29. 寝かせてくれ
町に到着した。
町は魔物に襲われたこともあり、酷い状態になっている。
どいつもこいつも暗い顔をしてやがる。
はあ。
やめてくれよな。
こっちまで気分が暗くなるってくるぜ。
ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ?
王女がいちいち平民たちに声をかけていく。
オレたちも同行させられる。
面倒だ。
なぜオレがこんなことをやらねばならない。
意味がわからん。
それも途中で、クソガキ共がオレに突っかかってきた。
7、8歳ぐらいのチビ共だ。
「いまさら来て何がしたいんだよ!」
とか言ってきやがる。
はっ、知るかよボケ。
こうしてオレが来てやっただけでも泣いて喜ぶことだぞ?
くそっ。
子供は理解度が低いから面倒だ。
はやく宿に泊まってゆっくりしたい。
「おにいちゃんはどこ?」
別の餓鬼が涙を流して訴えてきた。
知らんよ。
オレには関係のない。
貴様らの家族が死のうのが、貴様らが死のうがオレにとってそれは画面の中の出来事一緒だ。
オレに縋り付くな。
鬱陶しい。
「貴方の兄上を救えず、申し訳ありません」
突如、王女がチビガキどもに頭を下げた。
はっ、何やってんだ?
あんた仮にも王女だろ?
なに頭下げてんだよ。
「王女様。顔をお上げください」
近衛騎士が言う。
そのとおりだ。
王女が頭を下げてたら、悪いと認めているということだ。
王女よりも立場が低いオレだって頭を下げないといかんくなる。
悪くないのに謝罪するとかクソ食らえだ。
「マギサ様。貴方がすることは、民に頭を下げることなのでしょうか」
オレは諭すように王女に言う。
「安易な方に逃げないでください」
王女がようやく顔を上げた。
そしてオレを見た。
「責任を持つ者がその責務を果たせなかったのです。謝罪一つして、なんの問題がありましょう?」
「謝罪して何が変わりますか? 貴方の心が救われるだけでしょう。自己満足に過ぎません」
「では、私にどうしろと?」
「この惨状を救えなかったことを悔いるなら、その目に刻み込んでください。そして決して忘れないでください」
下手な謝罪など不要だ。
そんなもので本当に救っているつもりなら、それこそ民を馬鹿にしている。
民を馬鹿にするな、とは言わん。
馬鹿にしたいなら、勝手に馬鹿にすれば良い。
オレがムカつくのは、王女の行いが王族、ひいては貴族を貶めているということだ。
つまり、それはオレの権力にも影響が出てくる。
だから王女には、なるべく王族らしくしていてもらわなければ困る。
「
「……」
王女がグッと何かを堪えるように下を向いた。
◇ ◇ ◇
慰問会っていうクソイベントがようやく終わった。
王女の演説で涙してるやつらがいたが、オレはあくびを噛み殺すのに必死だった。
人が死んだ?
可哀想?
んなこと考えねーよ。
この世界で死なんてありふれてる。
知らないやつらが何人死のうとオレにも関係ない。
同情はする。
力もなくただ蹂躙されるだけだったのは可哀想だと思う。
だが、やはりオレには関係のないことだ。
近衛騎士ってやつも大変だな。
こんな王女様のお遊びなんかに参加させられて。
オレは絶対騎士になんてならない。
誰かのために命を張るなんて死んでもゴメンだね。
オレはオレのために生きる。
むしろ周りがオレのために生きるべきだと思っている。
オレのような偉い人間はそれが可能だ。
生まれながらにしての勝ち組。
最高だね。
前世のクソのような生活を考えれば、この世界でのオレは恵まれすぎている。
まさに天国のような世界だ。
ただ、そんなオレでも気に食わんやつがいる。
オレよりも偉いやつらだ。
特に王女。
オレをこんなクソイベントに突き合わせやがって。
慰問会ってやつが終わると、ソッコーで宿に戻った。
町一番の高級宿だ。
まあ田舎の町だから、町一番といっても大したレベルではない。
だがそんなことはどうでもいい。
オレはいま疲れてる。
ようやく解放されたオレはベッドで倒れる。
だが、
――トントン
ノックされた。
誰だ?
オレは寝たいんだよ、鬱陶しい。
寝かせろ。
扉を開けると、餓鬼がいた。
たしか、オレを睨みつけてきたハウベっていうクソガキだ。
誰だ、この餓鬼を中に入れたやつは。
騎士団ちゃんと仕事をしろよな。
オレは伯爵なんだぞ?
警備が雑だと訴えてやろうか?
それでクビにしてやろうか?
餓鬼はオレを睨みつけてきた。
「なんで助けなかったんだよ! お前たちがもっと早く来てれば、うるふ
こいつは頭が湧いてんのか?
なぜオレが助けなくちゃならない?
「……お前たちは力があるんだろ! 魔物だって倒せるんだろ! なにの……なんでっ!?」
「助けを待ってる貴様が悪いだろうが」
「……ッ」
平民のくせに何を期待してんだ。
「力がないのは誰だ? 助けられなかったのは誰だ?」
平民として生まれてきた自分自身を恨むんだな。
ハッハッハッ!
オレのように恵まれた生まれじゃないことを恨め。
「そんなの……俺にはどうしようもないじゃないか……」
「じゃあ諦めろ。諦めて奪われろ。奪われるだけの人生を生きていけばいい。だがな、それで誰かを恨むのは筋違いだ」
妬みを抱きたい気持ちはわかる。
オレのようにすべて恵まれた完璧超な人生の勝ち組を見たら、誰だって妬みたくなるだろう。
まあこいつにどう思われようが、痛くも痒くもないがな!
むしろ、オレの優越感を満たしてくれる!
せいぜい妬み、恨むと良い!
餓鬼は「くそっ」と捨て台詞を行ってから、逃げるように去っていった。
ハッハッハ!
オレの偉大さに負けたようだな!
――トントン
ん?
また餓鬼か?
「失礼」
公爵令嬢だった。
……なんのようだ?
ていうか、オレを寝かせてくれ。
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