23. 演習

 はぁ……めんどくせぇ。


 クソめんどくさい演習がある。


 とある島に行って、そこでサバイバルをするというものだ。


 オレのような高貴な者にとってサバイバルなんてありえない。


 だからオレは全力で反対した。


 嫌すぎて、学園長に直談判した。


 なんか最近色々と物騒だからって理由で、学園長に演習を中止させるように詰め寄った。


 だが学園長は笑ってオレの話を無視した。


 クソがッ。


 だから学園は嫌なんだよ。


 オレの権力が通じないとことはクソだ。


 オレの都合ではどうしようもないことが多すぎる。


 久しぶりに家に帰りたくなってきたぜ。


 あそこなら領民も使用人も妹も全部オレの言うとおりだからな!


 まあいい。


 オレはいかに優雅に演習を切り抜けるかを考えることにした。


 演習は3日間もある。


 それも全員強制参加のクソイベントだ。


 ゴーレム相手に3日間戦い続けるというやつだ。


 ちなみにゴーレムは魔法学園の教師が作成したものだから、命の危険はない。


 まあそんなことはどうでもいい。


 この演習。


 ゴーレムにやられたらリタイアになる。


 つまり早く終わらせたければリタイアすればいい。


 だが、オレのような高貴なものが、たかがゴーレムに遅れをとるなんて許されるだろうか?


 否!


 許されない!


 断じて許されない!


 クソ面倒なことだが、オレはゴーレムを倒し続ける必要がある。


 しかし、3日間もサバイバルするなんて気が狂いそうだ。


 それも持ち物も制限されると来た。


 最悪だ。


 オレに死ねと言ってるようなものだ。


 だが、このサバイバル、唯一はやく終わらせる方法がある。


 すべてのゴーレムを倒すことだ。


 そうすれば強制的に演習終了となる。


 ならオレがやることは一つだ。


 一日でゴーレムをすべて駆逐し、演習を終わらせることだ。


 オレならできる。


 ついでに、カミュラを試験に忍び込ませることにした。


 カミュラには「(オレが)無事演習を終えるよう裏で手を引け」と命令を下した。


 やることは簡単だ。


 ゴーレムを倒せ、とただそれだけだ。


 すると何故かカミュラのやつは「闇の手の者が関わってくるのでしょうか?」と聞いてきた。


 んなわけないだろ。


 さすがにオレも「闇の手の者とか関係ない」と言っておいた。


 そしたらカミュラが首をかしげていた。


 貴様のその設定を忠実に守る姿、嫌いじゃないぞ?


◇ ◇ ◇


 演習当日になった。


 チームを組まされたが、そんなの知らん。


 オレは一人で動くことにした。


 他の奴らもオレには文句を言えないようだ。


 そうだろう?


 だってオレはガルム伯爵様だからな!


 オレはオレのやりたいようにやる。


 他人と歩調を合わせるなんてクソ食らえだ。


 ということで、さっさとゴーレム狩りを始めた。


 ゴーレム狩りは楽しい。


 ひたすら氷漬けにしまっていく。


 昔は山賊相手に魔法をぶっ放していたな。


 あの感覚に似ている。


 ゴーレムはうじゃうじゃと湧き上がってきた。


 どれだけいようが、オレの相手ではない。


 オレの才能の前ではすべてがゴミ同然なのだからな!


 ふはははは!


 何もかも凍らせてやるぜ!


◇ ◇ ◇


 一年生全員で行われる演習。


 毎年多くのリタイアを生む。


 ゴーレムがトラウマになり、学園を退学するものさえ現れるほど過酷なサバイバルだ。


 だが今年は例年とは大きく異なっていた。


 アークがゴーレムを一人で狩りまくっていたからだ。


 ゴーレムを倒すのは難しい。


 生物と違ってゴーレムは痛みを感じず、また生物ではないため弱点も少ない。


 基本的にゴーレムは魔石を核として動いている。


 その魔石を壊せば活動が停止する。


 逆にいえば魔石を壊さなければ首を切ろうが動き続ける。


 魔石は体内に埋め込まれているが、ゴーレムの体は硬いため、魔石を壊すのは容易ではない。


 非常にやっかいな相手である。


 しかしアークからすると、全くもって楽勝な相手である。


 ゴーレムを氷漬けにし、粉々にするだけで良いのだ。


 アークの活躍もあってか、ゴーレムは例年では考えられないスピードで数を減らしていったのだ。


◇ ◇ ◇


 あらかたゴーレムを狩った。


 ずいぶんと時間がかかっちまったが、日が暮れる前には一掃できそうだ。


 そろそろゴーレム狩りにも飽きてきた。


 山賊狩りのときはもっと刺激があった。


 山賊はいきり散らし、わめき散らし、命乞いをしてきからまあまあ楽しめた。


 だがゴーレムは命乞いなんてしてこないし、全部同じような動き出し、正直退屈だ。


 さっさと片付けて家で寝よう。


 豪華なベッドでな!


 わーっはっはー!


 オレは貴族だからな!


 平民では一生眠れないようなベッドで寝てやるのさ!


 これぞブル、ジョワ、ジー!!


 はやく豪華なベッドにダイブしたいぜ。


 そのためにもゴーレムを狩らないとな。


 オレはゴーレムを探しに島を散策した。


――ゴゴゴッ


 ゴーレムが現れた。


 ふむふむ。


 なんかこいつ、いつものやつとは雰囲気が違うな。


 そもそも色が違う。


 さっきまで狩っていたゴーレムは茶色なのに、このゴーレムは黒色だ。


 まあいいか。


 やることに変わりはない。


 オレはもはや作業のようにゴーレムを氷漬けにする。


 だが――


――パリンッ


 は?


 ゴーレム風情がオレの氷魔法を破りやがった。


 ハハッ。


 図に乗るなよ、人形風情が。


 貴族のオレの本気を見せてやろう!


 ゴーレムが近づいてくる。


 そして不敬にも、オレに殴りかかってきやがった。


絶対零度アブソリュート・ゼロ


 ゴーレムが一瞬で動きを止めた。


 ふはははは!


 どうだ見たか、人形野郎め!


 無詠唱魔法と詠唱魔法をかけ合わせたオレだけのオリジナル技だ。


 オレがこの技を使って生き残れた者は、いまだかつて一人もいない。


 貴族であり、天才であるオレに不可能はない!


 ゴーレムは動きを停止したまま、バタンと音を立てて倒れた。


 ふっ。


 ゴーレムごときがオレに勝とうなんて1億万年速いぜ。

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