四章 バベルの塔編

79. 無視できない影響力

 3年生になったぜ!


 新入生共に在校生代表として挨拶してやった。


 一年生のガキどもにオレの偉さをわからせてやろう!


 フハハハッ!


 ガキどもの前で「お前らもほどほどに頑張れよ。まあオレのようにはなれないがな!」と言っておいた。


 なんかオレの言葉に殺気立っていたやつがいたが、まあそんなに怒るなよ?


 事実だろ?


 ふははははははは!


 格下を弄ぶのは楽しいぜ!


 にしても、ヴェニス行ってから色々あったな。


 スルトを連れ回して魔物を狩らせまくったりもしたな。


 ヴェニスのあとでスルトがオレに師事するとか言ってきやがったから、適当に遊んでやった。


「スルトよ。目で見るんじゃない。心で感じるんだ!」


 と言ったら、あいつまじで本気でやりやがった。


 あれは笑えたな。


 そんなわけがないだろう。


 普通に目で見たほうが百倍いい。


 馬鹿なのか?


 馬鹿なんだろうな。


 そういえば、妹に文通相手ができた。


 第一王子だ。


 オレが紹介してやってからうまくやっているようだ。


 王子からの手紙を見せられたりもした。


 なぜオレが妹の恋文など読まないといかん?


 意味がわからん。


 なんか第一王子も熱心にエリザベートを口説いているようだった。


 北の大地で頑張ってることをアピールしているみたいだ。


 なんか北の異民と戦って、戦果を残しているらしい。


 オレ頑張ってるから偉くね? というのが透けて見える恋文だった。


 まあ頑張れ。


 エリザベートも満更でもない顔をしてたしな。


 ていうかエリザベートのやつが、地図を広げてブツブツ言ってるのは怖かった。


 西のヴェニス、北西のゴルゴン、北の辺境伯を味方に引き込めたとかなんとか言っていた。


 もしかしてあいつ、もう王妃になったつもりでいるのか?


 さすがに早すぎるだろ。


 王子に捨てられたらどうするんだ?


 まあいいか。


 恋は盲目とか言うらしいし。


 がんばれ!


 オレはそういう面倒のこと嫌いだけど。


 学園での生活も楽しかったな。


 魔法大会はなぜかオレが殿堂入りしていた。


 ふははは!


 オレほどの実力者なら殿堂入りがふさわしいな!


 観客席からふんぞり返って見ていた。


 超VIP待遇だぜ。


 決勝戦はスルト対ルインだった。


 で、優勝はスルトだ。


 スルトが「褒めて、褒めて」と犬みたいに寄ってきたのが面白かった。


 褒美にオレとの戦いをくれてやった。


 まあオレの圧勝だがな!


 ふははは!


 この圧倒的な力!


 才能!


 まさに生まれながらにして天才!


 神に愛されすぎている。


 これだけ愛されていたら、もう何も望むまい!


 いや、もはやオレこそが神なのかもしれんな!


 フハハハッ!


◇ ◇ ◇


 アークたちがヴェニスに行ってから1年と数ヶ月の時が経過した。


 その間、世の中は大きく変わっていた。


 アークは普通の学園生活をしていたから、何も気づいていないが……。


 アークだけ何も知らずにのんびりと毎日を過ごしてきた。


 アークの知らぬところでストーリーが進んでいた。


 正確にいえば、アークは関与しているものの無自覚なだけである。


 たとえば、アークの治めるガルム領。


 軍、指、干支、エリザベートやランパードなどなど。


 それぞれの戦いを行っていた。


 軍は軍拡を、指は情報収集を、干支は邪魔者の排除を、エリザベートは王子との連携を、ランパードは領地改革を。


 軍は全体で1万を超える軍勢になっていた。


 伯爵の中では異例の軍勢であり、侯爵の軍勢にも匹敵する。


 指は敵対勢力の情報収集を怠らず、必要とあれば他の面々と協力し、アークに貢献していた。


 干支はラトゥの指揮のもと、各メンバーが世界中を動き回っていた。


 エリザベートは第一王子との連携を深めるため、”恋文”という形で情報交換していた。


 特に第一王子の北の異民討伐に関しては、エリザベートからの指示でひそかに干支のメンバーが派遣されていた。


 さらにランパードによるガルム領の発展は凄まじく、そのおかげで軍強を進めることができたといっても過言ではない。


 鉱山から取れる魔石も、年々需要が増しており、それもガルム領の発展に大きな影響を与えていた。


 しかし、ガルム領の発展は、周辺の侯爵・公爵および、王からの警戒を抱かせることになった。


 当然、闇の手からも。


 と、それはさておき。


 この一年と少しの間に、国の情勢は大きく変化した。


 特に第一王子の動きは活発であった。


 王子は、ヴェニスでの出来事以降、アークの影響もあって考えが大きく変わった。


 仲間を集めることの重要性を理解し、そして己自身が強くあらねばと考えるようになった。


 そして王子が北神騎士団を連れて行ったのが、北の大地。


 北の辺境伯のところだ。


 北の辺境伯は精強な軍を有している。


 その理由は、北には蛮族がおり、辺境伯は常に異民との戦いに晒されていた。


 ここ何十年も大きな戦がなかったこの国で、常に戦い続けてきた辺境伯。


 強い軍隊を持っているのは当然のことだろう。


 一貴族が有する軍の中では圧倒的な強さを誇り、ランスロットの率いるアーク軍よりも強い。


 余談だが、ガルム領にはアークがおり、干支がいるため、総合力で見たらガルム領が最強である。


 北の辺境伯の軍は、王軍最強の第一軍ともやりあえるとも言われている。


 そんな辺境伯のところに第一王子は向かった。


 表の目的は北の異民討伐。


 裏の目的は辺境伯を陣営に入れること。


 ちなみに原作であれば、北の異民との戦いは主人公スルトが介入するはずの話であった。


 アニメの辺境伯編では、ヘンゼルとグレーテル、そしてマザーが登場する回であった。


 しかし、アークの介入により、第一王子とトールが生き延び、さらにマザーたちは敗北している。


 アークのせいで原作が変わった結果である。


 さらに第一王子はアークとの連携も怠らなかった。


 そもそもなぜ第一王子とガルム領が手を組んでいるのか?


 第一王子が第二王女と手を組んだから、という理由もあるが、それ以上にガルム領の敵と第一王子の敵が合致しているからだ。


 第一王子の敵は国王。


 ガルム領の敵は闇の手。


 敵が一致している、というのはつまり、国王と闇の手が通じているということだ。


 と、余談はさておき。


 第一王子はアークの妹であるエリザベートに手紙を出し、間接的にアークに連絡していた。


 第一王子は「アークも理解している」という前提でエリザベートに状況を報告していた。


 もちろん、アークは第一王子からの手紙をほとんど読んでいないから内容を知らない。


 そもそも、読んだとしても内容を理解できないだろう。


 アークを信頼している情報交換を行っているのに、肝心のアークがポンコツなのであった。


 アークは、一度、エリザベートから手紙を見せてもらったが……。


「オレが貴様の手紙を読む必要はない。貴様で勝手に動け」


 と切って捨てた。


 エリザベートはそれを「自分の裁量に任された」と判断し、重要な情報のみをアークに渡すようにした。


 もちろんアークは、渡された情報をほとんど理解できていないが……。


 ということもあり、この一年と少しでアークの知らないところで情勢は大きく動いていた。


 これもすべてアークが原作に介入したせいである。


 原作では、すでに闇の手の者たちが国に深く介在していた。


 そのせいで、世界は徐々に滅びに向かっていた。


 だが、この世界にはアークがいる。


 まったく原作とは異なる世界となっている。


 ちなみに闇の手は恐ろしいほど動きがなく、不気味なほど静かだった。


 あえてアークたちの動きを静観しているのか、もしくは一気に滅ぼす機会を狙っているのか。


 それは誰にもわからない。


 ただ一つ言えるのは、アークのせいで闇の手の者は作戦を変えさせられたということだった。


 ここに来てアークの存在による影響が無視できないものになっているのだった。

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