26. デカクロゴーレム

 ふはははは!


 ゴーレムなんて楽勝だぜ!


 黒いやつは多少耐久力があるようだが、まあオレにかかれば大したことはない。


 ゴキブリよりもちょっと生命力が強いだけの人形だ。


 オレに敵うわけがないのだ!


 ははは!


 なんてことを考えながら黒ゴーレムを倒しまくった。


 なんか赤髪野郎と公爵令嬢がいた。


 珍しい組み合わせだ。


 まあどうでもいいことだが。


 ところで、演習はいつ終わるんだ?


 そろそろ飽きてきたんだが。


「アーク」


 公爵令嬢が声をかけてきた。


 なんだ?


 オレはいま忙しいんだ。


 はやく演習を終わらせなきゃいかんのだ。


「ありがとう。また助けられた」


「勘違いするな。助けたつもりはない。たまたま貴様らがそこにいただけだ」


 オレが誰かを助けるなんてありえない。


 オレはオレのためだけに生きてるのだからな!


「それでも助けられた事実に変わりない」


 まあそういうなら勝手にしとけ。


「お前はっ……なんなんだ! なんでいつも現れるんだよ!」


 スルトが突然、つっかかってきた。


「俺の覚悟を邪魔しやがって。あいつらは俺が倒すはずだった! お前がいなければ俺がッ!」


 こいつウザいな。


「貴様、身の程を知れ」


 オレはやつの下半身を凍らした。


「……!?」


「愚鈍な犬はよく吠えるというが、貴様も犬畜生と同じか? 吠えるだけが取り柄なら、その口を封じてやらんでもない」


 オレはフラストレーションが溜まっている。


 早く帰りたいんだよ。


 こんな平民を相手にしてる時間はない。


「なんでお前はいつも俺の上を行くんだ……」


「それは貴様よりも俺が上にいるからだ。だから言っただろうが。身の程を知れ」


「……ッ」


 赤髪野郎が睨んでくるが、もう知らん。


 こいつに構ってる時間がもったいない。


「――――」


 突如、地面が大きく揺れた。


「なに、あれ……」


 ルインが空を指差す。


 そこには巨大な黒ゴーレムが立っていた。


「なるほどな」


 わかったぞ。


 あいつが今回の演習のラスボスだな!


 つまりあいつを倒せばこのクソみたいな演習は終了するわけだ。


「何がなるほどなんだよ」


「あいつを倒せば終わりってことだ」


「……あんなの無理だろ」


「ならばそこで指を加えて見ておけ。あいつはオレ一人で十分だ」


 でかいだけで、所詮はゴーレムだ。


 オレの必殺氷魔法で一発KOしてやるよ!


◇ ◇ ◇


 マギサ第二王女は、アークに諭されてから平等について考えてきた。


 そしてノブリス・オブリージュという考えに至った。


 しかし、そこから彼女は思い悩んだ。


 義務を果たそうにも、マギサはなにをすれば良いのかわからなかったのだ。


 そして日が過ぎ、マギサは演習に参加していた。


 この演習では、マギサの護衛はいなくなる。


 代わりに生徒たちがマギサを守るように囲んでいる。


 取り巻きたちは常にマギサを持ち上げる。


 マギサが魔法を使う度に、ゴーレムを倒す度に、マギサを褒め称える。


「素晴らしいです。王女殿下」


「さすが神の血を引くお方です」


 こういうのをマギサは嫌っていた。


 同じ目線で接して欲しいと願った。


 だから平等を願った。


 だけど、その願いはマギサの都合だった。


 マギサは自身の孤独を癒やすために平等を願っていたのだ。


 その浅はかな考えをアークに指摘された。


 しかし、考え方を変えたところで現状は変わらなかった。


 そして、


「きゃあああ!」


 演習で黒ゴーレムが現れた。


 黒ゴーレムたちは執拗にマギサを狙ってきた。


 他の生徒たちはマギサを逃がすために囮になった。


 結局マギサは、平等を目指していると言いながら、生徒たちを囮にして逃げることしかできなかった。


――最低ですね、私。


 マギサは一人になった。


 逃げて逃げて……。


 そして……。


 彼女のもとに巨大な黒ゴーレムが現れた。


 マギサは呆然と黒ゴーレムを見上げた。


 逃げた先で、最も厄介な的に出会ってしまった。


「―――」


 マギサもゴーレムを操る魔法――人形魔法オート・マジックを扱える。


 幼い頃のマギサは友人と呼ばれる存在が欲しかった。


 最初は流木を使って人形を作った。


 そして次に人形を操る魔法を覚えた。


 人形魔法オート・マジックは操作魔法の応用だ。


 自動オートという名の通り、術者の組み込んだ命令の通りに物質を動かすことができる。


 人形魔法オート・マジックの最終到達地点は、生物を創造することだと言われている。


 と、余談はさておき。


 マギサの扱う人形魔法オート・マジックは、この巨大な黒ゴーレムと比べると、ただの人形遊びに過ぎない。


 つまり、今のマギサでは敵わないということだ。


「すべて、あなたのせいよ」


 突如、黒ゴーレムが口を開いた。


 どこか聞き覚えるある声で、黒ゴーレムは語りかけてきた。


「なにを……言っているのです?」


「知らなくて良いのです。何も知らずに死になさい」


 黒ゴーレムの巨大な手のひらがマギサに落ちてきた。


「あっ……」


 マギサは呆然とつぶやいた。


 恐怖で、目の前に迫りくる巨大な手に逃げることができなかった。


 と、そのときだ。


――絶対零度アブソリュート・ゼロ

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