16. 第二王女

 魔法学園って、学校なのに無駄に豪華なんだよなー。


 前世では小中高と普通の公立校に通っていた。


 こんな豪華な学園に通えるなんて、貴族様々だぜ。


 それも貴族は試験もせずに入学できた。


 最高だぜ!


 ちなみに平民どもは必死こいて試験に受かって入ってきたらしい。


 まあこれが身分の違いってやつよ。


 ふはははは!


 既得権益、美味しすぎるぜ!


 ちなみにオレの調べでは、同じ学年に王女と公爵令嬢がいるらしい。


 この二人とは絶対に関わらないようにしよう。


 偉いやつと関わると、オレが威張れないから。


 逆にいえば、そいつら以外ならオレは威張れるわけだ。


 威張り散らしてやる。


 入学式で学園長が「みな平等に学問に励みたまえ」などと抜かしていたが、平等なんか糞食らえだ。


 生徒会長のメデューサとかいうやつも、


「この学園は平等の上の実力主義を掲げております。

私も自分の実力でここまで上り詰めてきました。

みなさん、この魔法学園で勉学に励み、そして仲間たちとともに切磋琢磨してください。

家柄に関係なく誰にでもチャンスはあります。

しかし、それをものにできるのは、努力を続けた者のみです」


 などとほざきやがった。


 オレは笑いを堪えるのに必死だった。


 そう言っているメデューサはオレと同じ伯爵だ。


 家柄に関係なく?


 笑わせるな。


 さらにメデューサは誰が見ても美しいと感じる容姿をしていた。


 結局は生まれもったやつが上から目線でほざいてるだけだ。


 実力もクソもない。


 オレは金と権力を使いまくって、好き放題やってやるぜ!


 まずは金持ちアピールをするところからだ。


 この学園には平民用の食堂と貴族用の食堂がある。


 オレが行くのはもちろん、貴族用の食堂……ではない。


 平民用の食堂だ。


 貴族用の食堂に行ったところで、オレよりも偉いやつがいたら威張れないからな。


 平民用の食堂なら、確実にオレよりも身分が低いやつらしかない。


 そこで一番高い料理を頼んで、平民共に見せつけながら食べるのだ。


 ふははは!


 平民共は泣いて悔しがるだろうな!


 それを見ながら飯を食えるなんて……これこそ最高の贅沢というものだろ!


 オレはさっそく平民用の食堂で一番高いメニューを、みんなに見せつけるように食べた。


 平民共は食い入るようにオレを見てきた。


 羨ましかろう!


 さぞ悔しかろう!


 ふはははは!


 平民用の食堂とはいえ一番高いメニューはそこそこ値がする。


 オレにとってははした金だが、平民にとっては大金だ。


 それは平然と食べるオレは、まさに特権階級!


 これほど楽しいことはないな!


 フハハハハハハ!


◇ ◇ ◇


「敵いませんね」


 マギサは独り言を言う。


 学園長がわざわざ入学式で”平等”といったことには意味がある。


 貴族と平民の垣根をなくし、魔法を発展させるためだ。


 実際、学園長の尽力によって、過去にはシャーリックのように平民でも優秀な者が首席として学園を卒業した例がある。


 魔法を貴族の特権として捉えている限り、大きな技術革新は起こらない。


 それでは競争に負けてしまう。


 誰もが平等に切磋琢磨できる環境を作りたい、というのが学園長の考えである。


 しかし、そうはいうものの両者の隔たりは大きく、簡単に取り除くことはできない。


 その第一歩となることをアークは平然とやってみせた。


 学園長の言葉を汲み取り、それをすぐに行動に移す胆力に、マギサは驚きと感心をいだいた。


 自分にはない力だ、と。


 マギサは良くも悪くも周囲の期待に応えようとしてしまう。


 周りが彼女を王女として見るから、彼女は王女としての振る舞いを意識し過ぎてしまう。


 ”王族は神の子”と言われている。


 王族として生まれた瞬間から、大きな責任と義務を負っているのだ。


 マギサにはアークの姿が眩しく見えた。


 貴族たちの反感を買うことを厭わず、平等を実現させようとする姿に感動すら覚えた。


 これを期に、アークとお近づきになりたいと考えた。


 だがもちろん、アークは平等など一ミリも考えていない。


 むしろ、彼は平等なんてくそくらえと考えている。


 貴族として好きなように振る舞っただけだ。


 しかし、なぜかアークの行動は周囲の勘違いを生んでいくのだった。


◇ ◇ ◇


 マギサ第二王女。


 主要キャラの一人であり、ヒロインとも呼べる存在だ。


 後々彼女は原作主人公のことを慕うようになる。


 しかし、その際に障害として現れるのが貴族と平民の壁だ。


 第二王女である彼女と平民の主人公には大きな壁がある。


 二人の恋愛には常にその問題が関わってくる。


 王族には、自由恋愛など許されないのだ。


 ちなみに物語終盤では、国がめちゃくちゃになり、恋愛どころの話ではなくなるのだが……。


 と、それはさておき。


 マギサにとって平等というのは大きな意味を持つ言葉なのだ。


 それはマギサが王族という立場上、常に周囲から距離を取られて生きてきたからだ。


 彼女には、友人と呼べる者も心を許せる者も一人もいなかった。


 また父であり、王であるウラノス・サクリ・オーディンはマギサのことを忌み嫌っていた。


 というより、ウラノスはマギサだけでなく、第一王子であるクロノス・サクリ・オーディンを嫌っていた。


 そして第一王子であるクロノスはマギサに興味がなかった。


 眼中になかったのだ。


 クロノスの目には、常に王であるウラノスが映っていた。


 そんな環境下で育ったマギサは人とのつながりに飢えていた。


 だからこそ、彼女は平等を実現し、誰とでも仲良くなれる世界を欲していた。


 原作では、王女は”平等とは?”という問いに対し、主人公とともに考えていく。


 しかし、アークの介入によって未来が少し変わってしまった。


 マギサはアークに関心を抱いてしまったのだ。


 こうして、また原作とは違う方向に物語が進んでいくのである。

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