60. エリザベートの趣味
「あら、お兄さん。素敵な顔ね。真っ赤は大好きだわ」
フントと入れ替わりで、一人の令嬢が現れた。
「誰だ?」
ハーメルンはもはやピエロを演じることをやめた。
「私、エリザベート・ノーヤダーマと申します。以後、お見知りおきを」
令嬢として完璧な礼をしてみせるエリザベート。
しかし、
「……っ」
ハーメルンは恐怖で顔をひきつらせた。
エリザベートはある意味有名である。
美貌に隠された残虐な性格から、裏の世界でその名が知れ渡っていた。
「……拷問姫エリザベート」
「あら? そんな物騒な呼び名で呼ばないでくださいまし。私、赤が好きなのだけの
真っ赤な赤が好き。でも赤い服は嫌よ。白い服が好きなの。だって白い服だと真っ赤に濡れることができるでしょう?
うふふ。あなたの色で私を濡らして頂戴」
恍惚とした表情を浮かべながらエリザベートがまくしたてる。
それは蠱惑的で不気味な表情だった。
ハーメルンは恐怖する。
エリザベートの拷問を受けたものは、まともな思考ができなくなるという。
「あ、でも残念ね。私はお兄様のモノだから。もうお兄様の色で染まってるの」
エリザベートがハサミを取り出し、ハーメルンに見せつけるように持つ。
「ハサミはやっぱり錆びてるものに限るわね。こっちのほうが切れ味悪いから」
そして、彼女はゆっくりハーメルンの耳をハサミを持っていく。
「や……あっ。来るな……」
「まずはここから。2つあっても邪魔なだけでしょう?」
「や、やめっ」
――チョキッ
ハーメルンの絶望が響いた。
◇ ◇ ◇
干支のフント。
原作で彼女は闇の手の部隊――干支の一員として活動をする。
ハゲノー子爵や闇の手にこき使われながら、死んだように働き続ける。
そしてフントは命令で自身が生まれた街を燃やし尽くしてしまう。
しかし、そこで正気に戻った彼女は自身のやったことの罪に気づき、発狂してしまう。
その状態で主人公たちと戦うことになり、主人公たちの説得によってなんとか正気を取り戻す。
だが、時すでに遅し。
自身の魔法を制御できず、体が内側から燃えて灰になってしまうのだ。
報われない最期である。
しかし、この世界でのフントはアークから魔力制御を学んでいる。
そのため魔法が暴走することはない。
そして当然だが、フントが自分の育った村を襲うことはない。
こうしてまた、アークの介入によって一人の少女が救われているのであった。
そしてアークによって未来が変わったはずの妹、エリザベート。
彼女はアークの教育によってまともな感性の令嬢になったと思われていた。
しかし、本来の性格はアークの介入があっとしても変わることがないらしい。
それはシナリオの強制力とでもいうべきか。
拷問姫エリザベート。
原作でも彼女はそう呼ばれていた。
原作でのエリザベートは平民相手に拷問を重ねる極悪非道な人物であった。
しかし、この世界でのエリザベートは一般人相手に非道な振る舞いをすることはない。
だが、彼女のもともとの性格である残忍な部分は変わっていない。
エリザベートは血が見るのが好きだ。
農作業をしているとき、体にヒルがつき、血を吸われているときに感動を覚えたほどだ。
そういう性癖もあり、一時期は農作業に没頭していた。
しかし、段々とそれが物足りないと感じるようになった。
そんなとき、兄であるアークが闇の手の者と戦っていることを知った。
エリザベートは兄のためを思い、そして自分の欲求を満たすために、捕まえた闇の手の者を拷問した。
そのとき、自分には拷問の才能があることに気づいた。
どういうふうな攻め方で相手が口を割るのか、手に取るようにわかった。
何よりも拷問が好きだった。
こうしてエリザベートはこの世界でも拷問姫として名を馳せるのであった。
しかし、そうはいうものの原作のエリザベートと今のエリザベートはまったく違う。
あくまでもアークのためを思ってエリザベートは行動している。
ただ自分の欲求を満たすための原作エリザベートとは似て非なるものであった。
やはりアークは原作クラッシャーなのである。
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