52. 街の発展

 領地を出てからしばらくすると、賊の集団と出くわした。


 黒い服を来ている中二病集団だ。


 それなりに数は多かったが、オレからすれば奴らなんかゴミ同然だ。


 ひゃっはー!


 ゴミなら廃棄物処理しないとな!


 氷漬けにしてやったぜ!


 はっはっはー!


 これが力だ!


 力、イズ、パワー!


 中二病集団は人攫いもしていていやがった。


 攫われていたのは、女子供ばかりだ。


 かなりの人数がおり、正直オレの手に負えんかった。


 こんなに面倒見きれん。


 というか、オレは観光に来ているのだ。


 なぜ平民の面倒など見ないといけない?


 そういうわけで、近くの村に女子供を押し付けた。


 旅の邪魔になるからな。


 村のものたちは目を真っ赤にさせて泣いていた。


 ふははは!


 貴様らの気持ちはわかるぞ?


 いきなりこんな人数を押し付けられても邪魔なだけだからな!


 それにこいつら、「うちの村にはもう何もありません」と言っていやがった。


 そんな状態で女子供を押し付けられたら、泣きたくもなるだろう!


 だがオレは悪徳貴族だ!


 やりたいようにやる!


 ついでに村人どもには飯を用意させた。


 涙ぐみながら、娘が飯を運んできやがった。


 見るからに貧相な村だ。


 おそらく食料もほとんどないのだろう。


 オレに食料を奪われるのが悔しかったのだろう。


 だが、そんなの知らん。


 オレは涙するやつらを尻目に、飯を食いまくってやった。


 やつらは「食べ物よりも他のものを……」と言ってきたが、別にいらん。


 というか貴様ら、何もないと言っていただろう。


 村の娘が「私でも構いません……」と言っていたが、それこそいらん。


 いらんから村に押し付けたのだろうが。


 貧相なこの村からほしいものなどない。


 飯だけ貰えれば十分だ。


 それでももっとオレに施したいというなら、村ごとくれと言ってやった。


 そういったら、こいつらは大泣きしやがった。


 さすがに村まで奪われるのは勘弁してほしいってことか?


 まあいい。


 最後、村を出るときは村人たちがずっとオレに向けて頭を下げてきた。


 ふははは!


 オレは貴族だからな!


 平民共を痛みつけたとしても敬われるのが貴族というものよ!


 気持ちがいいな!


 きっとあやつらは頭を下げながら悔しい思いをしているのだろう。


 ふはははっ!


 その後も適当に賊を討伐しながら、捕まっていたやつらを近くの村に押し付けた。


 たまに魔物も現れたが、魔物ごときに遅れを取るはずがない。


 尽く粉砕してやったぜ!


 途中からは面倒になってきたから部下に任せた。


 フントのやつ、やけに張り切って敵を倒していたな。


 それほどヴェニスが楽しみなのか?


「ようやくピエロ野郎に会える……」


 とぶつぶつ言っていた。


 そんなにピエロの仮面男に会いたいのか?


 有名人に会いに行くって、それだけで楽しみなんだろうな。


 ちなみにオレは他の奴らに仕事をさせている間、馬車で優雅に過ごしていた。


 ついでにエムブラから回収したモノの中にきれいな宝玉があったらから、それをコロコロと転がしていた。


 すると、突然宝石から声が聞こえてきた。


 魔石だと思ったが、もしかしたらこれ魔導具か?


 エムブラの声だ。


 エムブラはどうやらオレに会いたいらしい。


 雇用主がオレに興味があるんだとか。


 エムブラのやつ、もう新しい職場を見つけたか……。


 さすがだな。


 まあエムブラは教師として優秀だったからな。


 引く手あまたなのだろう。


 辞める前に次の職場を探すのは、賢明な選択だと思うぞ。


 それより、雇用主がオレに会いたいのはなんでだ?


 やはりオレが有名だからか?


 人気者はつらいぜ!


 まあオレは伯爵様だからな!


 ふははは!


 いまは気分が良いから会ってやろう。


 オレは寛容な心で言ってやった。


 ヴェニスで待っている、と。


 もしもオレに会いたいならヴェニスに来い、と。


 わざわざオレが行ってやる道理はない。


 エムブラは「わかりました」と言っていた。


 ふはははは!


 教師すらも思いのままに動かすとは……やはり貴族は最高だぜ!


◇ ◇ ◇


「ありがとうございました。アーク・ノーヤダーマ様」


 村長は、去っていくアークに向けて、深々と頭を下げた。


 他の村人たちも同様に頭を下げた。


 アークの馬車が見えなくなってしばらく経っても、彼らは頭を下げ続けていた。


 彼らにとってアークは救世主である。


 賊から女子供を奪われ、自分たちの力ではどうしようもなくなったときに颯爽と現れ、村の者たちを救ってくれた。


 多大な感謝を覚えている。


 お礼をしようにも、アークは何も受け取ろうとしなかった。


「飯だ。それだけ貰えれば十分だ」


 とアークに言われ、村長はアークの謙虚な姿勢に感動を覚えた。


 彼らの暮らす村の領主は、村から搾取することしか考えていない。


 そんな中で見返りもなく村を救ってくださったアークには、感動を覚えるのも無理はなかった。


 お世辞抜きにして、村一番の美人である娘をあげても足りないくらいの恩を感じていた


 そもそも娘も、


「アーク様……なんて素敵な方なのでしょう」


 と、アークの後ろ姿を名残惜しそうに見ていた。


 アークのおかげで村は救われた。


 そして彼らは一つの決断をすることとなる。


 最近、発展が目覚ましいガルム領に行くことを決めた。


 アークからも「うちに来る気はないか?」と誘われ、村人たちは満場一致でガルム領に移住することを決めたのだった。


◇ ◇ ◇


 ガルム領は急激な発展していた。


 それによって慢性的な人手不足が起きていた。


 ランパードもなんとか手を打っていたものの、あまり効果的な対策はできず……。


 そんなとき、


「働けるやつを集めればいいだけだろう」


 とアークが言った。


 それができれば苦労はしない、というのがランパードの本音でもあった。


 良い人材などそうそう見つかるものではない。


 人口は急激に増えるものではない。


 今、領内でできることはほとんどやっていた。


 それでも人手が足りないのだ。


 しかし、ランパードはアークのことを信頼していた。


 何も考えずに「働けるやつを集めればいいだろう」などと何の解決にもならない意見を言うとは考えていなかった。


 そして実際、


「さすがはアーク様です」


 アークはやってのけたのだった。


 アークがやったことはシンプルだ。


 人口流入を加速させたのだ。


 移住者を募る話は以前からもしていた。


 ガルム領の悪評は少しずつ払拭されてきており、さらに隣の領地の評判があまり良くないことから、ポツポツと移住者が増えてはいた。


 ここ数年では、人口流出よりも人口流入のほうが大きくなってきた。


 しかし、そこから得られるインパクトは少なく、かつ、素行の悪い者も混じっていた。


 だが、アークは村ごと移住させることで、一気に人手不足の解消を図った。


 さらにアークが集めてきた人々は、善人でやる気のある働き者たちだった。


 加えてアークは、


「外からやって来る村人やからには、遠慮せんでいいぞ? 丁重におもてなしをしてやれ」


 と指示を出していた。


 そのおかげもあって、ガルム領の人々は移住者には”丁寧なおもてなし”を心がけていた。


 そして軍もいざこざが起きないように取締を許可していた。


 これによって移住者はすんなりとガルム領に馴染むことができた。


 人材不足という課題が解決されたことで、ますますガルム領は発展していくのであった。


 こうしてアークの意図せぬところで、領地の課題を解決したのであった。

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