30. ルインの疑問
ルインはアークの発動した魔法について寝る間も惜しんで考えていた。
そのせいでかなりの寝不足であった。
「アーク。ちょっと聞きたいことがある」
「なんだ?」
「あなたの魔法、変。どういう仕組み?」
わからないなら、直接アークに尋ねることにした。
「シャーリック理論を使っているからな」
「知ってる」
シャーリック理論を使わないと、アークの魔法を構築するには、膨大な演算量が必要になる。
しかし使ったとしても、その演算量はかなりのものである。
「私も演算してみた。でも無理だった。シャーリック理論使っても、アークの魔法が発動するには演算が足りない。不可能」
アークが使用した魔法。
たとえばその一つに”絶対零度”がある。
それをルインは演算してみた。
その結果、瞬時に発動させるのは不可能であることに気づいた。
「教えて。どうやってるの? 新しい理論を使っているの?」
「新しい理論などない」
「ほんと?」
「ほんとだ」
「じゃああれだけの演算をすべて頭の中でやっているの?」
「なにも全部頭で演算する必要はないだろ」
ルインは首をかしげる。
「
「
「じゃあ……」
ルインは考え込むように顎に手を当て、思考を巡らす。
そこでアークの言葉から、ハッと一つの答えに行き着いた。
何も
それはつまり、頭以外でも演算する方法があるということだ。
考えてみればすぐにわかることだ。
しかし、まさかそれをアークが実行しているとは考えてもいなかった。
自然と選択肢から除外していたのだ。
「まさか……刻印?」
「そのまさかだ」
ルインには理解できなかった。
たしかにシャーリック理論を用いた魔法式を全身に刻み込めば無詠唱は可能だ。
しかし失敗すれば死ぬ。
死ななくても、魔法式の暴走によって廃人になる可能性が高い。
狂気の沙汰だ。
「なぜ……そんなことを」
「守りたいものがあった。それだけだ」
ルインは、アークの覚悟のこもった目を見てドキッとした。
目をそらす。
「そんなにも守りたいの?」
やはりルインには理解できなかった。
死を覚悟してまでも守りたいものなど彼女にはなかった。
「絶対に守りたい
そのためには力がいる。誰にも文句を言わせない力がな」
ルインには、アークの守りたいものがなんのなのか知らない。
しかし、今までのアークの行動は”誰かのため”であった。
守りたい
それは家族か。
使用人か?
兵士か?
領民か?
友か?
あるいはそれら全てか。
ルインはすでに二度もアークに助けられている。
もしかすると、その守りたい
それはもやは狂気だ。
人一人が守れる範囲など、たかが知れている。
たとえ力があろうと、守れない者も出てくる。
いや、だからこそアークは危険を犯してまで力を手に入れたのかもしれない。
ルインは再びアークの目を見た。
アークの目に狂気が宿っているように見えた。
吸い込まれるように、魅入られるように、アークの
◇ ◇ ◇
なんかルインから変な質問してきたから、適当に答えてやった。
オレには守りたいものがある。
それは富と権力だ。
これだけは何があっても死守しなければならない。
だから頑張って魔法も覚えた。
王女と接して思ったが、やはり下の立場というのは耐え難い。
オレが今平民に落とされたら、発狂して自殺するだろう。
これほどの富と権力を味わってしまったら、もうもとには戻れない。
だからオレは今の地位をなんとしても守り抜いて見せる。
そして死ぬまで好き勝手に生きてやるぜ!
ハッハッハッ!
はあ……。
今日は疲れた。
寝よ。
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