73. はい、拍手
時は少し遡り――。
ルインはアークたちと別れた後、玉手箱が置かれているところに向かった。
本音を言えばアークの力を借りたかった。
しかし、これは自分たちの問題でもあると考え、ルインは一人で解決しようと動いた。
これ以上、アークに頼ってばかりはいられなかったのだ。
時計塔の屋上。
そこには玉手箱が置かれている。
ルインは玉手箱を調べていた。
しかし、ルインは天才であった。
完全に読み解くことはできなくとも、一部は理解することが出来た。
玉手箱に魔力を流し、構造を読み解いていく。
ルインは1つのキーワードを見つけた。
――ニライカナイ
ルインが読み解いけたのは、たった一文字だ。
ニライカナイは玉手箱を開ける鍵とも言われる魔法であった。
だから、ニライカナイを覚えることはウラシマ家の悲願にも繋がったのだ。
決して新しい情報ではない。
ルインはもう一度玉手箱に魔力を流しこむ。
そしてニライカナイを起点に、術式を追っていく。
すると、もう一つわかったことがあった。
「ニライカナイが増幅されている……?」
ふと彼女の脳裏にアークの言葉が蘇った。
アークは玉手箱をパンドラの箱と呼んでいた。
パンドラの箱とは、世界に災厄をばら
「まさか……」
ルインはある一つの可能性に行き着いた。
パンドラの箱。
ニライカナイ。
増幅装置。
そしてルインは周囲を見渡す。
時計塔はヴェニスの中央に位置し、ここから360度ヴェニスを見渡すことができる。
アークの話では、この時計塔も古代文明人が造ったものとされている。
これらの情報を組み合わせると――
「玉手箱はこの街を崩壊させる
ルインがそう呟いた時、
「いやー。さすが天才少女! お見事! はい、拍手!」
ロキがわざとらしい拍手をしながら、ルインに近づいていくのだった。
◇ ◇ ◇
オレはマギサの顔をじっと見る。
まさかマギサが双子だったとはね。
そんな話聞いたことがない。
隠し子ってやつか?
これ結構、重大機密じゃないか?
「驚かないのですね。事前に何か掴んでいたということでしょうか?」
「知りませんよ。私をなんだと思っているのですか?」
一応”指”とかいう諜報機関を作ってはいるが、あれは所詮お遊びだ。
こんな重要な情報を得られるほどのものではない。
それにしてもマジで二人は似てるな。
ていうか、名前も一緒なんだ。
せめてそこは分けとけよ。
ややこしいな。
「あなたはどこまで知っているか……。逆に何を知らないのか、まったく読めませんね」
「何も知らないですよ。買いかぶり過ぎです」
「過小評価して足元をすくわれるよりはマシでしょう。
現に闇の手の者たちはあなたにしてやられています。愉快なほどにね」
闇の手?
なんでいま闇の手の話が出てくるんだ?
あんな山賊風情こてんぱんにしたところで、そんなに褒められたものじゃない。
まあ褒められるのは嬉しいがな!
「アーク様はマギサの味方なのでしょう?」
「マギサ?」
どっちのマギサだ?
「あなたのご友人のほうです。それとも私の味方になりますか?」
「ははっ。ご冗談を」
というか、待てよ。
本当に双子なのか?
そもそも双子なら同じ名前にはしないだろう。
まさかこいつ……。
「それは残念。ところでアーク様。さすがにもう気づかれていると思いますが、私の目的は――」
「
「やはり知っておりましたか。さすがとしか言いようがありませんね」
やっぱりだ。
こいつは双子なんかじゃない。
ドッペンゲンガーだ!
はっ、さすがオレだぜ。
頭が冴えている。
本物のマギサがいなくなれば入れ替わることができるというわけだ。
「私は彼女を守りますよ」
「そうでしょうね」
「なぜ私に会いに来たのですか? わざわざこんな危険を犯す必要もないでしょう」
ドッペンゲンガーがわざわざ姿を現すなんてリスクしかないはずだ。
「単なる興味です。なぜ
なるほどね。
よくわからんが頷いておく。
「それで何かわかりましたか?」
「いえ全く。やはり私と彼女は違うようです」
そりゃあそうだろう。
同じ見た目でも、ドッペンゲンガーでも、全くの同じ存在というわけではない。
「彼女を守ると後悔しますよ?」
「後悔などしません。私は自分の行動に自信を持っていますから」
オレは後悔しないように自分勝手に生きているのだ。
マギサを守るのもオレの都合だ。
後悔など絶対にするものか。
「厄介なものですね、ほんと」
偽物マギサが大きくため息を吐いた。
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