54. チンピラ風情

 なるほど。


 これがヴェニスか!


 屋台がうまいぜ!


 肉に魚にジェラートだぜ!


 屋台って地味に高いんだよな。


 まあ高いと言っても、今のオレからすれば大したことはないんだが。


 それにオレは伯爵だ。


 裕福で金持ちで貴族で権力者だ!


 屋台丸ごと買ってやることもできる!


 ふっはっはー!


 この優越感よ!


 まあ買わないがな。


 そんなしょうもないことをするつもりはない。


 腹も満たされたし、カジノでも行くか!


 やはり賭け事は楽しい!


 カジノで散財してやった!


 ふははは!


 これが金持ち流の金の使い方だ!


 大金どばどば賭けてやるぜ!


 湯水のように金を使ってやる!


 って、うおい!


 勝ってしもうた!


 大儲けじゃないか!


 ふははは!


 オレは運も良いようだ!


 大金ゲットだぜ!


 だがまあ、途中で飽きてきた。


 ていうか、「くそっ! また負けた! くそったれ!」とか叫ぶうるせぇ客がいたから、つまらなくなった。


 こういう質の低い客がいる店は、オレのような高貴なものには似合わない。


 儲けたし、もう帰るか。


 フラフラ歩きながら宿に向かってたら道に迷った。


 フントともはぐれた。


 ヴェニスは道がわかりづらい。


 似たような道がたくさんあって、路地裏とか特にわかりにくい。


 建物も似たような造りばっかだしな。


「お兄様。どちらに向かわれているのでしょうか?」


 いや、ただの迷子だよ。


 だが迷子というのも癪だ。


「この先になにかがある」


 まあ何かしらはあるだろうね。


 あー、くそ。


「だ、だれかー!? たすけてー!」


 なんだ?


 少女の声がした。


 ゲスそうな三人衆が餓鬼をいじめていた。


 ふむふむ。


 助けてだと?


 そんなことで助けがくるほどこの世の中は甘くないんだよ、お嬢ちゃん。


「なるほど、さすがはお兄様です」


 なにがさすがなのかわからん。


 まあいい。


 オレは野郎どもを睨む。


 こっちが観光でいい気分なのに、嫌なものを見せつけやがって。


 ぶっ殺すぞ?


「子供を大勢で囲うとは。畜生にも劣る下郎とは貴様らのことよ」


「あん? だれがてめぇ」


「正義のヒーロー気取りですかー? ぼくちゃん?」


「あ、そっちの子かわいいねぇ」


 エリザベートが氷点下マイナス3億度くらいの目で三人衆を見た。


 まるでゴミをみるような目だ。


 いやあれはゴミ以下だ。


他人ひとの名前を聞くなら、まずは自分からだろう。礼儀がなってない」


「なんだとぉ!?」


「ああ、すまん。貴様らのような虫けら以下の下郎共に礼儀を求めるのは愚かだな」


「うるせぇ餓鬼だな。どこのぼっちゃんか知らねぇが、社会勉強ってやつをさせてやるぜ!」


「社会にはこわーいお兄さんたちがたくさんいるんでちゅよー?

ママのおっぱいしか知らんようなガキにはわからんだろうがなぁ!」


 こいつら、圧倒的な底辺だな。


 底辺過ぎて言葉も出ん。


「喋る粗大ゴミとは貴様らのことだな。社会勉強? そんなもの死ぬほどわかっている。

社会ってのは不平等で不合理で不完全な世界のことよ。

だがそんな社会でも、一定のルールってもんが存在する」


「ぺらぺらとうるせぇ餓鬼だな」


「人の話を聞け、愚か者が」


 見せしめにチンピラを一人凍らせてやった。


「な……魔法!?」


「なにしやがる!?」


 残りのゴミどもが吠える。


 きーきーうるせぇんだよ、ゴミ。


「貴様らに社会のルールを教えてやろう。

伯爵様のありがたい講義だ。耳をかっぽじって聞きやがれ」


「くそっ! なんでこんなところに魔法使いが!」


「やってられるか!」


 ゴミ野郎どもは仲間が氷漬けにされているにも関わらず、自分の保身のことしか考えない。


 ふははは!


 まさにゴミだな。


「ゴミはしっかり廃棄しましょう、だ。ゴミ野郎ども」


 粗大ゴミどもを凍らしてやった。


 下郎どもめ。


 底辺がオレに逆らうなど言語道断。


 全員、死だ。


 ふははは!


 下郎には相応しい末路だ。


 パチンと指を鳴らし、全員粉々に砕いてやった。


 ふははは!


 ヴェニスを綺麗にしてやったぜ!


 ボランティアだ!


「お見事です。ですが、またぞろぞろと社会のゴミとやらがやってきたようです」


 妹のいうように、ぞろぞろと黒ローブをした男たちが現れた。


 またゴミどもがお出ましか?


 このチンピラの仲間か?


 さすがは一匹見たら百匹はいるというチンピラだ。


 山賊とチンピラはどこでも湧いてくるからな。


 だったらまとめてぶっ殺してやるよ。


「お兄様。まさかここで彼らが姿を現すことまで読んでいたのでしょうか?」


「こいつらの行動を予測するなど、造作もない」


 チンピラどもは単細胞だからな。


 考えなどバカでも読める。


「さすがです。あとは私にお任せください」


 まあいいけど。


 妹も貴族だ。


 伯爵令嬢である。


 チンピラどもに遅れを取るはずがない。


「ぬかるなよ?」


「もちろんです。お兄様にキレイな赤をプレゼントして差し上げますわ」


 エリザベートは笑いながら、黒ローブの男たちに近づいていく。


「うふふっ。こんなこともあろうかと、今日は白いワンピースを着てきて正解でしたわ」


 どういうことだ?


 まあいいか。


「では淑女の嗜みといきましょう」

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