31. 散歩
起きたら夜になっていた。
適当に飯を食ってから、散歩に行くことにした。
外を少し歩いていると、スルトがいた。
「……チッ」
スルトのやつ、オレを見て舌打ちしてきやがった。
まあ、舌打ちしたい気持ちもわかる。
オレが無理矢理に同行させたのだからな。
だが、意外にもスルトのやつは慰問をしっかりと行っていた。
「ご苦労」
「上から目線だな。さすが貴族様だ」
「上だからな。仕方ないだろう」
「……ムカつく野郎だ」
「ふっ」
ちょっと前はこいつの態度にムカついていたが、今でももう慣れた。
結局、こいつは口ではなんと言おうが、オレたち貴族には逆らえん。
むしろからかいがあって楽しい。
「質問がある」
「なんだ?」
「どうやったらそれだけ強くなれる?」
「聞いてどうする?」
「俺にはやらねばならないことがある。そのためには力が必要だ」
「たしかに力は必要だろうな。貴様にはないからな」
「てめぇ……」
スルトがブチ切れた。
ふはははは!
楽しいぜ!
「そう怒るな。怒るってことは事実だと認めてることだろう?」
「……無駄話はやめろ。さっさと強くなる方法を教えろ」
「ふっ。まあ、いいだろう」
オレはポケットから魔石を取り出す。
赤い魔石だ。
「なんだこれは?」
「魔石だ」
うちの鉱山で採れた魔石だ。
見た目が綺麗なのだが……実はこれ、ただのゴミだ。
魔石として使おうとしたが、全く魔力を引き出せず使い物にならなかった。
武器商人にも使い方がわからないと言われてさじを投げられてものだ。
ゴミだが、見た目が良いから捨てるのには惜しく、持ち続けていた。
「貴様には特別にこの魔石をやろう。ありがたく受け取れ」
「はっ、こんな魔石もらったところで……」
「じゃあいらんのか?」
「……」
「これを使えば、貴様はより強くなれる」
こいつをからかうための真っ赤な嘘だ!
「本当に強くなれるんだな?」
「正しい使い方をすれば、な」
「正しく……?」
スルトがまじまじと赤い魔石を見る。
そんなに見たところで、なにもないんだろうに。
だってこれ、ただのゴミだから。
スルトがハッと気づいたように目を見開いた。
「まさか……これはレーヴァテインの宝玉!? な、なぜお前がこれを?」
はっ、こいつ何いってんだ?
レーヴァテインの宝玉?
なんだそれ。
まあいい。
面白そうだし、適当に話を合わせておくか。
「偶然、うちの鉱山で見つけたものでな。どうせオレが持っていても意味がない。なら持ち主のもとに収まるべきだろう?」
「そ、そうだな……。それならありがたく受け取ろう」
馬鹿め!
こんな役にも立たん魔石を得たところで何の意味もない!
ゴミも使いようによっては役に立つな!
ふはははは!
やはり、平民をからかうのは楽しい!
これぞ悪徳領主の嗜みだぜ!
◇ ◇ ◇
赤い魔石――レーヴァテインの宝玉。
それは燃えるような赤い色をした魔石だ。
この魔石は、普通の人が使ったら全く使い物にならない。
魔力を一切引き出せない仕様になっているのだ。
スルトがこの魔石を持つことで初めて意味が生まれてくる。
スルトの持つ陽剣――レーヴァテイン。
ガードには、3つの窪みがある。
その窪みには魔石をはめ込むことができる。
魔石をはめ込むことで、レーヴァテインからより強大な力を引き出すことができる。
原作では、スルトがこの魔石を得るのはもっと後である。
しかし、この世界では幸運にも、早い段階で赤い魔石を得ることになった。
アークがゴミだと考え悪ふざけでスルトに渡したアイテムが、偶然にもスルトの強化に繋がったのだった。
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