74. 憎いほどに美しい
ロキはヴェニス公とともに時計塔の頂上へと向かっていた。
「はっはっは! ようやく玉手箱を開けるときが来たのだな! さあロキよ。はやく開けようではないか!
我らが悲願の玉手箱を!」
「はい! もちろんですとも! 私めもこれを開けるのをとても楽しみにしておりました!」
「そうか、そうか! 楽しもうではないか!」
「では、その前にヴェニス公。ひとつ、私めの話をしてもよろしいでしょうか?」
「?? 構わんが……?」
ヴェニス公は首をかしげる。
なぜ、このタイミングで、とヴェニスは不思議に思った。
「私は古代文明人です」
「ん? 古代文明人? それは何百年も前に滅んだ人種と聞いたが?」
「ええ。そうですとも。蛮族共に滅ぼされました」
ヴェニス公が眉をひそめる。
「……とまあ、そんな辛気臭い話がしたいわけではないのです!
私めが
「お、おう。そうか」
「つまり何を申し上げたいかといいますと、この玉手箱のあける方法も私めならわかります」
「そうか、そうか! なるほどな! 古代文明人なら納得だ!」
「でも一つ不思議には思わなかったですか?」
「なにがだ?」
「なぜ我らは玉手箱というものを残したのでしょう?」
「それは……捨てるのには惜しかったからではないのか? 秘宝なのだろう?」
「ええ、ええ。そうですとも! ……と言いたいところですが、違いますね」
「ぬ? では何のためにだ?」
ロキとヴェニス公は時計塔の頂上前にたどり着く。
目の前には重厚な扉がある。
ロキが扉に力を入れてた。
扉がギギギっと音を立てながら開いた。
時計塔の頂上。
床には複雑な紋様が描かれていた。
そして紋様の中央に寝かされたルインがおり、その隣には大きな箱――玉手箱が置かれている。
「――復讐のため、ですよ」
◇ ◇ ◇
FSは鬱アニメである。
何度も何度も鬱展開が続く、鬱満載のアニメである。
次々と登場キャラが死んでいく。
さらに、えげつない死に方をするキャラも出てくる。
そして主人公たちの行動はことごとく裏目に出て、最悪の事態ばかりが訪れる。
そんなFSでもひときわ絶望の話がある。
ヴェニス編だ。
本編でのスルトたち主人公は学園が崩壊したあと、一時的にルインの故郷に向かうこととなる。
そこで街の綺麗さに少しずつ心を癒やされたスルトたちだが、FSはそんな彼らを絶望に落とす。
それが玉手箱だ。
玉手箱とは古代文明人が残した負の遺産である。
土地を奪われた彼らがヴェニス人に対して呪いを残した。
書物には玉手箱を秘宝だと書き残し、ヴェニス人に嘘の情報を与えた。
ヴェニス公爵家にとって玉手箱を開けることが悲願となった。
玉手箱は簡単には作動しないようにできている。
長い年月が過ぎ、鍵となる少女が現れた。
ルイン・K(キー)・ウラシマだ。
ルインはヴェニスを廃墟へと導くウラシマ家の少女だ。
玉手箱を開ける鍵は、ルインが覚えた魔法にある。
この魔法が玉手箱の起爆スイッチとなるのだ。
そして玉手箱が開かれることで、美しい街ヴェニスが廃墟と化し、海に沈んでいく。
古代文明人の恨みが何百年の時を越えて蘇るという仕掛けだ。
原作では、実際に玉手箱が開かれてしまい多くの死者が出る。
そして、この世界でも原作と同じような流れを辿っていた。
だが細かいところでは違いが出てきている。
たとえばルインの誘拐に関してである。
これは本来なら、ハーメルンがルインを誘拐するという流れであった。
しかし、ハーメルンはアークにやられ、エリザベートのおもちゃとなっていた。
アークによってロキの計画にズレが生じたのだ。
しかしロキにとって一つ幸運なことが起きた。
ルインが自ら玉手箱のところに来てくれたことだ。
これによって、ロキは誰にも見つからずルインを捕まえることができた。
あとはロキが元々計画していた通りに、アークたちの目をマザーや北神騎士団に向かせた。
そしてその間に、玉手箱を開けて街を崩壊させる。
ロキの計画は、細かいところは違えど概ね予定通りに進んでいた。
「この街は苛立たしいほどに美しいな」
ロキは塔の上から美しい街並みを見ては、吐き捨てるように呟いた。
憤怒のロキ。
彼は古代文明人であり、ヴェニスに怒りを持つ人物だ。
原作クラッシャーのアークですら、ロキの執念を止めることはできない。
このまま原作通りに進めば、多くの死者が出ることとなる。
玉手箱とは、災厄をばらまくパンドラの箱であり、ニライカナイを増幅させる装置であった。
ニライカナイを覚えた者を触媒として玉手箱を開くことで、ニライカナイが増幅され、浄土の水が街に降り注ぐこととなる。
浄土の水が雨となって降れば、街が崩壊するのも簡単に想像できるだろう。
直に玉手箱が開かれる。
ヴェニスに終焉が訪れようとしていた。
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