう」
マギはそういって、マギサに魂を注ぎ込んでいく。
この世界にいる意味などないと思っていた。
しかし、マギは意味を見出すことができた。
マギサという優しい少女に汚れ役をさせないことで、マギは救われる。
「この世界に来れてよかったと、私に思わせてくださいね」
そういってマギは消えていったのだった。
◇ ◇ ◇
原作でのマギは記憶を取り戻した代わりに存在を消された。
彼女がこの世界に存在した意味はなかったといえる。
強いて言うなら、スルトに真実を伝えたくらいだろう。
ストーリー展開的にいえば、マギが存在した意味はあるが、マギ本人からすればほとんど意味がなかった。
しかし、この世界では、マギはアークのおかげで助けられただけでなく、自分の存在意義を見出すことができた。
こうしてアークの行動によって、また一人原作キャラが救われるのであった。
もちろん、マギを救った張本人であるアークは、まったくの無自覚であった。
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