86. 歓迎

 オレは歓迎会という名のパーティーに呼ばれた。


 だが、呼ばれたのは貴族だけだ。


 スルト以下平民は呼ばれていないらしい。


 ふははははははは!


 これが貴族の特権か!


 うむ、くるしゅうない。


 だが、干支の二人を呼んでないのはムカついた。


 あいつらはオレのモノだ。 


 まあさすがに、オレも大人だ。


 駄々をこねることはしない。


 ただ一言、


「バベルの塔とはいえ、所詮こんなものか。優秀な者を排斥しているようでは、国一の研究機関というのもたかが知れている」


 と言っておいた。


 きらびやかなシャンデリア、無駄にでかい絵画や像、着飾った貴族ども。


 どれをとっても貴族らしい場所だ。


 こういうパーティーでは、オレよりも偉いやつらが多くなりがちである。


 だが最近気づいたことがある。


 オレはオレが考えているよりも偉いらしい。


 爵位がオレと同等のやつらでも、なぜかオレにペコペコ頭を下げてくる。


 なるほど。


 このオレの威厳が伝わってきたのか?


 ふははは!


 天はオレに二物どころか百物も与えたらしい。


 まあ、そもそも塔にいる連中も学園と一緒で爵位を継いでいないやつらばかりだ。


 令息や令嬢だったり、そもそも研究にのめり込みすぎて爵位を自ら放棄したり、とそんな奴らばかりだ。


 つまり、ここでもオレはかなり偉い部類に入る。


 さらにオレは魔法の才能もある。


 パーティーでは常にオレは人気者だった。


 ちやほや最高であるな!


 うむ、くるしゅうないぞ。


 持ち上げられるのは好きだ。


 天にも届くほど存分に持ち上げてくれ!


 とまあ基本的には気持ちの良いパーティーなんだが、時々面倒に感じてくる。


 貴族らしいことは好きだが、あえて貴族らしさを見せつける意味に虚しさを感じる。


 オレが偉いのを、わざわざ見せつける必要もない。


 なんたって、オレという存在そのものが偉いのだから。


 それにこういう貴族のパーティーでは決まって嫌なやつらがいる。


 今回で言えば、赤青黄色の髪をした侯爵令息どもだ。


 こいつら、オレに対していちいち癪に障る発言をしてくる。


 親の権力を傘に立ててくる。


 親が侯爵だからってなんだ?


「伯爵ともあろう者が平民に媚びを売るなど、頭がおかしいのか?」


「こんな子供に伯爵を任せるなど、ガルム領も落ちぶれましたね。だから平民などと仲良くするのですな」


「所詮は伯爵。我ら侯爵には敵いません」


 貴様らはただのガキだろう?


 自分を偉いと勘違いするなよ?


「抑えてください。彼らとの決着の場はいずれあります」


 と、マギ際に言われた。


 知らんがな。


 そもそも、こんなやつらと言い合いするつもりもない。


「安心してください。くだらないことで言い争うほど、私の口は軽くありませんので」


 ていうか、マギサのやつパーティー中ずっとピリピリしてたな?


 なんだ?


 腹でも壊したのか?


 というか、最近オレの周りの連中が妙にピリピリしてる。


 ガルム領の連中なんて特にピリピリしてやがる。


 ランスロットなんかは軍備増強を訴えてきやがったし。


 まあ昔と違って金はあるから、許可したけど。


 強い軍ならあるに越したことはない。


 かっこいいしな!


 カミュラもピリピリしてやがる。


 オレがスルトを連れて心霊スポットで遊んで山を荒らしたのが原因か?


 カミュラのやつも大変だな。


 オレの尻拭いするなんて。


 ていうかあいつ最近オレの周りにいなくないか?


 オレの周りで一生働かせてやるのがあいつの罰なのに。


 まあいいか。


 きっとオレのためになることだろう。


 それなら咎める必要はない。


 オレの心は海のように広いからな!


 カミュラの代わりに学園には干支を呼ぶことにしたし。


 たまにエヴァが来てくれるし。


 ふははは!


 オレには部下がたくさんいる!


 カミュラがいなくても特に困ることなどないのだ!


 と、まあカミュラのことは一旦おいておこう。


 このパーティー、嫌なやつが多すぎる。


 赤青黄の侯爵共は、正直どうでもいい。


 あんなやつら、オレが本気を出せばどうにでもなる。


 マギサがいるのは、もう気にしない。


 マギサはオレよりも偉いが、最近気にならなくなった。


 いちいちマギサのことを気にしているほど、オレも暇じゃないからな。


 問題はイカロスだ。


 こいつとは本当に気が合わない。


 相性が最悪なのだろう。


 というか、イカロスに嫌われている気がする。


 まあ理由はわかる。


 オレは一発で99階までたどり着いた男だからな!


 イカロスはたしか97階までしか行けないらしい。


 ふっ、雑魚め。


 おそらく、塔長としてのくだらんプライドでもあるんだろう。


 そんなプライド、ドブにでも捨てれば良いのにな。


 だが、やつに嫌味を言われるのは面白くない。


 いちいち棘のあるセリフがムカついた。


 そしてまるで自分が知識人とでもいうかのような傲慢な振る舞いがムカついた。


 プライドが高くて傲慢なやつなど、オレ一人で十分だ。


 気に食わんから、言ってやった。


「ナンバー2さん。あまり調子にノリすぎると、ハゲノー男爵みたいになりますよ」


 オレが来たからには貴様はナンバー2だ。


 あのハゲノー男爵のように、社会的に葬ってやるぜ!


 ふははははっ!


 あとで干支のやつらにイカロスの調査をお願いしよう。


 そこでこいつの不正を洗い出して、処分してやる!


◇ ◇ ◇


 マギサは今でも平等な世の中を目指している。


 それはもはや王族として生まれた自身の責務だと感じていた。


 その結果いまの国のあり方が歪んでしまい、王族・貴族の権威がなくなってしまっても、それでも平等を目指すことに意味があると考えていた。


 そのために、第一王子と手を組んだ。


 変革を望んだ。


 しかし、行動できたのはすべてアークのおかげであったからだ。


 アークがマギサを認めてくれた。


 肯定してくれた。


 そして同じ道を歩むと言ってくれた。


 だからマギサは前に進むことができた。


 このパーティー一つとっても、やはりアークは凄いと思わざるを得ない。


「バベルの塔とはいえ、所詮こんなものか。優秀な者を排斥しているようでは、国一の研究機関というのもたかが知れている」


 アークは、パーティーで塔のあり方を真っ向から否定した。


 つまり、それは国のあり方を否定したことにも繋がる。


 あれはアークなりの宣言だったのだろう。


 バベルの塔ではっきりと立場を示すための宣言だった。


 そうマギサは捉えていたし、おそらく他の者も同じように感じたはずだ。


 でなければ、わざわざパーティーの場であのような発言をするはずがない。


 アークがあの場で何も考えずに発言するような馬鹿とは到底思えなかった。


 マギサではまだアークのような堂々とした振る舞いはできない。


 しかし、いつかはアークのように人の上に立つものの威厳を身に着けたいと思った。




 もちろん……アークにはマギサの考えているような高尚な思いなど微塵もない。

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